月白
月白
ワンボックスはサイレンを鳴らしながら一般道を走っていた。
「もうじき見えてくるはずですね。」
久信が呟きながらカーブを抜けると前方に白いセダンを見つける。すぐに後方にワンボックスをつけた。
「班長、発見しました。どうしますか?」
元はマイクを手にとるとセダンにむけて声を掛ける。
「特局だ。田ノ上止まれっ!止まらないとこっちもなんとかして止まらせるぞ。」
セダンは元の声を聞いた後、スピードを上げワンボックスから距離をとろうとするが、久信はぴったりとワンボックスをセダンを後ろにつける。
「全く止まらんな。どこか目的地でもあるのか。お嬢ちゃんこのまま行くとどこに出そうだ?」
「このまま行くと・・、目立つ建物は新臨海タワーでしょうか?」
勇司は窓の外を見るとすでに786メートルある新臨海タワーは、小さくだが見えてきている。
「あれが爆発したらパニックなんてもんじゃないか。じゃあ早めになんとかしないとな。」
セダンの窓が開き、ティッシュ箱がワンボックスにむけて投げられた。久信はハンドルを大きく切るとティッシュ箱をかわした。
ティッシュ箱はワンボックスの先程までいた場所で大きな爆発を起こす。
「おいおい、あんなティッシュ物騒すぎるだろ!とりあえず今回は運転してなくてよかった気がする。そして次はクッションかよ。久信っ!」
「分かってますよ。」
勇司の叫び声に久信は冷静に答え、車のバランスを失わない程度にハンドルを右に左にきり、クッションをかわしていく。激しく聞こえる爆発音に、霰は目を瞑り勇司の右手にしがみついていた。
「親父、なんとかしろよっ!」
「そうだな。防戦一方ってのも気が食わないな。久信、セダンの右側から迫ってくれ。」
【自動拳銃・創造】
元は助手席から左腕を出し、次々投げられてくるCD、車検証、ぬいぐるみなどを次々と撃ち抜きワンボックスに届く前に爆発させていく。しかし、セダンから網に入れたキラキラ光る小さな物が大量にばらまかれる。
「ありゃなんだ?ビー玉か」
「これは少しやっかいですね。」
ワンボックスはビー玉を踏む度に小さな爆発を起こし、バランスを失うが久信がなんとか立て直しつつセダンを逃がさない。
「あっ、あれは親父バチンコ玉入れるやつじゃねえの?」
「確かに玉箱だな。ってさっきとはこれ数が段違いだろ。久信どうする?」
久信は強くハンドルを握りながら、容疑者を見つめている。
「これはさすがに普通には走れませんね。班長、そちらを上にしますのでよろしくお願いします。」
ワンボックスを真っ直ぐ走らせるとパチンコ玉がばら蒔かれる。多数のパチンコ玉を踏み、ワンボックスはバランスを崩すが気にせず久信はハンドルを思いきり左に切ると、ワンボックスは運転席を下に横転した。元は助手席から身を乗り出す。
【大型回転式拳銃・創造】
元は両手で大型のリボルバーを構えると、セダンのタイヤに狙いをつけ撃った。放たれた銃弾はリアタイヤに当たると、ホイールごと吹き飛ばした。
ワンボックスは側面を削りながら止まり、セダンはバランスを失いガードレールにぶつかり止まった。
「みんな大丈夫か?」
横転した車内の中で次々と声が聞こえ、無事を確認するとワンボックスから四人が這い出してくる。
「あいたたたた。もうこんなタワーの下まできてたのか?」
「そうだねー。下から見るとなおさらおっきいね。」
無駄口を叩きながらタワーを見上げている勇司と霰を気にせず、久信と元が警戒しながらセダンに近付いていく。勇司と霰もそれに続いた。
「意識はないみたいです。シートベルトしてなかったみたいですが、それ所の話じゃないですよ。この車すでに特技使われてます。」
急いで四人は田ノ上を車から引っ張り出し、手錠をかけると意識を取り戻す。
「この車の爆発は今までとは段違いだぞ。このタワーくらいなら倒せるだろ。もう俺にも止められないがな。ドーンと皆で花火をみようじゃないか、ドーンと倒れる様をな。」
久信はスタン警棒を田ノ上に当てて気絶させた。
「たしかに当人を気絶させても爆発は止まりそうにないですね。」
「どうする?親父避難させるか?」
「間に合いそうにないな。爆発物といえばあれか。勇司、ちょっと前に冷蔵庫壊れて母さんが困ってたときに使ったやつだ、あれ使え。急げ!」
勇司は急いで煙草ケースから白っぽく少し怪しい色をした煙草を取り出し、特局特製のターボライターで火をつけるようとするが、なかなか煙は出てこない。ようやく火がつき煙を出し始める。
【月白煙】
勇司の口から少し怪しい色に輝く月白色の煙が吐きだされる。勇司は間近からセダンに煙を当てていった。煙の当たった所から瞬く間に凍り付き、徐々にその面積を増やしていく。
勇司が一本吸い終える時にはセダンは完全に凍り付き、爆発は止まったが本人は真っ青な顔をしてブルブルと震えていた。
勇司は温かい缶コーヒーを飲みながら搬送班の到着を待ち、容疑者が運ばれて行く様子を眺めている。
そしてワンボックスへと戻り、全員で横転から立ち上がらせた。ワンボックスは大した不調も見せず、軽快にエンジンがかかる。まだ体調の優れない勇司は霰と後部座席に座っていた。
「とりあえず爆発しなくてよかったねー。あたしまだ展望台行った事ないのに。」
「そーいや自分もないな。今度非番の日でも一緒に行ってみる?」
勇司が多少勇気をもって誘うと、霰は少し考え答えをだす。
「うーん。やっぱり高いとこ苦手だから行かなくてもいいや。ごめんねー。」
前の座席で元と久信の笑いを噛み殺した声が聞こえる。
「これは完全に振られたな。」
「見事に振られっぷりでしたね。さすがです。」
勇司に優しいのは手に持つ、まだ温かさの残る缶コーヒーだけのようだ。




