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ひとくちの魔法  作者: 紫音
21/64

21話

最初は不安に思っていたロゼット様達聖騎士の治安維持でしたが物腰が柔らかなロゼット様が間に入る事で少し落ち着いてきたように見えます。

これが表向きだけではなければ良いと心の底から思います。

領民とオーミット出身者の小競り合いが落ち着いた事もあり、これで落ち着いていろいろなお金の計算ができます。

オーミット出身者は労働力のため、お給金をフェルミルア家から出さなければいけません。

あまり、お給金が少ないと文句がでますが……悲しい事に最初の支援金は住居の整備や食費に消えてしまいほとんどありません。

フェルミルア家の金庫からとも考えましたが、そこはすでに多くの財を売りさばいて領地復興に力を注いでいた家で金庫は空と言っても良いくらいです。


どうしよう? お金がないのなら、現物支給が手っ取り早いのですが……収穫されている作物はほとんど変わらない。

それを渡されても売りさばく事ができないのです。


出来を確認して貰うためにザシド様の下に送って……ダメか、大量に収穫された農作物を王都に送るにもお金が足りない。

物資を運ぶにも護衛や馬車の準備とそれなりの費用が掛かります。それすら、捻出する余裕がなかったりします。

ため息が漏れるのですが出てくるのはため息だけで必要な物はまったく出てきそうにありません。


ザシド様や先輩が尽力してくれているだろうから、もう少しで追加の支援金が来るでしょう。だからと言って何もしていなければその前にフェミルアの資金が底をついてしまうのは目に見えている。

どうした物でしょう?

資金調達をするしかないんですよね。収穫された農作物を少し売りさばくのが1番早いのですが……私はフェミルアに出入りする商人達と面識がない。


とりあえず、エルザード様に相談しよう。


領主であるエルザード様なら商人達にも面識があるはずです。

多少、足元を見られて買い叩かれる事もあると思うので売却する量も相談しないといけないですし。

方針を決めて部屋のドアを開けて廊下に出る。そして、いつものようにルチアさんを小脇に抱えているサラさんと目が合います。


……この光景に驚かなくなった私はかなり毒されていますね。


普通に考えれば異常な光景なのですが毎日のように見ていれば、なれてしまいます。人間の適応能力とは凄い物だと思いながらもサラさんと挨拶を交わします。


「お出かけですか?」

「はい。エルザード様に資金面でご相談したい事が」

「そうですか……」


サラさんにエルザード様の下に向かうと言うと彼女は少し考え込み始めます。

体調を崩しておられるのでしょうか? 元々、身体が悪い方で無理がたたってしまった方です。最近は体調が良さそうでしたが具合の悪い時はあります。


「……今日は体調を崩されているのでしょうか?」

「そうではありません。現在は来客中ですので」

「来客中ですか。それなら、後にします。ありがとうございました」


どうやら、今は都合が悪いようです。

都合が悪いなら、後にしようと思い自室に戻ろうとサラさんにお礼を言って頭を下げます。


「お待ちください。資金の件でご相談でしたら、今が良いと思います」

「でも、来客中なのではないですか?」


ドアを開けて半分、自室に入った時、サラさんが私を呼び止めました。

エルザード様の来客中に私が出て行くのは相手に失礼です。そんな当たり前の事をレクサス家の優秀なメイドであるサラさんが知らないわけがありません。

合点がいかずに首を傾げてしまいます。サラさんはルチアさんを小脇に抱えたまま、私をエルザード様のお部屋まで案内するように歩き出します。

どうしたら良いかと思うのですが、サラさんは振り返ると立ち止まっている私を見てにっこりと笑います。


……ここで立ち止まるとルチアさんと一緒に小脇に抱えられる。


その笑顔には有無を言わせない迫力があり、私は逆らう事ができずに彼女の後を追いかけます。

でも……大丈夫なのかな? 私が訪ねるのは仕方ないとしましょう。ただ、絶対にルチアさんを小脇に抱えているサラさんを見られるわけには行きません。

来客中の相手がどなたかはわかりませんが療養中のエルザード様が自らお相手をする相手です。かなり、重要なお客様だと思います。

そんな方が今のサラさんを見たら、どう思うのでしょうか?


「サ、サラさん」

「どうかしましたか? 私の腕はもう1本ありますが、そういう事でしょうか?」

「ち、違います」


……間違いなく、フェルミルア家やレクサス家の評判を落とす事になる。

そう思い、せめて、ルチアさんをどこかに置いて行った方が良いと考えてサラさんを呼びます。

サラさんは私が逃げる気だと思ったようで笑顔で脅しをかけてきます。彼女の笑顔の圧力に後ずさりしてしまいそうになるのですがここで背中を見せてしまえば、ルチアさんと同じ運命をたどる事は容易に想像がつきました。

逃げる気は無いと伝えるために全力で首を横に振ります。私が全力で首を振るとサラさんはそうですかと残念そうに言います。


……まさか、あの小脇に抱えるのはサラさんの楽しみの1つなのでしょうか?

彼女の笑顔に顔が引きつるのですが深呼吸をして何とか自分を落ち着かせます。


「あ、あの。サラさん、お客さんの前にその状態で行くのはダメな気がします」

「問題ありません。エルザード様の指示ですから」


溢れてくる恐怖に負けそうになりますが何とか勇気を振り絞ります。

しかし、サラさんの口から出てくるのは私が想像しているものとは異なる物でした。


……なぜ、エルザード様が恥を晒すような事をするのでしょうか?


ルチアさんが何かをしでかしたとしても、その罰にしてはこんな姿を見られてはフェルミルア家の評価を落とし過ぎます。

状況が理解できずに眉間に深いしわが寄ってしまうのですがサラさんはくすりと笑いました。


「エルザード様のお客様はプロジェート家の当主様です。ルチアさんが逃げ出そうとしていましたので手段はかまわないと許可をいただいています」

「そ、そうですか」


どうやら、家出娘(ルチアさん)の保護者さんが来訪しているようです。


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