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特技の使い方 〜吸えない煙草〜  作者: cozy
吸えない煙草 第一章 入局
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小捕物

小捕物


26班はワンボックスで容疑者が住むと思われる自宅にむかっていた。


「久信、全然分からないんだがそこに怪盗はお住まいなのか?」


勇司が住宅街を運転しながら、久信に疑惑の目をむける。


「多分ですがね。相当気合いをいれないと見つけられないんですよ。」


後部座席で久信はアイマスクをして目を休めている。

久信以外は誰も容疑者の姿もわからないまま一軒の住宅の前にワンボックスは到着した。


「すっごく普通の家だね。」


「たしかになー。怪盗っぽさに欠けてるよな。」


霰と勇司は緊張感のない会話をしている。


「とりあえず容疑者は本宮 到19歳特技は【人見知り】だと思われます。両親は事故で他界し、この住宅で一人暮らしをしている予定です。」


久信が曖昧な情報を伝えてくる。


「なんか情報がはっきりしてないな。大丈夫なのか?」


「はい。容疑者である事は間違いないと。」


元は確認すると今回の作戦は全て久信に任せる事にした。

四人は玄関の前に立ちチャイムを押すが、何も返答はないようだ。ここで久信が皆に作戦を伝える。


「班長は玄関に待機して、誰も出さないようにお願いします。とりあえず三人で確保にむかいますので霰さん、鍵を開けてもらえますか。」


「えっ?あれは泥棒みたいでイメージあんまりよくないんだよー。」


霰はそう言いながらも、役に立つ事が嬉しいのかすぐに特技を使う。


【爪化粧・銀】


霰の爪が銀色に輝き、鍵穴に爪の先を当てると、鍵穴の形に爪は伸び軽く捻るとドアはあっさりと開いた。三人は中に入ると一応声をかける。


「特局ですが。本宮さんはいらっしゃいますか?」


声を掛けるが一切答えはない。三人は靴を脱ぎ、居間に行くと回りを見渡す。


「なんて言うんだろ。すごく居間だね。」


「確かに。なんとも普通のお宅にお邪魔してるな。久信、本当にここ正解か?」


容疑者と思われる家の中に入っても、霰と勇司は緊張感のない会話を続けている。久信は特技を使い、居間を一周、二週と見回すとすぐに二階へとあがる。するとドアの閉まった部屋の前に立った。


「普通に考えたらここでしょうね。」


久信の言葉に勇司と霰は少し緊張感を取り戻し、そして確保するために装備を取りだそうとするが、久信に止められる。


「そんな物は必要ないと思いますよ。仕舞っておいて下さい。」


久信の言葉の意味が分からず、二人はポカンとしているが、気にせず久信はドアを静かに開けた。


勇司と霰は部屋を見回すが誰も見当たらない。


「誰もいねえよ久信。今のとこただの不法侵入だぞ。」


「たしかに誰もいないねー。そこに飲み物とお菓子はあるけど。」


二人の言葉を無視して、久信は目を細め必死に何かを見ようとしてる。

そして、久信は部屋の隅に近付いて行った。


「本宮 到さんですね。特局のものです。今まで大変でしたね。」


久信が壁にむかって話しかけ、空中に手を伸ばした瞬間、勇司と霰にもそこに何かがいる事を感じた。


「そこのロリコンと霰さん。こっちにきて本宮さんに触れて下さい。じゃないと多分話しもできないですよ。」


何か言い返したい気持ちを押さえて、勇司と霰は近付き、手を伸ばし何かに触れるとそこに人がいるという事が多少はっきりし、声が聞こえてくる。


「僕だって盗む気なんてなかったんだよ。親が残してくれたお金だってあるし。」


「分かってますよ。ちゃんとレジに並んでたの見ましたから。レジの人には気付いてもらえなかったようですが。」


「そうなんだよ。だからあまり迷惑にならないように、いつも違う店で少しずつだけ・・・。前お金だけ置いたら誰かに持っていかれたし。僕だってこんな特技さえなければ!バイトの面接行っても面接に来たことすら気付かれないし。ネットで注文しても結局届けてくれるのは人だから気付かれないし。最近、どんどん人に気付かれなくなっていくんだよ。」


「多分ずっと特技を知らず知らずに使っていて、気付かぬ間にかなり成長しているのでしょうね。」


黙って話を聞いていた勇司が、多分本宮の両手らしきものを握って話す。


「分かるよ!分かるよ本宮君!いらないよな特技なんて。自分も特技が判明したときなんてショック受けたよ。18の時に特技が【喫煙】なんて分かったから親父には説教されるし、いい事なんてないよなー。」


勇司と本宮が談笑を始め、人見知りを越えた仲を作り始めていた。


「だけど久信君、どうやってここ突き止めたの?防犯カメラの映像じゃお姉ちゃんでも多分見えなかったでしょ?」


「それですか。一応彼は他の人には見えなくても、ポイントカードを持ってレジに並んでたんですよ。そこをお姉さんになんとかアップにしてもらい、会員番号から割り出しました。」


勇司は談笑を終えると、久信に聞く。


「久信、本宮君はなんとかならないのか?捕まえるってのはさすがにな。」


「まあ、そこら辺は大丈夫でしょう。店には商品代を支払い、あとは施設なり学校なりで特技の制御を覚えれば問題ないはずです。」


久信の言葉に、本宮は嬉しそうに笑っているように勇司は感じた。


この世間を多少騒がせた怪盗顔なし事件は、極めて静かに幕を閉じたのである。



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