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ひとくちの魔法  作者: 紫音
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10話

「お帰りなさいませ、ルーディス様? ……」


フェミルアに到着するとルーディス殿はすぐに畑の様子を見に行くと言い始めたのですがフェミルア復興のお手伝いをするに当たり、領主様である『エルザード』様に挨拶をしないわけには行きません。

何とかフェルミルア家のお屋敷に挨拶に行くようにルーディス殿を説得しました。

馬車がお屋敷の前に到着すると数名の使用人が現れて私達を出迎えてくれるのですがルーディス様と私を見た使用人達はなぜか動きを止めてしまいました。


「あ、あの、今日からお世話になります。フロース=フロウライトです」

「お世話になる? このお屋敷で?」

「は、はい。よろしくお願いいたします」


ルーディス殿はその様子を気にする事無く、お屋敷の中に入って行き、取り残された私はよろしくお願いしますと言う意味を込めて挨拶をします。

私の挨拶に使用人の皆さんは首を傾げています。どうやら、ルーディス殿は王都から役人が派遣されてくる可能性を説明していなかったように見えます。

ため息が漏れそうになるのですがこれからお世話になる身分、地方に住む領民達はよそ者を受け入れない事もある。友好関係を築けなければ仕事に支障をきたしてしまう。

そう考えて頭を下げて見るのですがなんとなく、良い気はしない。先輩は領民達は柔軟だと考えていたようですがどうやら先輩の見立ては外れたらしい。

……仕方ありません。ゆっくりとやって行くしかありません。

フェミルアに戻ってくる間、一緒だった方達は友好を深める事はできたと思います。彼らの助けを貰えればさほど時間はかからないでしょう。

ルーディス殿を追いかけなければいけないと思い、頭を上げます。


「あ、あの、ルーディス殿は?」

「き、きっと、エルザード様のお部屋でしょう。すぐに案内します。お、奥様」

「お、奥様?」


私の事を警戒しているのか、距離を取っている使用人の中に同じ年くらいの女性を見つけて声をかける。

その女性の口から出た言葉は思いもよらない言葉で一緒、何が起きたかわかりませんでした。

なぜ、奥様? 誰もいませんよね?

脳が考える事を拒否しているようで振り返って後ろを確認します……当然、女性はいません。

そうなると……いや、それはない。

……こうやって、現実逃避をしていた事をすぐに私は後悔します。


「ル、ルーディス様が王都から嫁を連れて帰ってきたぞ!!」

「ちょ、ちょっと勘違い!?」


この場にいた男性使用人の1人が大声を上げて屋敷内に入って行ってしまいました。

おかしな勘違いに声を上げるのですがすでに遅い、私の声を聞く前にもう1人の男性使用人がお屋敷の外に駆け出して行ってしまったのです。


……終わりました。私の声は空しくこの場に響くだけです。


「……えーと、奥様、頑張ってください」

「で、ですから、奥様ではありません。私は、王都から派遣された者です」


おかしな勘違いに泣き出してしまいそうになっていると先ほど声をかけた女性に励まされてしまいます。

ですが、彼女も私をルーディス殿のお嫁さんだと勘違いしたままであり、力なくうなだれたまま返事をします。


「王都からですか? まさか、女性だとは思っていませんでした」

「私もフェミルアに来ることになると思っていませんでした。それもルーディス殿の奥様だと勘違いされるとは思ってもいませんでした」


女性は私が王都から派遣された役人だと聞き、驚きの声を上げるのですが驚きを通り越して私は泣きたいです。

最初に私の事を奥様だと勘違いしたこの女性に恨みがましい視線を向けて見ると彼女は気まずそうに視線をそらしました。


「し、仕方ないんですよ。フロース様のお姿があまりにルーディス様の好みと合致していましたので、怪しいお薬を飲まされて洗脳されてきた物のと」

「怪しい薬品と言うのなら、おかしな事を言わずに洗脳を解く努力をして欲しいです。洗脳されて結婚とか悲しすぎるじゃないですか」

「で、ですよね」


……物騒すぎます。そして、ルーディス殿の認識は領民も共通のようです。

それより、私の容姿がルーディス殿の好み? 恐ろしい事を言わないで欲しいです。

それにそのような事はルーディス殿から言われた事はありません。彼の性格を考えれば容姿が好みだとすれば何かしら言ってきそうです……胸か?

出会ってから、ルーディス殿の視線は私の他人より多少育った胸に注がれていた事は何度もありました。それも出会った日に巨乳派宣言までされています。

ですが……正直、嬉しくありません。ミルアさんは羨ましいとか言っていましたがこれはこれで悩みがあるんです。

自分は洗脳などされていないし、ルーディス殿の奥様でもない事を強調します。

彼女は私の主張を理解してくれたようで頷いてくれるのですが視線は合わせてくれそうにありません。


「……誤解を解く事を手伝ってくださいね。おかしな誤解をされたままでは私の仕事に支障をきたします」

「ルーディス様の奥様だと言う事にした方が領民からお話は聞きやすくないですか? お年よりはよそ者に冷たいですし、今まで支援してくれなかったのに豊作がわかれば役人を派遣するとか文句も言いそうですし」


出鼻をくじかれたものの、私にはやらなければいけないお仕事があります。

できる女性だと理解して貰うために姿勢を正し、いろいろと有った事でずり落ちかけているメガネを指で直す。

このような事になったのはあなたの一言からですと言う意味も込めて少し声を低くしてみます

しかし、すぐにくじけそうになってしまいました。確かに彼女の言い分もわかります。5年前の流行り病でもっとフェミルアに支援をできていればもっと早い回復が見込まれたかも知れません。

ですが、あの時に支援をしなければいけなかったのはフェミルアだけではなかった。冷たいかも知れませんがあの時と今の状況は違うのです。


「……確かに身内だと思われればいろいろとやりやすくなるかも知れません。ですが、それとこれとは違います」

「そうですか? ……でも、無駄だと思いますけどね」


ルーディス殿の奥様と勘違いされていれば利点も確かにある気がします。それでも、その勘違いをそのままにして行く事など絶対にできません。

絶対に誤解を解いて貰う手伝いをして貰うと詰め寄ると彼女は頷いてくれました。良かったと胸をなで下ろすのですがその後に彼女が何かをつぶやいた気がしましたが聞き取れませんでした。


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