確保
確保
支店長と通路で警備をしている二名を除く、銀行内部にいる全ての人が金庫室へと集まった。
「とりあえず、これから犯人確保にむかいます。」
元のその言葉に警察関係者は少し不思議そうな顔をしている。
「捜索ではなく確保ですか?」
「そうですよ。犯人はこの部屋の中にいますから。」
金庫室の中に緊張が走り、警察関係者が怒気の混じった声を出す。
「我々の中に犯人がいると言ってるんですか?」
「まあまあ。そうゆうわけじゃないですよ。」
元のよく分からない返答に警察関係者達は困惑していた。
「支店長が言っていた、部屋に入った時にはアタッシュケースはあったというのは多分本当なんですから。」
「そんな事分かるわけないだろ。防犯カメラにも写ってないんだから。」
「それが分かるんですよ。あの支店長の特技は【完全記憶】。一回見た、聞いたものは忘れない特技だそうです。絶対に鍵など掛け忘れないそうなんで便利らしいですよ。」
その言葉に警察関係者達は、渋々納得する。そのまま更に元は続けた。
「犯人は支店長の出勤と同時に後ろを歩き、警備員の間を抜け、一緒に金庫室まで入ったのでしょう。おそらく犯人の特技は透明化およびそれに準じるもの。」
「そんな特技ならもう犯人はどこか逃走したのでは?」
「いやー。あの警備員の二人真面目で助かりました。あの二人はあそこから全然動かないんですね。こちらがこんなにも騒がしくしていても。」
優秀なのかどうなのかいまいち誰にもわかる事ではないが、さらに元が言葉を続ける。
「事件が起きてから誰も通路からでてないんですよ。そして犯人は推定180センチ90キロの大柄。警備員に触れずに出ることは不可能でしょう。っというわけで、勇司。一番範囲の広い煙をだせっ!」
その指示に勇司が渋々、煙草ケースをとりだし白い煙草に火をつけ、大きく吸い込み白い煙を吐き出す。
【白煙】
金庫室全体に軽いモヤがかかった状態になる。そこを久信が特技を使い部屋全体を見回す。
【思金神の眼鏡】
「そこ、残念ながら呼吸で少し煙が動いてしまいましたよ。」
久信の指摘に動揺した犯人がアタッシュケースを落とし、アタッシュケースがいきなり床に現れた。
「手から離れると透明化も解けるわけですか。」
だが容疑者はパッと金庫室から走って抜け出し、警備員を後ろから突き飛ばす。
「支店長、今だよ。」
元の掛け声と共に、警備員室にいた支店長が防犯シャッターのスイッチを押すと、入り口も窓も銀行は完全に締め切られた。突き飛ばされた警備員の元へ、犯人を追い金庫室の出入口の近くにいた勇司と霰がやってくる。
「ゴホッ、追い詰めたはずなのに姿が見えないのはやっかいだな。ゲホッ、ンッ」
先程の白煙で喉がガラガラになっている勇司に霰が真剣な顔でお願いをする。
「勇司くんっ、さっきのもう一回お願いできないかな?あたしもたくさん訓練したし、何かしたいの。」
真剣な顔付きを見ると勇司は断るのが難しい気がして、勇司はため息を一つ大きく吐いた。
「はーー・・・。、やりゃいいんでしょ、やりゃあ。今日はもう何があっても特技は使わないからな。」
勇司は金庫室より広い店舗部分のため、白い煙草を何度も吸い、煙を大量に吐き出す。
【白煙】
瞬く間に白い煙は広がり先程より濃密なモヤが全体に広がり、部屋を煙で満たしていった。
「ありがと勇司君。勇司君はそこで見てて。」
もはや喋る気力もない勇司は手をバタバタと振り答える。
犯人はやけになったのか、それとも捕まえにくるのが小さな女の子一人だからと逆上したのか、叫びながら霰に突っ込んでくる。
「怪我したくなかったらどけーっ!!」
「声出してくれるんだったら煙必要なかったかな?」
勇司に少し失礼な事を呟くと、霰は特技を使う。
【爪化粧・紫】
霰の爪が紫色に怪しく輝く。犯人の突進を避け、かわしざまに犯人の腕を引っ掻くと、犯人の体にはあっという間に麻痺成の毒物がまわっていく。
ドンッと犯人は前のめりに倒れ、やっとその姿を現した。
「よくやったなお嬢ちゃん。」
そう言って元が霰にむかって手錠を投げる。
「26班の記念すべき、逮捕第一号はお嬢ちゃんだったか。」
霰の手により手錠をかけられた犯人は、今回は逃走される心配なしと言うことで、パトカーに乗せられ搬送されて行った。
勇司達四人が特局へ帰ろうと車に歩いて行くと、支店長が小走りでやってくる。
「今回はありがとうございました。おかげ様で無事アタッシュケースも帰ってきましたし、信用を落とさずに済みました。」
「そうゆう仕事ですのでお気になさらず。」
元がそう返事すると、支店長は勇司を見て最後に言った。
「お客様、本銀行内は禁煙ですので、今後はお願い致します。」
支店長は笑いながら言ってくるが勇司はそれに苦笑いで答え、他三人は堪えきれず含み笑いをしている。
26班による正式な最初の事件は、一人苦笑いを含むが、全員笑顔で解決をむかえたのであった。