39話
……仕事にならなかった気がします。
結局、レオンハルト様とミルアさんの雑談に巻き込まれたような形になっていたため、まとめなければいけない報告書は進んでいません。
ですが、私と違って雑談をしていたわりにレオンハルト様は報告書をまとめ上げており、エルザード様とお話をされに行ってしまわれました。
納得がいかない気がするのですがこれでようやく自分の仕事に戻れると気合を入れ直します。
「フロース=フロウライト、順調か?」
……しかし、私の気合は無駄に終わりそうです。
気合を入れ直した直後にドアを叩く音が聞こえ、返事も待たずにドアが開きました。
「……せめて、返事が有ってからドアを開けてください」
「なぜだ?」
「……もう良いです」
当たり前のように部屋の中に入ってくるルーディス殿の姿に大きく肩を落としてしまいます。
ですが、ルーディス殿は私の言葉の意味がまったく理解できないようで首を捻っています。言うだけ無駄だと言うこの状況にため息が漏れました。
それでもルーディス殿は気にする様子はなく、先ほどまでレオンハルト様が腰を下ろしていたイスに座ります。
「何かご用ですか? 私は見ての通り、忙しいんですけど!?」
書きかけの報告書を見せて忙しい事を伝えた時、口の中に何かが放り込まれます。
驚きむせだしそうになるのですが、口の中、一杯に甘味が広がりました。
「ミルア=カロンが先ほど休憩に持って行ったお茶菓子に手を付けなかったと心配そうな顔をしていたからな」
「……あまり食べすぎると眠くなってしまいますから、それにミルアさんや先輩に付き合っていてはいけない気がします」
「レストも大概だが、あれでミルア=カロンも糖分の摂取量はおかしいからな」
吐き出す必要なない物だと理解するとルーディス殿はテーブルの上にお皿を置きます。
そのお皿の上には一口大のシュークリームがいくつか載せられており、首を傾げているとミルアさんが私の事を心配してルーディス殿に持たせてくれたようです。
私も糖分の過剰摂取をするとお腹の辺りが気になるので見極めくらいはします。レオンハルト様の雑談の相手をしているミルアさんのお腹の中に多くのお茶菓子が消えて行っていた様子を思い出して眉間に深いしわが寄りました。
ルーディス殿も同じ事を思われたようで小さくため息を吐きます。
「……あれは絶対に太ります」
「だろうな。ミルア=カロンも気にはしているようだ。レストが妬ましいと言っていたな」
「先輩、昔から体型変わりませんよね……むしろ、痩せていませんかね?」
あの量を食べるミルアさんと一緒にして欲しくない。
ただ、彼女も体重の事は気にしているようであり、体型の変わらない先輩の事を羨ましくは思っているそうです。
確かに先輩と出会った時から今も体型は変わっていない。それどころか胴回りを触ってみた事はありませんが以前より、細くなっている気がします。
正直、羨ましい気がするのですが……先輩の場合は食べた分をすべて消費するくらいの激務をこなしているとも言えます。
「痩せて言っているだろうな。あいつは外交面で多くの事を頭に入れておかなければいけない。それは報告書で上がってきた物だけではなく、自分で調べてきた物も使用するからな。あれでかなり動き回っている」
「……やっぱり、歩くのは必要なんですね。私も見習わないといけませんね」
「歩けば脂肪は消費されるからな。ただ、私としては消費されなくても良い脂肪もあるとは思う」
フェミルア領内でも先輩は私達以上に歩き回って領民達からお話を聞いていました。
あの表情のせいで怖がられてはいた物の話のかみ合わないルーディス殿より、最終的には領民達とも受け入れられていたようにも見えました。
レクサス家からフェミルアの復興に来てくれた若い方達もレクサス家に仕える前に先輩とロゼット殿が何度も足を運んでオーミットからの難民の仕事を探すのに協力したとも聞いています。
先輩と私の王城での仕事を比較すれば私は王城の中で報告書をまとめていただけとも言えます。改めて、仕事は違っても先輩は私の尊敬する方だと思っていた時、ルーディス殿の視線が私の胸に向けられている事に気が付きました。
「……ルーディス殿、どこを見ているんですか?」
「気にするな」
「気にするなと言われて、はい、そうですかと言えるとお思いですか?」
せっかく、目標を再認識して良い気分だったのにルーディス殿のせいで台無しです。
込みあがってくる怒りを何とか抑えながらも彼の行動について問いただすのですが彼はまったく気にする事無く、私の胸を覗いたままです。
さすがに我慢できずにテーブルを叩くとルーディス殿はこれ以上、私の胸を見ていられないと思ったようで舌打ちをします。
「……ルーディス殿、以前からも言っていますが、私の胸を見るのは止めていただけませんか?」
「なぜだ? そこに巨乳があるんだ。見なければ失礼だろう?」
「見る方が失礼です!!」
大きく深呼吸をしてから、言い聞かせるように言うのですがルーディス殿にとっては女性の大きな胸は観賞対象のようで迷う事無く言い切られてしまいます。
その言葉は何とか押さえていた私の怒りを限界点まで引き上げました。我慢できずにテーブルを両手で叩いて怒鳴りつけてしまうのですがルーディス殿の表情は変わる事はありません。
「聞いているのですか!!」
「聞いているが落ち着け。血圧が上がりすぎると血管が切れるぞ」
「血圧を上げているのは誰ですか? いつも、いつも人の胸だけを見て、私には胸にしか価値はありませんか!! 私にルーディス殿にとってそれだけの人間ですか!!」
彼の態度に怒りが収まらずに意味の分からない事を口走ってしまいました。
これでは私がルーディス殿に自分の価値を見出して欲しいと言っているようにも聞こえます。
それどころか、まるでルーディス殿に何かを期待しているような言葉です。
なぜ、自分の口からこのような言葉が出たかが理解できません。これでは私がルーディス殿の事を意識しているように聞こえます。
レオンハルト様の手のひらの上で踊らされているような気しかしません。
……どうして、こうなったのでしょうか?
フロース、暴発。(苦笑)
次回は少し前のルーディス視点(予定)です。




