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ひとくちの魔法  作者: 紫音
20/64

20話

「……い、胃が痛いです」

「苦労を掛けてしまって申し訳ない」


王都からの労働力がどんどんと増えてくるのですが指示系統が上手く行っておらず、元々の領民達とオーミット出身の方達のぶつかり合いが増えてきています。

レクサス家から来てくれたオーミット出身者が取り持ってくれてはいるものの、小競り合いがところどころで発生しており、和解のために四苦八苦しています。

なれない土地や生活で気が立っている事も理解できますし、フェミルアの領民はエルザード様がなだめてくれてはいますがこのままでは大きな問題になりそうです。

仕事や問題が増えるなか、最近は胃の辺りがちくちくしますがこれと言った対応策が見つかりません。


「下手に見回りを強化しても反感を食らう気がするんですよね」

「確かにそうですね」

「だからと言ってこのままにしておくわけにも行きませんし」


領地内の治安維持のため、エルザード様のお部屋で打ち合わせをさせていただいています。

治安問題は私よりも長く領地を治めている方達の方が絶対に上手く行く気がするからです。

エルザード様と共通の認識としては単純に力で押さえつけては無駄な反発が起きると予想されている。そのためにこのお屋敷で食事をしたりとしていたりはしていたのですがどうしても合わない人達も出てきているのです。

それに問題を発見した時に中立を保てない者が治安維持に関わると不信の目はさらに大きくなってしまう気がする。

2人で頭を抱えていると部屋のドアを叩く音がしました。エルザード様が入室の許可を出すとルーディス殿と一緒に赤毛の髪を短く切りそろえて騎士鎧に身を包んだ男性が部屋に入ってきました。


「ロ、ロゼット様!?」


その男性の顔には見覚えがあり、慌てて席から立ち上がって頭を下げます。

赤毛の男性はシュゼリア王国(この国)の聖騎士団の中でも生え抜きが集まっていると言う第1聖騎士団の部隊長の1人である『ロゼット=パルフィム』様でした。

彼は庶民出身であり、その剣の腕を認められた方で王城の中で働く庶民出身者の期待の星と言っても過言ではありません。

なぜ、そのような方がルーディス殿と一緒にいるかわからずに慌ててしまいます。


「ロゼット、フロース=フロウライトとは知り合いか?」

「レストやハルトから話を聞いた事はありますが、直接、顔を会わせるのは初めてですね」


私が慌てる姿にルーディス殿は怪訝そうな表情をします。その様子から見るにどうやらお2人はご友人のようです。

それも先輩ともご友人らしい。彼はさわやかな笑みを浮かべた後、エルザード様に向かい頭を下げました。


なぜ、ロゼット様がフェミルアに?


突然の事に頭がまわっていません。説明が欲しいのですが何から話を聞いて良いかわかりません。


「先生とハルトがそろそろ、必要になるだろうとロゼットの部隊を一時的に治安維持に派遣をしてくれたそうだ」

「そ、そうなんですか?」


戸惑っている私を見て、ルーディス殿が簡単な説明をしてくれました。

現在、治安維持の事を考えていた事もあり、ザシド様やレオンハルト様の好意はありがたいのですが、聖騎士が出てくると圧力を感じてしまうのではないでしょうか?

力づくで押さえつけてしまえば、何かあった時の反発は大きくなってしまう。ありがたい事ではあるのですがすぐに頼って良いのかを考えてしまいます。


「私達が派遣された事で反発が起きるのではないかと心配されていますか?」

「そ、それは……はい。聖騎士の方達が見回りを行ってくれれば一時的なぶつかり合いは無くなるでしょう。ですが、それは多くの者達の中で争いの火種になるかも知れません。あまり、言いたくはありませんが、聖騎士様達の多くは民からあまり慕われてはおりません」


ロゼット様は私の考えている事がわかったようで困ったように笑われます。

慌てて首を横に振ろうとするのですがここで嘘を言っても仕方ない気がしました。聖騎士達の中には貴族の子息も多く、自尊心の高い彼らは民達を見下す事も多い。

そのような者達が治安維持に出てしまえば、確実に問題が起きます。私の言葉にロゼット様も部下の扱いには困っているのかバツが悪そうに首筋を指でかかれました。


……言ってしまいました。叱責されるのではないかと身体が強張りますが叱責の言葉はありません。

どうしてだろうとゆっくりとロゼット様へと視線を向けるとロゼット様は私の反応が面白いのか笑みを浮かべておられます。

笑われているのはあまり良い気がしませんね。面白くはありませんがロゼット様は聖騎士様です。


「私の隊は平民出身者も多く、民達を見下すような者達はいません。以前はそのような者達も含まれていたのですけど、少し前にいろいろありましたから」

「少し前?」


ロゼット殿は苦笑いを浮かべながら、自分の隊の中では民達を見下すような者はいないと言われます。

その言葉に何か引っかかるのですがそれを信じて良い物かわかりません。


「問題はないだろう。ロゼットとレストはオーミット出身の者達の中にも知り合いが多い」

「そうなんですか?」

「私はあまり何もしていませんけどね。ほとんど、レストがやったものです」


判断に迷っている私にルーディス殿は心配ないと言う。

先輩とロゼット様にはオーミット出身の者達と面識があるようです。

何があったのかと思い首を傾げるとロゼット様は困ったように笑われました。


「ロゼット殿、フェミルアの治安維持の件、よろしくお願いいたします」

「はい。微力ながらお手伝いさせていただきます」


私が迷っている間にエルザード様はロゼット様に頭を下げられます。

ロゼット様はエルザード様から許可が出た事に少し安心したように笑います。


「ロゼットは剣の腕だけの男ではない」

「それはそうかも知れませんが」


私が何を心配しているかルーディス殿は理解しているようでロゼット様を信用するように言われます。

その様子から彼がロゼット様を信頼している事はわかるのですが本当に大丈夫なのかと言う不安が残ります。


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