電脳な姉
電脳な姉
翌日、26室に四人がそろった所で元が口を開く。
「昨日はご苦労さん。とりあえず今日から通常業務が始まるんだが、とりあえずここの基本は二人一組だ。勇司と久信は組め。お嬢ちゃんは雑務担当だけど、もし現場出るときは俺とだな。」
その言葉を聞くと、勇司はあきらかに不満そうな表情を浮かべているが、久信は表情一つ変えずに座っていた。
「そんなイヤーな予感はしてたけどな。やっぱり班員少なすぎでしょ。四人って!」
愚痴をこぼす勇司に元が答える。
「まあ、しょうがないと思ってあきらめろ。人員不足なんだ。教師生活を満喫してた俺にも現場にでろっていうぐらいだからな。久信はなんかないか?」
「私は問題ありませんよ。学生の時にも一緒に訓練した事ありますしね。」
その言葉に元は安堵の表情を浮かべるが、さらに久信は言葉を続ける。
「では勇司さん、学生時代に引き続き訓練で今回は何連敗するか楽しみにしてますね。」
そう言って勇司を見ると、久信は軽く笑みを浮かべた。
(ここで何か言ったら負けだ。俺は負けない強い男になるとデメタンに誓ったはずだ。)
何かをこらえる勇司を見て、この判断は間違っていたのかと悩むが、元は気にしない事にした。
「まあ、そこの二人は適当に仲良くやってくれ。お嬢ちゃんはそんな感じでいいかい?」
「問題ないです。現場も昨日は少し怖かったけど、昨日の班長となら大丈夫そうです。」
昨日の乱射は霰的には問題なかったらしい。
話しは一応まとまったとこで元が立ち上がる。
「じゃあお前ら、重要かつ猛烈な勢いで頼まれている人に挨拶にいくぞ、情報班のとこだ。」
情報班という言葉がでたとこで、霰の表情分かりやすく曇った。
「お姉ちゃんのとこ行くんですか?ちょっとそれは・・・・・。」
「そうか、お嬢ちゃんは雪嬢苦手か、これは必要な事だから我慢しとくれ。」
「わかりました。なんか顔を合わせづらいってだけなんで。」
無理矢理に納得した霰に勇司が聞く。
「お姉ちゃんって情報班の人なの?」
そう聞いた途端、霰と久信が怪訝な表情を浮かべた。
「それは勇司さん、本気で言ってるんじゃないですよね?本気だと言うなら人生やり直した方がいいと思いますよ。これからはダイオウグソクムシとして長い時をお過ごし下さい。」
久信の無駄に長い悪口を今回は華麗に受け流す事ができた。
「もー、久信君言い過ぎだよっ。私のお姉ちゃんちょっとした有名人なんだよ。」
笑いながら答える霰に、勇司は少し考えこむ。
(たしか名字は真中だったよな。真中、真中、真中・・・・・・・・。女優かアイドルか何かか??まあ、行けば分かるか。)
考える事をあきらめ、エレベーターに乗り込むと四人は情報班へと向かう。
そして、最上階に到着するとそこはワンフロアー全てが情報班専用のフロアであった。
(おいおいおいおい。なんだこれ?どんだけVIP待遇なんだ情報班。)
そこに突然一人の女性が走ってやってくる。上下ともあきらかにピンク色のパジャマであったが、それを差し引いてもグラビアアイドル顔負けの体型、そして人懐っこそうな美人さんである。
勇司と久信の間をすり抜けると霰に飛び、さらには抱き付き頬擦りを繰り返していた。
「あられちゃーん、なんで最近会いに来てくれなかったの?お姉ちゃん待ちきれなくて、寝坊しちゃいけないと思って今日はこの部屋で寝たんだよ。」
霰は姉に抱きつかれ、完全に迷惑そうな雰囲気を出してはいるが、顔は姉の胸に完全にうまり確認する事はできない。
霰は酸欠になりそうになりながらも姉をなんとか引き剥がし、酸素を目一杯吸い込む。
「お姉ちゃん、もうあたし大人なんだからやめてよっ!それに自己紹介しなきゃ。」
一部始終を黙って見ていた元も頭を掻きながら口を出す。
「妹との再開を喜んでる最中に悪いんだが、一応勤務中なんでな。雪嬢の事知らないバカもいるみたいなんで頼む。」
そう諭され、次は霰の後ろに回り込み、霰の頭の上に胸を載せながら自己紹介を始めた。
「情報班の班長してます。真中 雪です。特技は【電脳誘惑】です。ちなみに情報班のお部屋は下の階だけど。あられちゃんのお姉ちゃんです。あられちゃんの思いでは数えきれないぐらいあるんだけど、あれはたしかあられちゃんが三歳の時に・・・etc・・etc・・・・・」
なんか無駄な情報が多いが、確実に勇司も知ってる単語が耳に入った。
(電脳誘惑って確かあれかっ!今のこの生活を支える、特技のリストを作ったというお方か。そりゃあこのVIP待遇も頷けるわな。それにしても似てないねー。特にいろいろと言いにくいとこが。)
勇司が多少失礼な事を思っていると、霰との思い出話はまだまだ続いているが、そこは気にせず元が口を出す。
「お前ら、絶対に雪嬢にはお世話になるから失礼な事はするなよ。そして手を出そうとしたら男子局員から、昨日のドアよりひどい事にされるから気を付けろよ。」
そう二人に忠告すると、霰に絡み続けてる雪を見ながら更に言った。
「じゃあ雪嬢この辺で。まだ今日は勤務中なんでね。今度また三人連れてくるよ。」
助かったという表情を浮かべる霰に比べ、雪は泣きそうな表情を浮かべている。
「えーーーっ。もう行っちゃうの?あられちゃんずっと寮で相手してくれないし、そこの二人の自己紹介も聞いてないのに。」
駄々をこねはじめる雪を元がなんとか諭す。
「雪嬢ならこの二人の事なんて、すぐ調べられるだろ。じゃあまたの機会に。」
四人はさっさとエレベーターに乗り込みドアを閉めると、ドアの向こうから声が聞こえてくる。
「あられちゃーん週8は逢いにきてねー!!」
「ひさのぶくーん、お父さんによろしくー。」
「橋中さーん腰大丈夫ー?」
様々な言葉が飛んでくるが、勇司は自分の名前が呼ばれてない事を少し悲しんでいた。
四人が去った最上階の情報室では雪がパソコンの前に座る。
(たしかもう一人の子は、橋中班長のお子さんだったはずだよね。ゆうじくんだっけ?)
そう思うと、パソコンの前に座り画面を軽く触れた。
【電脳誘惑】
そうするとパソコンに橋中 勇司の情報がサッとでてくるが、雪は困った表情をうかべる。
「なんかうすーいモヤがかかって見にくーい。目が悪くなりそう。もういいや。」
勇司は自分の知らぬ間に、自らの特技で今まで負け知らずの【電脳誘惑】を煙に巻く事に成功したのであった。