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ひとくちの魔法  作者: 紫音
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1話

『シュゼリア王国から花束を』連載作、3作品目になります。

前作(同シリーズ)の登場人物も出てきます。

そちらを読まなくても問題なく楽しめるように書いていきたいと思っています。

また、時間軸は1作目『ケーキよりも甘い笑顔を』の直後になります。

「……ルーディス=フェルミルア、レスト=レクサス、私の話を聞いているか?」


……先日、シュゼリア王国(この国)の第1王位継承者であり、古くからの友人である『レオンハルト=シュゼリア』と私と一緒に隣に立たされている表情筋が微動だにしない友人『レスト=レクサス』の元に我が領地で収穫できた小麦で作った小麦粉を見せた。

今年のシュゼリアは天候不順で農業の多くを担っていたオーミットの不作のためかシュゼリアには食糧問題が持ち上がっていた。

兄が治める領地『フェミルア』は父が存命の時にはオーミット以上の農作地帯としてシュゼリア内外に名が知られていたのだが、5年前の流行り病で父と多くの領民を失った。

領地を引き継いだ兄は必死に元のフェミルアを復興しようとしたのだが、過労がたたって倒れてしまったのが2年前、私『ルーディス=フェルミルア』はその時から領主代行として兄の仕事を引き継いでいた。

流行り病で失った多くを兄が身体を壊しながらも元に戻し、私が以前から研究していた新種の種を使い、元通りとはいかないまでも農作地帯としての地力を取り戻す事ができた。

私には研究などに掛ける能力や推測を立てて、実行に移し、その結果から新たな推測を立てる能力は有していたがそれにかかる費用や労力などの計算は不得意であった。

それは私や兄とともにフェミルアの復興に力を貸してくれた領民達も同様だった。当然だ。領民達は自分達の生活を立て直す事に必死で経営や経済を学ぶほどの財を有してしなかったのだ。

必死に育てた小麦の収穫が見えてきた時、その辺の計算が不得意な私達でも収穫するのに人手が足りない事はわかった。

国の支援を受けるためにもその辺の計算をしなければいけない。

フェミルアで唯一できそうだったのは体調を崩している兄であったのだが、さすがに今の状況では頼む事もできない。


そこで思いだしたのが、隣に立っているレストの顔だった。

レオンハルト……ハルトを含めてフェミルアの状況を説明し、小麦粉の出来などを確認して貰って報告書を作成して貰う。

レストは苛立ってはいたようだが、文句を言いながらも国から援助金を出させるために報告書を代筆してくれたわけだが……

私はそのレストとともに目の前で報告書を読んでいる宰相1人であり、私達が学園に通っていた時の恩師でもある『ザシド=レンディル』にどうやら説教をされているようだ。


「興味がないためか、聞き流しています。それにこのやり取りは無意味で時間の無駄です。先生」

「……ルーディス」


現状で言えば、説教になど興味はない。

私としては簡潔に援助が出るのかだけが知りたいのだ。

ハルトやレストからオーミットの不作は知る事ができた。

そのため、シュゼリアはフェミルアからの作物が無ければ食料が大幅に足りなくなる事はその辺に無頓着な私でも理解できる。

そこから推測するにこの国はフェミルアを援助しなければいけない。答えが解りきっているのだ。私には無駄としか思えない。


はっきりと無駄な時間は要らないと答えると隣からは呆れたようなため息が聞こえ、目の前のザシド先生の眉間には深いしわが寄っている。


「……なぜ、無駄だと判断するのだ? ルーディス=フェルミルア」

「ハルトとレストからはシュゼリアの状況は聞いています。疎い私でも報告書が及第点に届いていなくても援助を出さないわけにはいかない事はわかります」

「レスト=レクサス」


ザシド先生は教え子に問題を出すように聞く。

時間の無駄だと思いながらも答えのみを答えるのだが、ザシド先生はどうやら私の答えが不満のようで険しい表情でレストの名を呼ぶ。


「……必要な費用や労力を計算するにもルーディスの話からではどれくらいの物か判断できません。そのため、フロース=フロウライトをフェミルアに派遣していただきたいと思います」

「フロース=フロウライトか……確かに優秀な人材だ。ただ、レスト=レクサス、なぜ、フロース=フロウライトを推薦する?」

「出自などを考えれば、そろそろ、周囲の者達からも疎まれ始めるころでしょう。私はあの者の才能を買っています。この辺で手柄を立てさせたいと思います」

「確かに……ただ」


どうやら、レストの中ではフェミルアに送りたい人間に当てがあるようだ。しかし、フロース=フロウライト? 知らない名前だ。

それに先生の表情から見ると報告書も完璧ではないようだな。まったく、しっかりとして欲しいものだ。


「ルーディス=フェルミルア、はっきりと言って置こう。情報が不足しているこの状態でのレスト=レクサスの報告書は素晴らしいものだ。レスト=レクサスの性格上、時間をかければさらに詳しい物ができたであろう。悪いのはお前だ」

「そうですか」

「……」


先生は私の顔を見て、レストを誉めるわけだが私にとっては興味のない話であり、正直、どうでも良い。

すぐに援助が無くてもレクサス家から資金を引っ張り込む算段は出来ている。これに関して言えば、ハルトも乗り気になるだろう。


「レスト=レクサス」

「現状で必要なのは人手です。幸いとは言いたくありませんが、オーミットで農業に従事していた者達が王都には溢れかえっています。その者達に声をかけて緊急の労働力として働いて貰うのが最良と判断しますが収穫までにかかる日数や費用はフェミルアに足を運んで見なければわかりません」

「だろうな……それで推薦してきた者がフロース=フロウライトか?」

「そうですね。私は隣国との調整を行うために王都を離れるわけにはいきませんので彼女を推薦したいと思います」


どうやら、私と問答をするのを諦めたのか、ザシド先生はレストを相手に問答を始める。


……長い、結果だけを報告する事はできないのだろうか?

人手が足りないと言っているのだ。私は王都に残っている必要もすでに無いのですぐにでもフェミルアに戻りたいのだ。


「……労働力の方はすぐに手配しよう。援助金はすぐに用意できる金額は限られている。まず、出せるのはレスト=レクサスの報告書から推測される費用の1割から2割と言ったところだろう。その辺りはすでにレオンハルト=シュゼリアが動いているのだろう。ルーディス=フェルミルア、話を聞いていたと思うが人を1人付ける。拒否権はない。良いな」

「……はい」


2人の問答を聞き流しているとザシド先生は方針を固めたようだが、レストが推薦しているのだから優秀な人間が来るのだろうが、どのような人間が派遣されてくるのだろうか?

正直なところ、レストができる事なのだから、レストがフェミルアに来れば済む事なのだ。ただ、隣にいるレストからは無言の圧力を感じる。

これは頷いておいた方が良いと言う事か、レストが必要だと言っているのだから必要なんだろう。

個人的には意味がわからないが了承の意志を見せる。余計な事を言って時間を無駄に使うわけにも行かないからな。


「……ルーディス=フェルミルアはレクサス家に滞在しているのだったな。今日中にフロース=フロウライトをレクサス家に向かわせる。彼女の仕事も受け継ぎなどもあるだろうから出立は2日後と言ったところだろう。出立の準備をしておくように」

「はい。そのように屋敷の者には伝えておきます。それでは失礼します」


……2日後? できれば今日中に王都を出たいのだが。

指定された日程に納得がいかないが、レストは妥当だと思っているのか頭を下げると私の腕を引っ張る。


文句を言っても仕方ないと言う事か、納得はいかないが妥当と言ったところなのだろう。


「……待て」


討論は無駄と判断し、素直に頷き、レストとともに部屋を出て行こうとするがザシド先生はまだ何かあるのか私達を呼び留める。


「どうかしましたか?」

「いや……小麦の出来を確認するためにケーキを焼いたと言っていたからな。ずいぶんと良い料理人がいると聞いている」

「……小麦粉の輸入の件などが片付きましたら、屋敷に招待させていただきます。ザシド先生には紹介して起きたいので」

「そうか……楽しみにしておこう」


……そう言えば、ザシド先生の研究室に入り浸った原因は学園内のカフェでケーキについてレストとザシド先生が討論をし始めてからだったな。

あの場を見た多くの者は現実を受け入れない者も多く、レストが大の甘党だと未だに気が付いていないふりをしているとハルトが笑っていたな。

ザシド先生はレストが紹介したいと言う意味を分かっていないようだが、私には関係のない事だな。


しかし、フロース=フロウライトか? 使える人間であれば良いが。


次話で主人公が登場します。

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