11話
大きなお屋敷、でも……
私をルーディス殿の婚約者だと盛大に勘違いした女性『ルチア=プロジェート』さんに案内されてお屋敷の中を歩きます。
フェルミルア家のお屋敷は少し前まではシュゼリアを支える農業地帯だったためか、その時の財を用いて建てられたようでかなり立派な物なのですが人手が足りていないようで掃除の手は行き届いていないように見えます。
他の有力貴族や有名商家のお屋敷のような調度品もなく、必要最低限の使用人で領主様であるエルザード様のお世話をなされているように見えます。
……領地運営の状況はかなり貧窮している事は確かですね。
先輩の報告書でも現状のフェミルアの状況は良くないとなっていました。ただ、貴族と呼ばれる者達の多くは領民の生活よりも自分が贅沢する事を優先する者は多い。
そのために王都から支援を得ようとしているわけではない事に一先ず、ほっとします。
あまり、認めたくありませんがルーディス殿がそのような事をするとは思えなかったのですが、エルザード様とはまだお会いした事もないため、先輩やルーディス殿の言う人となりとは違う可能性だってある。
……と思ったりもするのですが、先輩は面識があるようでしたし、問題はないと思いますけど。
あの先輩が信頼できる方だと言っていた。ルーディス殿の手綱を取れる数少ない人間だとそう考えるとフェミルアでお仕事をする事を考えれば絶対に味方に引き入れたい方です。
正直な話、私1人でルーディス殿を抑えつけるのは無理です。きっと、数日中に胃に穴が開きます。
「ルチアさん、あの」
「どうかしましたか?」
「このお屋敷は掃除が行き届いていないようですが……」
このお屋敷の状況を考えれば今は多くの部屋を遊ばせている状況。
ザシド様は人手の確保のため、王都に溢れているオーミットの住人をフェミルアに送ろうと計画しており、すでに募集をかけている。
数日後には多くの人間がフェミルアに送られてくるはず、遊ばせている部屋を使わせて貰えたりしないでしょうか?
人手を集めても住むところがなければ意味がない。
すぐに対処しなければいけない問題です……と言うか、本当に用意できるんですかね?
確認しないといけないため、先ほどのおかしなやり取りで話しかける事に抵抗の無くなったルチアさんから情報を集めようと試みます。
掃除が行き届いていない事を切り出そうとすると視線をそらされてしまいました。
「あ、あの、ルチアさん、どうかしたんですか?」
「……人手が足りていないんです」
「あの、私は責めるつもりはないですよ」
ルチアさんは人手不足が原因だと答えてくれるのですが、仕事を完遂できない事を恥じているようです。
予想通り、お屋敷の部屋は余っているようです。これで一時的ではありますがオーミット出身者を受け入れる事ができる……領主様であるエルザード様を説得できればですけど。
「そうですか?」
「はい。すでに王都の方針で農業に従事していた者達をフェミルアに送る手はずを整えているのですが、その者達を済む場所を確保しないといけませんから、一時的にこのお屋敷で受け入れて貰えないかと」
「このお屋敷にですか……」
「はい。部屋は余っているようですし、支援金が出るとは言ってもすぐに巨額の支援を受けられるわけではありません。使える物は有効に使わなければいけませんから」
もし、エルザード様が了承してくださればすぐに掃除などに着手しなければいけない。そう考えるとルチアさん達にも迷惑がかかってしまう。
私の考えを先に話しておくのは必要だと思い、簡単な説明をするとルチアさんは眉間に深いしわを寄せました。
……あまり、良い気はしないですよね。
落ちぶれてしまったフェルミルア家に仕えている人です。雇い主のお屋敷に素性の怪しい者達を入れる事になるかも知れないのです。警戒するのは当たり前です。
「……お掃除、大変ですよね?」
「そ、そうですね」
しかし、彼女は眉間にしわを寄せたまま、掃除の事を心配している。
もしかして、このお屋敷の掃除が行き届いていないのはここの人達が掃除を苦手としているだけなのでしょうか?
頭をよぎった不安に頬が引きつりました。
「あ、あの……ひょっとして、掃除は苦手ですか?」
「そ、そんな事はありませんよ」
……どうやら、私の推測は正しいらしい。
目をそらすルチアさんの様子に力が抜けてしまう。
それでも行わなければいけない。迷っているヒマはないんです。
「……遅い」
「……私が遅いのではなくて、ルーディス殿が勝手すぎるんです」
私が決意を新たにした時、廊下の奥からルーディス殿か歩いてきました。
彼は私の顔を見るなり、ため息を吐きます。どうやら、ルーディス殿的にはかなり待ったようです。
ただ、私が挨拶をしている間に1人でお屋敷に入って行ってしまったのは彼であり、私が責められる理由はありません。
悪いのはルーディス殿だとため息を返すと納得がいっていないようでルーディス殿は眉間にしわを寄せられました。
「……これは本当にもしかしたら、もしかするかも知れませんね」
……隣にいるルチアさんの口からおかしな言葉が聞こえますが無視します。
私は仕事をしに来たのであって、間違っても嫁入りに来たわけではありません。
「それでは行きましょう。エルザード様に聞いていただきたいお話もありますし、時間もありませんし。ルチアさん、お掃除の方、よろしくお願いいたします」
「……はい」
「掃除? ルチアが?」
ルーディス殿と合流できたため、ルチアさんにここまで送っていただいた事にお礼の意味を込めて頭を下げた後、掃除の準備を始めるように頼む。
彼女はよほど掃除が苦手なようで大きく肩を落としました。
その姿に頬が緩んでしまうのですがルーディス殿は何かあるのか眉間に深いしわを寄せられました。
「……何かあるのですか?」
「ルチア、準備だけで良い。掃除には一切かかわるな。屋敷の修繕に回す金はない」
……どうやら、私が想像している以上にルチアさんには掃除する能力は欠如しているようです。




