22話
……良いのかな? プロジェート家のご当主様はルチアさんのこんな姿を見たら怒るんではないでしょうか?
エルザード様のお部屋まで移動したわけですがルチアさんは今も白目を剥いたままです。
私の心配を余所にサラさんはエルザード様のお部屋のドアを叩きました。中からはすぐにエルザード様の返事が有ります。
サラさんは私も同席している事を説明してくれ、入室の許可がおりました。
「失礼します。ルチアお嬢様をお連れしました」
……そうなりますよね。
入室の許可にサラさんはドアを開きました。
エルザード様はほとんどお部屋にいるためか、初めてサラさんの小脇に抱えているルチアさんを見るようで驚いた表情をしている。
その様子に私は苦笑いを浮かべるしかないのですが実の娘をこのように運ばれている事にプロジェート家の当主様はお怒りにならないのでしょうか?
先代の領主様と古くからの友人とは聞いていますがいくらなんでもこれは怒られるのではないかとプロジェート家の当主様へと視線を向ける。
……そして、その当主様の姿を見て、私の眉間には深いしわが寄ってしまいます。
普通は怒るであろうこの状況にも関わらず、当主様はテーブルを叩いて笑い声を上げています。
その姿に戸惑っているのは私だけではなく、エルザード様も同じようで顔を引きつらせています。サラさんだけは気にする事無く、テーブルを囲んでいるイスにルチアさんを座らせると頭を下げてお部屋を出て行ってしまいました。
取り残された私はどうして良いかわからないのですが、エルザード様に席に着くよう促されて席に座ります。
「ブライト様、フロース=フロウライト殿です。現在、フェミルアの復興を手伝っていただいています」
「フロース=フロウライトです」
エルザード様はルチアさんの父親の『ブライト=プロジェート』殿の紹介をしてくれます。
ブライト殿は先ほどまでテーブルを叩いて笑っていたにも関わらず、表情を引き締めました。
表情を引き締めたブライト殿は先ほどとは違い、威圧感を放っています。
……小さな商家だと思っていましたけど、さすがは商売の中で生きてきた方と言う事でしょうか?
生きてきた時間の差なのでしょうか? ブライト殿の様子に背中に冷たい物が伝います。
「ブライト=プロジェートです。あなたのお話は若きレクサス家の当主から聞いています」
「わ、若きレクサス家も当主? せ、先輩とお知り合いなんですか?」
しばらく、私の事を観察したブライト様は笑顔を作ると私の事を知っていると言われました。
その言葉に驚きの声を上げてしまいます。せ、先輩の知り合いだと聞き、どこか緊張が解けるのですが意味は解りません。
状況を整理する必要があるため、先輩との関係を聞いてみます。
ブライト様は私の反応を見て、楽しそうに口元を緩ませました。
「あ、あの」
「すまない。気分を害してしまったかい?」
「いえ、そう言うわけでは」
「すまない。どうも年頃の女性の相手は苦手でな」
その笑みにまたも背中に冷たい物が伝うのですがブライト殿は怖がらないで欲しいと言われます。
怖がってなどいないと首を横に振るとブライト殿は困ったように笑った後、席に座らされて白目を剥いているルチアさんへと視線を向けました。
確か、ケンカして家を飛び出してきたんでしたよね?
ルチアさんも逃げていましたし、あまり親子仲は良くないんでしょうか?
……それも気になりますけど、今は資金援助の話です。
「あ、あの」
「フロース殿が私に頼みたいのは資金の調達だな」
「は、はい。お願いできないでしょうか?」
先延ばしにしてはいけないと思い、ブライト殿に声をかけようとするですが、すでに私の目的はブライト殿に気が付かれているようでした。
話が早いと思い、深々と頭を下げます。私の言葉に先ほどまで緩い笑みを浮かべていたブライト様の表情が変わりました。
……長年、商売の世界で生きて来た人は現在のフェミルアをどう思っているのでしょうか?
ルチアさんをフェルミルア家に預かっているのですから、現状のフェミルアの事は理解していると思います。
その上でどう判断されるのでしょうか?
「フロース殿、1つ良いか?」
「は、はい……何でしょうか?」
ブライト様は真剣な表情のまま、私の名前を呼びました。
慌てて返事をすると彼は私の顔をまっすぐに見ます。これは私を見極めようとしていると言う事でしょうか?
現在、フェミルアの復興を任されている人間として引くわけには行きません。声が裏返ってしまいましたが1つ深呼吸をして自分を落ち着かせます……実際、心臓はばくばくとなっています。
「……落ち着け。考え過ぎると余計な失敗をするぞ」
「な、何をするんですか!? ルーディス殿、本当に訴えますよ!!」
「ブライト殿、王都ではお世話になりました」
「いや、私も有意義な時間を過ごさせて貰ったよ」
その時、私の背後に音もなく、近づいてきた影が1つ。その影は私の背後から両手を回し、私の胸をつかみました。
突然の事で驚きの声を上げる私を余所に人の胸を揉みしだいた本人であるルーディス殿はブライト殿に頭を下げます。
……王都ではお世話になりました? プロジェート家は王都に確かにありますが当主はもっと若く、冷たい目をされていたはず。
非難をしたはずのルーディス殿はブライト殿と雑談を交わしていますがブライト殿の質問が流れてしまっている事にどうして良いかわかりません。
「……フロースさん、申し訳ありません」
「エルザード様が頭を下げないでください。悪いのはルーディス殿であって、エルザード様ではありません」
2人が雑談を始めてしまったためか、質問をされたはずの私は置いてけぼりです。それに胸を揉まれた事への怒りが込み上げてくるのですがお客様の前で彼の頭を叩くわけには行きません。
そんな私のふつふつとした怒りはエルザード様には伝わっていたようでエルザード様は私に頭を下げてくれました。
エルザード様に怒りをぶつけるわけには行かず、大きく首を横に振るのですがやっぱり怒りが収まるような気がしません。




