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ひとくちの魔法  作者: 紫音
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3話

……気が重いです。

王城からレクサス家はそれなりの距離があります。

私がレスト先輩からお話を聞く事は確定された事であり、王城を出たらすでに馬車が用意されていました。

馬車に揺られているなか、レオンハルト様は左遷ではないとおっしゃられていましたがどうしても左遷としか思えません。

話を聞かなくてはいけないのはわかっているのですが、気は乗りません。このまま、レクサス家に到着しなければ良いのに……そんな事を考えていても無情にも時は進みます。


レクサス家のお屋敷の前に到着すると馬車から下ろされてしまいました。

中に入りたくないせいか、レクサス家のお屋敷は禍々しい気配を放っているように見えてしまいます……けして、レスト先輩の無表情な顔に怯んでいるわけではありません。

それでもお話を聞かないわけにはいきません。気合を入れるように両頬を軽く2回叩き、深呼吸をするのですが足は動きそうにありません。きき

レクサス家まで運んでくれた方は帰りも私を送り届けるのがお仕事のようで早くしてくれと言う気配を背後から感じます。


……後ろからの重圧に耐えきれず、お屋敷の玄関まで移動するのですがドアを叩く事ができません。


「レスト様に何かご用ですか?」

「ひゃう!?」


迷い動く事ができなかった私の背後から女性の声が聞こえ、おかしな声が漏れてしまいました。

慌てて振り返るとレクサス家のメイド服に身を包んだかわいらしい女性がほうきを手に立っていました。


「は、はい。あの、フロース=フロウライトです。あの、上司から先輩……レスト=レクサス様に会うようにと言われて」

「……大丈夫。大きければ良いわけじゃない。そう思いたい。それにまだ成長の余地はあるはず」

「あ、あの」


見つかってしまったため、逃げるわけにも行かず、深呼吸をして息を整えます。

レスト先輩への面会を求めるのですが女性は私の胸をまじまじと見た後、ぶつぶつとおかしな事をつぶやいておられます。彼女の様子に何があったかわからずに腰が引けてしまいました。


「も、申し訳ありません。フロース=フロウライト様ですね。レスト様からうかがっております」

「そ、そうですか。あの」

「レスト様のところに案内させていただきます」


女性は深々と頭を下げた後に、姿勢を正しました。その様子は先ほどおかしな事をつぶやいていた方と同一には見えませんでした。戸惑っている私に女性は笑みを浮かべるとお屋敷のドアを開けます。

先ほどまで怯んでいたのですが、ここまで来ると逃げるわけにも行きません。大きく深呼吸をしてお屋敷の中に踏み込みます。

それと同時に身体が押しつぶされるような重圧を受けたような気がしました……こ、怖くない。先輩は表情が変わらないだけで優しい人。きっと、左遷と言うのは私の勘違い。レオンハルト様も左遷じゃないと言っていたし、何も問題ないはず……


「あの、大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが」

「だ、大丈夫です。せ、先輩とお会いするのはひ、久しぶりなので心臓が止まりそうなだけです」

「……お気持ちはわかりますが取って食べられるような事はありませんのでご安心ください」


私の異変に気が付いたようで女性は心配そうな表情で聞いてきます。声が震えます。自分に言い聞かせるように言い、笑顔を作るのですが女性は私の考えが理解できているようで困ったように苦笑いを浮かべています。

……確かにこのお屋敷に仕えている方も同じ事を考えるのですから私の感覚はおかしくないはずです。


「フロース様、もしよろしければ中庭にレスト様をお連れしましょうか? レスト様のおられる書斎は逃げ道がないように感じられるため、窮屈でしょうし」

「お、お願いします。あ、あの、お名前をお聞きしても良いでしょうか?」


女性は私の不安を感じ取ってくれたようで、凄くありがたい提案をしてくれました。その提案に飛びつくように頷くと女性は小さく頷いてくれました。雇用主である先輩を怖がっているのにイヤな表情を見せないこの女性の働きに自分が恥ずかしくなってしまいます。彼女のお仕事への態度を見習おうと思いました……と言うのは建て前でこのレクサス家に仕える方です。もしかしたら、先輩に怯まないコツがあるかも知れません。少しでもお話を聞くために話しやすいようにと名前を尋ねます。


「失礼しました。ミルア=カロンです」

「ミルアさんですか? あの失礼ですがお年は?」

「今年で22になります」


……1つ年下のようです。玄関の前でおかしな事をつぶやいていた事に目をつぶれば落ち着いているように見えます。やはり、あの先輩の視線に触れていれば自然に度胸が付くのでしょうか?


「フロース様、どうかしましたか?」

「い、いえ、あの、ミルアさんはレクサス家で働き始めて長いのですか?」

「そうですね。今年で10年になります」


……10年? それくらい関わっていないといけないと言う事でしょうか? いえ、すでにかなり前からなれている可能性を信じましょう。

先輩には何年でなれたか聞き出そうとするのですが、緊張しているのでしょうか、口の中が渇きます。

それでも聞かないと行きません。もし、左遷だとしても先輩から口添えをして貰えば、王都に残れる可能性だってあります。


「あの、ミルアさんはレスト様の視線にいつ頃、なれたのですか?」


……視線をそらされました。こ、これは私のような人間の気持ちがわかると言うだけで彼女も何の問題も解決させていないと言う事なのでしょうか?

ミルアさんの様子に一気に不安が膨れ上がります。先輩がお優しい方だと言うのは知っているんですよ。それでも苦手なんです。


「な、なれる必要はありませんよ。いつか、開いてはいけないドアが開きますから、い、いえ、開かれても私としては困るのですが」

「そ、そうですか?」


……ちょっと理解できません。視線をそらしたミルアさんは頬を赤らめています。その様子に触れてはいけない物に触れてしまった気しかしません。逃げ道を作っていただいた彼女に逃げ場のないところに閉じ込められた気分です。考えていた以上にレクサス家は恐ろしいところであり、顔が引きつってしまいます。


「それではここでお待ちください。ただいま、レスト様をお連れしますので」

「は、はい」


正直なところ、ミルアさんにお話を聞かなければ良かったと後悔しながらも彼女の案内で中庭に到着しました。

中庭に置かれているイスに私を誘導したミルアさんは深々と頭を下げた後、先輩を呼びに行ってしまいます。

も、もう少し時間が欲しいところですがそうもいかないため、何とか落ち着こうと深呼吸をした時、お屋敷の塀に上から銀色の長い髪を後ろで束ねた男性が顔を覗かせました。


不審者?


そう思った直後、男性は当たり前のように塀を乗り越えて中に入ってきました。

突然の事にどう対応して良いかわからずにいる私に男性は近づいてくると私の胸を食い入るように見ました。


「ふむ。この時間帯に見なれない人間、送られてくると言う先生の部下か? 名前は確かフロース=フロウライトと言ったか?」


……私の胸をまじまじと覗き込んだこの男性がどうやら私が左遷されるフェミルアの領主代行である『ルーディス=フェルミルア』殿のようです。


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