犯人探し
犯人探し
勇司達が26班に配属されてから一ヶ月がたとうとしている。なんとか三人共厳しい訓練のすえ、元から現場にでてもいいとのお墨付きを得る事ができた。
「この1ヶ月、前の学校で習ってたことなんだったんだと思うぐらいしんどかったな。」
心底嫌そうに語る勇司は、口の中の匂いを取るためにうがいをしている。
「そうだねー。私達すっごい頑張ったよね。もう私なんて1ヶ月前の私が100人きても大丈夫!って感じだよ。」
力瘤をつくって、霰がニカッと笑顔を見せた。
「たしかに霰さんは頑張ってましたね。霰さんは。」
久信が霰を褒めて勇司を落とす。この1ヶ月、永遠と続く負のスパイラルだ。
「なんだと久信。多少勝ち越してるからって調子のるなよ。泣くぞっ!」
「ほうほう。154戦全敗のあなたが多少といいますか。ちなみに我が家の犬も私との勝負に負けたときよく鳴きますよ。」
この1ヶ月、勇司と久信は勝負に勝負を重ねたが、射撃、逮捕術、格闘術などなど訓練とはいえ、勇司に勝てる気配はなかった。
その時、パソコンから連絡音がなり、霰はすぐさま操作して対応する。
「班長、警察からの緊急要請です。やすは銀行、東南支店にて窃盗だそうです。侵入した痕跡などから特技を使っての犯行だと思われます。」
「窃盗か。じゃあお嬢ちゃんもついといで。全員舞い上がるなよ。緊張感が大丈夫だからな。」
26班の面々はすぐに準備を済ませるとワンボックスに乗り込み現場へ向かっていった。運転をしていた勇司が尋ねる。
「今回の犯人はどんな特技なんだろ?」
霰はノートパソコンを操作して情報を眺めながら首をかしげた。
「金庫破りらしいんですが鍵にも、壁にも入った形跡が見当たらないらしいです。そんな特技あるのかな?」
「まあ、特技は様々だしな。特技の名前だけで絞り込むってのはちょいと厳しいな。」
元は車の振動で、腰の調子がイマイチらしくしかめっ面で答える。
ワンボックスが銀行に到着すると勇司達は、早速金庫室へとむかう。
金庫室へ向かう通路には警備員が二人キレイに並んで険しい表情をしている。この先には、金庫室と警備員室があるだけらしい。
IDカードを提示し、通してもらった四人は元の指示のもと捜査をはじめた。
警察関係者は総出で、金庫室の中でリストと照合しながら被害が有無を確認している。
「いやー、古いけどこりゃ立派な金庫だな。」
腰を叩きながら金庫を眺め、元が第一発見者である、支店長の笠原に話を聞いていた。
「そうですね。今まで一度もこんな事なかったのですが。」
「まあ、こんな事しょっちゅうあっても困りますわな。それで今回の被害金額は?」
「それ事態はそこまで。多分被害はアタッシュケース1つだけなんで一千万弱ってところでしょうか。だけど変なんですよ。たしか私が朝出勤して、金庫室に入った時にはあったはずなのですが、振り返るともうアタッシュケースなかったんですよ。」
「それは警察には?」
「もちろん言ったんですが、あまり信用してもらえなくて。」
元は防犯カメラの映像に目を通している霰に声をかける。
「防犯カメラに何か映ってるか?」
「支店長さんと警察関係者以外、何も映ってないです。アタッシュケースのとこはカメラの死角だったみたいで。」
いろいろと話を聞き回ってきた勇司と久信も一度戻ってきた。
「鑑識の人とか刑事さんにきいたけど、指紋も他の証拠もないってさ。あったのは靴の跡ぐらいで、それも取れたのはアタッシュケースの周りだけで他のとこからは厳しいらしい。」
勇司がお手上げという感じで元に伝える。
「だから特局が呼ばれたんだろうしな。久信は何か特技でわからなかったか?」
「少しだけなら。容疑者は単独犯で後は、身長だいたい180弱、体重95前後というとこでしょうか。」
「単独犯ってのは同意だな。あとの情報は?」
「靴の痕跡を私の特技で見たのですが、靴のサイズ、すり減り方からして多分間違いないかと。」
元は少し頭を掻きながら考えると、霰に金庫室へ行く通路の防犯カメラの映像をださせる。
先程と同じように警備員が二人並んで立っていた。
支店長が入り、そして時間を空けて警察関係者が入り、そして勇司達四人が入る。まだ警察関係者も誰も出てきていない。
「勇司、とりあえず警察関係の人たちを全員金庫室から出ないように言っておいてくれ。」
そして支店長には、なにか元が耳元で呟いている。
「親父、伝えてきたぞー。一応了解だって。」
「じゃあ犯人確保にいくぞ。」
元は皆に軽くそう伝えた。