スタイル
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部隊を率いる住吉は目の前の巨漢の男の正体を知っていた。武道を嗜んだ者であれば確実にその名を聞く事はあるが、その試合を見る機会はあまりにも少ない。
現役時代の試合の映像を見てもその試合のほとんどの相手が一撃で沈められ、攻撃を受けても微動だにせず返す一撃で相手を沈める。そしてついた通り名が『不沈艦』であった。
自らが師事していた空手道場にて百人組手を敢行し、それを最後に武道会から姿を消す。
そこまでが住吉の知る、神山
辰雄の情報の全てであった。
構えすらとらない辰雄を見ると、美優は軽く飛び枝の上に腰掛け楽しそうに笑顔を見せる。
「久しぶり。辰雄ちゃんちょっとだけ本気。本気の手加減だけど。」
「はあ。よく分からないけど、ただの不沈艦じゃないってのが気になりますがどうゆう意味でしょ?」
下から尋ねる勇司の質問に、美優は答えることなく楽しそうに現場を見つめているが、横で久信は何かを思い出すように考え込んでいた。
「話には聞いた事があります。辰雄さんの噂は余りにも多い、まるで都市伝説のように。特に通り名にについては様々な説があったはずです。一番有力な説は確か『高速航行可能な航空戦艦』でしたね。」
「・・・通り名が異常に長いな。そして高速航行可能な航空戦艦ってネーミングセンスを感じないぞ。」
三人が辰雄の後ろ姿を見つめる中、両手をブラリと下げたまま大きな身体に似合わないステップを踏み始めるが、そのステップは軽快であり足音もしない。
ステップに合わせ身体を振り、踊るように全身を動かす。
「凄まじく華麗だな、・・・ミスマッチ感が半端ないけど。」
「ですがあれが本当の戦闘スタイルというわけですか。動きに違和感は全く感じられませんし、・・・そして飛びましたね。」
華麗な跳躍を辰雄は見せると、部隊の一人に飛び掛かり斜め上空から膝を打ち下ろす。ヘルメットとゴーグルを砕く一撃をきっかけに混戦が始まっていた。
飛び込んだ事により、味方への誤射を恐れ自由に銃器を撃てなくなる中、辰雄の動きは加速していく。
下から蹴り上げアサルトライフルを上空に飛ばすと、同じ足を降ろさず顎先を蹴り上げる。後ろからは突き付けられ、放たれる銃弾を身体を回して躱すと、そのままバックハンドブローでなぎ倒す。
裸足の足で地を蹴り、相手の眼前で高く飛ぶと上から肘を打ち下ろし、左右から狙ってくるショットガンを曲げた手首で引っ掛けると、あさっての方向へ弾は飛んでいく。回転力のある後ろ回し蹴りでコマのように左右の二人を吹き飛ばすと、次の獲物の元へ駆けていった。
近くにいる者から順番に一撃で沈められていく部隊を、住吉は青ざめた表情で見つめていた。既に半分以上の隊員が脱落し、もう作戦自体を止める事もできない。
「なかなかにえぐいな。そーいや俺の容疑は晴れたのか?」
「それは問題なく。雪さんがパッと触れ、スッといった感じでしょうか。証拠自体を隠滅していたのが逆に仇となりましたね。消したのを見つけるのは容易だったようですよ。」
「とりあえず一安心だな。それにしてもあっという間に減ったねー。」
「ええ、清々しい程に一撃ですね。」
空中へ打ち上げられる五人の隊員を視線で追う間に、次の隊員が打ち上げられる。圧倒的な闘いを見守る三人の視線はまるで花火会場のような軌道を描いていた。
「辰雄ちゃん帰るよ。」
「押忍。」
息すら荒げること無く、住吉を残し特殊部隊員達を一ヶ月は見動き出来ない程に手加減して叩き伏せると、辰雄は美優の横へと自然に戻る。
「あとはよろしく。」
「押忍。」
用は済んだとばかりに二人は立ち去っていく中、勇司と久信は今回の筋書きを書いた住吉と向かい合っていた。
「あの二人も銃器をもった一人を置いていくんだから困ったもんだよな。せっかくだったら銃器を潰してから去ってくれればいいのに。」
「お二方にとっては脅威の対象ではないという事でしょう。困ったものです。」
すると呆けていた住吉は持っていた拳銃を久信に向けると、いきなり発砲する。
弾の軌道を見て、首を傾けて銃弾を躱す久信を見ると住吉は銃を下に降ろした。
「全てこの短時間で解決されたか。やはりもう我々に存在意義はないな、いろいろとすまなかった。」
一度頭を深く下げ、銃を持ち上げ顎の下に押し当てると、住吉は躊躇うことなく引き金を引こうとするが、その引き金は煙で固定され弾は発射されない。
すると静かな歩みで近付く久信が銃を取り上げ、住吉に向けての道を勇司に作る。
「処分はあなたに任せるそうです。銃も取り上げましたし、勇司さんのお好きにどうぞ。」
「そうなの?ではでは遠慮なく。」
ゆっくり歩み寄る勇司を見て住吉は目を瞑り覚悟を決めていると、左足に鋭い衝撃が走り思わず膝をつく。
その後に何も攻撃が襲ってこず、目を開けると見えたのは立ち去ろうとする二人の後ろ姿であった。
「あれだけでよかったのですか?」
「んっ?なんてったって俺のローだぞ。一発で十分だろ。後はお偉いさん方に任せるよ。」
「あなたが良ければそれで問題ないですね。では戻りましょうか。」
二人の背にむかって住吉は声を掛ける。
「なぜ俺を恨まない?俺には恨まれる事をした覚えがある。」
振り返り少し困ったように勇司が答えた。
「この状況じゃなんつうかそれも無理と言いますか、こっちは無傷ですし最初の死体も事故のものらしいですしね。流石に怪我人を運び出す義理はないのでお任せします。それにしてもロー効きませんでした?」
少しだけ住吉は驚いた表情を浮かべ、そして軽い笑みを浮かべて答えた。
「いや、効いたよ。十分過ぎる程に。」
姿が見えなくなる二人を見つめながら、住吉は周囲を見渡す。
「呆気ないほどに我々は弱いな。さて、最後の仕事をするか。俺の首だけで済めば僥倖だが。」
山を下るとそこにはかなり古い型の小さな国産車が止められていた。久信が乗り込むと、助手席が開けられる。
「乗ってください。お送りしますよ。」
「これお前のか?激渋だな。走行距離は58万キロって頑丈過ぎるだろ。」
「祖父からのお下がりですよ。では戻りましょうか。」
ハンドルを握りゆったり走らせる久信に外の景色を見ながら少しうつらうつらしながらも、勇司は礼を言う。
「悪かったな、送ってもらっちまって。おまけにロングコートも汚しちまった。」
「構いませんよ。お礼なら既に受け取っていますので。」
「???。まあ、それならそれでいいか。」
久信の操る車の後部座席には、袋に入ったDVDボックスが見え隠れするのであった。
主人公の回と思いきや、書いてるうちに違う感じになってしまいました。
それと多少のアクシデントがあり話が遅くなってしまい申し訳ありません。




