26班
26班
勇司が意を決してドアを開けると、予想よりも普通のオフィスとたいして変わらない風景と、予想外の人物が待ち受けていた。
(特局とはいっても、昔見た親父の職場とたいして違いはないな。なんか多少近未来感とかあると思ってたんだけど、変わらないのは当たり前か・・・・。あそこにいるの親父だ。)
勇司が驚いていると、そこに多少やっかみを感じるほど整った顔立ちに、涼し気な微笑みを浮かべたもう一人顔見知りの男がいる。
「遅刻ですか?いいご身分ですね。班長はあなたではなくあなたのお父様のはずですよ。」
そう言ってきたのは最近の4年間、あまり学生らしくない学生生活を共にした、ロングコートに眼鏡がお決まりの 高山 久信 であった。
「なんでお前もいるんだよ?久信。」
いきなり顔見知りの二人の登場に驚き、そして多少歩き疲れてぐったりしていると、少し離れたデスクに座っていた勇司の父親が視線を集めるように手をパンパンと叩く。
「よし、これで全員揃ったな。とりあえず各自座席にでも座ってくれ。まあ、初顔合わせだし軽く自己紹介でもしておこうか。一応今日付けで、この26班の班長となった橋中 元だ。そこでなぜか後頭部から血を流してるバカ息子の父親でもある。特技は【拳銃操作】。まあ、班長とでも元ちゃんとでも好きに呼んでくれ。これからよろしく頼む。」
元がそう自己紹介を終えると、もう一人座っていたかなり幼く見える女の子と久信が軽く拍手をしている。そして立ちあがるが、あまり座っていた時と変わらない身長の女の子が自己紹介をはじめた。
「初めまして。この度26班に配属される事になりました真中 霰です。あられって呼んでください。ちゃんはできたら付けないでくれたら嬉しいです。一応どう見えるかは分かりませんがみんなと同じ22歳です。特技は【十色の爪化粧】っていいます。これからよろしくお願いします。」
そう言ってペコッと頭を下げるとそのまま霰は席に着いた。するとすぐに久信が立ち上がり、勇司より先に自己紹介に入る。
「今日からお世話になる高山 久信です。そこの方以外はお好きに呼んでください。特技は【思金神の眼鏡】、これからしばらくお世話になります。」
そう言い終わると久信は席に着く。自分以外の自己紹介を聞き終え、勇司は多少憂鬱な気分になってきていた。
(拳銃操作に十色の爪化粧に思金神の眼鏡って、全員名前の時点で勝ち組だよな。)
そんな事を思いつつも勇司はかなり重くなってきた腰をなんとかあげる。
「橋中 勇司です。さっきの紹介通り、そこの父親の息子で特技は【喫煙】。だけど個人的に煙草は味も匂いも嫌いです。だけどしょうがないんです。自分で決めたわけじゃないし・・・。まあ、とりあえずよろしくです。」
少し憂鬱なままなんとか自己紹介を無事終える。今日は初日ということなので、何かもしもって事がないかぎりこのまま解散らしい。もしもってのが怪しい限りではあるが。
やはりというか何というか、その時パソコンから何かを知らせる連絡音が鳴り響き、慣れない動きでパソコンを操作すると、元が少し苦い表情を浮かべながら三人を見る。
「残念ながら解散は中止だ。一応現場に行くぞ、見学になるだろうがな。8班も一緒だからたいしてする事はないだろうけど一応気は引き締めておけよ。」
「何の事件なんですか?それと、あたしは事務や連絡などが担当だったはずですがあたしも行っていいんでしょうか?」
霰からの質問に元は少し考え、すぐに答えを出す。
「マンションに立てこもり事件だ。まあ、今回は初日だし現場を見てみるって事でお嬢ちゃんもついてきな。まあ、8班もいるし大丈夫だろ。」
そう答えを聞くと、霰は多少嬉しそうな表情を浮かべている。
「じゃあ行くぞ。ちゃんと持っていくものはちゃんと持っていけよ。」
準備を慌ただしく済ませ、勇司達四人は黒のワンボックスタイプの車へと乗り込んだ。
こうゆう初日には大概よくないアクシデントが起こるという予感を漂わせつつも、勇司達は事件現場へサイレンを鳴らし、ワンボックスを走らせて行くのであった。




