アクシデント
アクシデント
26班が現場であるマンションに着いた時には、警官達によってしっかりとした規制線が張られていた。
勇司達はワンボックスを現場付近に着け、車から降りる。警官達に元がIDカードを見せ、状況を確認しようとするがその時に、周りを見渡し元はふとある事に気が付く。
「特局の人間は俺達以外きてないのか?」
そう近くにいた警官に尋ねると、警官は回りにいる同僚にも確認をとり、すぐに返答がくる。
「私達が現場に着いてからは誰も。今は落ち着いていますが、できれば早めの対処をお願いします。」
その言葉にますます嫌な予感は真実味を帯びていき、元は急いでワンボックスに戻ると無線を8班の車へとに繋いだ。
「こちら26班の高山だが、・・・・・それは不味いな。そっちはそっちで任す。こっちは若手に混じってなんとかするよ。」
元は頭を掻きながら少し考えると、三人をすぐに集めた。
「よし、不味い知らせだ。8班はしばらくこっちにこれそうにない。ここは四人で片付けるぞ。」
元の言葉を聞いた久信は直ぐ様反応し、言葉を返す。
「分かりました。では詳しい内容を。」
ここまで突然いろいろ起きた出来事に勇司と霰はついていけていないでいるが、元は気にせずポケットから取り出した煙草に火をつけながら作戦を説明する。
「今回の事件に関してはあまり難しいことはない。人質もいないし部屋入って拘束してドンッだな。」
元のあまりにも簡単な説明になんとか勇司が口を挟む。
「それだったら親父、警官達で対応できたんじゃないか?」
元は勇司を見ると軽く眉間にシワを寄せ、軽く溜め息をつく。
「お前何学校で習ってきたんだ?特技を使って立て籠ってるから特局が呼ばれるんだろ。三人とも準備しろ。」
すぐさま準備を整えマンションの中に四人は入っていく。エントランスに入った時、霰が元に尋ねた。
「ところで今回の犯人の特技は何なんですか?」
情報端末をポケットから取り出し、不器用に操作しながら全員の情報端末に犯人のデータを送信する。
「じゃあ見てくれ。犯人は新藤 達夫38歳 、 特技は【溶接】。職業は特技をいかしての工場勤務、付き合っていた彼女に振られ自暴自棄となり、勤めていた工場の出入り口という出入り口を全て溶接し、そのまま帰宅。そして部屋に立てこもったらしい。」
情報端末を見ながら勇司は考える。
(まともな特技じゃねえかよ、仕事にもいかせてるし。まあ、彼女に振られてってのは分からないでもないけどな。)
勇司が思考にふけりながら進んで行くと、新藤と書いてある部屋の前に到着した。
「じゃあ三人ともスタン警棒と手錠は準備しとけよ。俺がドアは開けるから踏み込んで捕まえろ。反抗してきたら遠慮はしなくていい。」
スタン警棒を手に持ち、クルクルと回していた勇司が元を見て気付く。
「親父こそ手ぶらじゃねえか。」
「俺はいいんだよ。じゃあ三人とも少し離れておけ。」
元はそう言いながらドアを見ると、ドアの継ぎ目も完全にうまり完全に壁と一体化していた。
「いい腕だな。こんな事しなけりゃ生活に困る事なんてなさそうなのにな・・・。」
元はそう小さく呟くと軽く目を閉じ、そして自らの特技を使う。
【自動拳銃・創造】
その瞬間に元の両手には自動拳銃が二挺握られていた。そのまま拳銃をドアにむけると、溶接されたであろうところの少し内側を、ドアの形に撃ち抜いていく。
時折拳銃の弾がきれる度に特技を使い、すぐさま拳銃はリロードされると、さらに撃ち続けた。
あまりの金属と金属のぶつかりあう破裂音の大きさに三人は思わず耳を塞ぐ。
そして、ガンッと元がドアを蹴りやぶった所で、スタン警棒を構えた久信を先頭に、三人が部屋に雪崩れ込む。
そこには耳を塞ぎ、作業着姿でブルブルと震えながら座り込む容疑者の姿があった。
その姿を見て少し三人の気が抜けるが、気を取り直し久信が尋ねる。
「特局のものです。新藤さんで間違いないですか?」
震える体のまま新藤は頷くき、うつむいたまま震える声で新藤が口を開いた。
「こんな大事になると思わなかったんだよ。ただイライラしただけなんだよ。」
「話は局のほうでゆっくりうかがいます。」
久信が手錠を持ちゆっくりと近付く。その時、顔をあげた新藤の目が何か暗い決意を決めたように勇司は感じた。
(なんか不味い事しそうな目付きだな。なんか探し物でも・・、あれは金属片か?こりゃあ結構マズイかもな。)
勇司はとっさに内ポケットから小さな金属製の薄い箱を取り出し開くと、中から白い一本の煙草を取り出し、火をつけた。
新藤は急に立ち上がると金属片にむかって走り出す。
(間に合うか?間に合ってくれなきゃ多少後悔するな。)
煙草の煙を思い切り吸い込み新藤にむけて一気に吐き出した。
【白煙】
新藤の視界が突然真っ白に染まる。新藤の目の周辺だけ、白煙がうずまくという少し奇妙な光景に、霰はかなり驚いていた。
金属片に辿り着く寸前に視界が白く染まり新藤は行動が止まってしまう。そして、勇司が叫んだ。
「久信っ!自殺する気だ止めろっ!」
スッと久信は新藤に近付き、首元にスタン警棒を当てると、バリッという音とともに新藤は倒れこみそのまま気を失った。
突然の事に全く動けなかった霰が勇司に尋ねる。
「なんで走っただけで自殺するって分かったの?」
勇司は煙草の後味の悪さに顔をしかめながらも、なんとか答えた。
「一番最近の自分の恋愛も振られて終わったからなんとなくだよ、なんとなく。」
そう言うと煙草を携帯灰皿にいれ揉み消す。そこに特技を使いすぎたため、拳銃の反動で腰を多少痛めた元がやってきて新藤の首元に手を当てる。
「よし、気絶してるだけだな。下に搬送班の連中が来てるから、引き渡して今回は終了だ。勇司、煙草一本くれ。」
もらった煙草を旨そうに吸ってる元に、久信が質問をする。
「班長。班長の特技、玄関見るとさすがにあれはやり過ぎじゃないですか?」
その質問に煙草をくわえたまま答えた。
「犯罪を犯した事のない一般人は大概、銃声を聞いたら体動かなくなるもんだ。特に今回は扉開けるのに、バール入れる隙間もなかったしな。」
そう言い終えると、後ろから搬送班が入ってきて、元が容疑者に対する報告をする。
「気絶してるだけみたいだ。一応病院連れてってくれ。あと、金属類には触れさせないように。」
搬送班の隊員達は頷くと、新藤に酸素マスクのようなものを付け、白い布を取り出す。あっという間に新藤をミイラのように包み込み、そのまま搬送されていった。
「あれは搬送班の班長、森永だよ。特技はたしか包装だったはずだ」
人間が包装されていく様子を驚きの表情で見つめていた三人を、元はうながしワンボックスへと戻り、特局へ帰っていった。
初出勤と初事件が重なるというアクシデントたっぷりの初日はこうして終えたのである。