雨中
雨中
スターダストも効かず、少し辛そうに立つ勇司はうつむき、銀色に輝く煙草に火をつけていた。
【真銀煙・傘】
室内で銀色の傘をさす異質な存在に黒山は一瞬行動が止まるが、すぐに攻撃姿勢へと移っていく。勇司は傘をさしながらまるで天候が気になるかのように上空を眺め、特局製のターボライターに付いている押してはいけないとばかりにドクロマークの付いているボタンを押し、天井に放り投げた。
天井の火災報知機に向かって飛んでいくターボライターは、火災報知機に当たると爆発を引き起こし一気に火が広がる。同時にスプリンクラーが作動し、室内には水滴が一斉にばら撒かれていった。
傘に落ちる雨音を聞きながら勇司は赤い煙草を咥え、親指と中指をスナップで鳴らす。妙なほど乾いた音が部屋に響き火花が飛びちると、人差し指から炎が吹き出していく。
炎を煙草に近付け、火をつけると赤い煙を吸い込み勇司はなおさら表情を曇らせながらも、人差し指を拳で握り込みその火を消す。
【赤煙】
吸い込んだ赤煙によって、勇司は身体を黒山の動きについていけるまでに強引に動かしていく。スプリンクラーが水を撒き散らす中、勇司は開いた傘を黒山に向けると、お互いずぶ濡れになりながら走り寄っていった。
水滴で赤煙が消える中吸い殻を吐き捨て、勇司は開いた傘を盾にぶつかっていくが手の中から黒山の隠蔽によって傘が消え去る。
しかし織り込み済みの攻撃に傘の後ろで拳を振りかざしていた勇司は、タイミングを合わせて打ち込んでいく。
攻撃のスピードが跳ね上がった勇司の拳を黒山はがっちり腕でガードし、逆に膝を腹へ打ち込むと黒山は貼り付けた笑顔を崩さない。
「苦手な雨の中をご苦労な事です。」
攻撃を受けても赤煙を吐き出さず勇司は微笑み、黒山の袖を掴むと更にそのまま器用に煙を出さずに言葉を返す。
「・・・あんたも多分だけど得意じゃないだろ、だからあんたも入れてやるよ。」
【喫煙室】
二人の周囲を透明な壁が包んでいき、水滴から遮断され内部の空気も一気に清浄化すると、黒山は見動きの取り辛い空間に閉じ込められた事に気付く。透明な壁に拳を叩きつけるが、たわむ事すらなく弾き返されていた。
「これは少々まずい展開ですね。」
「だろっ。ここはこっちのフィールドだからなっ!」
黒山は瞳から血の涙を流しながら更なる錠剤を取り出そうとするが、勇司は体ごとぶつかって阻止すると狭い喫煙室内での戦闘が始まる。
距離を取る事の出来ない中、二人は最小限の防御でインファイトを選択することしか出来ない。受けた拳を返し、それを捌き肘を叩き込む。
二人は攻撃力に対し、少しお粗末な防御力は互いの身体をボロボロにしていく。そして打撃戦を繰り広げる二人は突然その動きを鈍らせていた。
「ハァ、ハァッ・・・。スターダストの効果がやっと切れたみたいだな。」
「そちらも辛そうですよ。」
黒山が血の涙と共に、口からも鼻からも出血しながらポケットから白い錠剤を取り出そうとするが、同じくズタボロにされている勇司はその動きを止めようとはせず、袖口から赤い煙草を取り出し咥えていた。
(急げ急げ、今が一番の焦りどころだっ。頑張れ俺っ!)
二人のドーピングはほぼ同時に行われた。錠剤を噛み砕き飲み込む黒山、人差し指に火を灯し赤い煙を吸い込む勇司。
違うのは効果が出始めるまでの時間であり、個体のスターダストに対し、気体である赤煙は瞬時にその効果を発揮する。
その一瞬のタイムラグを勇司は狙っていた。筋力と体力を一瞬の内に振り絞るかのように加速して迫る。膝の横に加速の勢いのままローキックを叩き込み、反応出来ずにいた黒山の膝を一発で破壊する。
バランスの崩れた所を間髪入れず、逆の膝を横から踏み抜く。更に顎先を下から肘で引っ掛けるように肘を叩き込み、スターダストが効果を出そうとする前に黒山の肉体は崩れ落ちていった。
勇司が赤煙を喫煙室内に備え付けられている灰皿に捨てると喫煙室は消え去り、スプリンクラーもいつの間にか止まっている。倒れた黒山の横に勇司は座り込んだ。
「フゥ・・・、俺お疲れさまでした。何とかなるもんだな、よぼよぼだけど。」
痛む身体に鞭打ち、黒山を入念に縛りあげ確保するとドアに向かうが、そのドアを開ける術が見当たらずドアを叩く。
「久信さーん、少しばかり不具合でドア開かないんですが、何とかなりませんか?」
ドアに耳を当て返答を待つが、目の前のドアを突き破り日本刀の刃が顔のすぐ横を飛び出してくる。
思わず飛び下がる勇司の目の前で扉は切り開かれ、そこにはシャツを血に染め日本刀を持つ久信の姿があった。
「おいっどうした?そんな血塗れになっちゃって。そしてコートまでなくなって寒そうだな。」
「あなたに言われたくありませんよ、結構やられましたね。さて、では搬送班呼びましょうか。」
ドアの外に出ると、久信によって倒された男達が確保されておりその数に勇司は驚く。
「こりゃあなかなかに張り切ったな。」
「あなたもなかなか楽しそうに打ち合ったようで。」
二人は顔を見合わせて笑顔を見せると、すぐに搬送班を呼び運ばれていく容疑者達を眺めているのであった。
気絶してもなお笑顔を貼り付けている黒山を含め、全員が運ばれていくと二人はビルの外に出る。
「とりあえずこれで一段落したのか?」
「ええ。サイトも雪さんによって閉鎖されましたし、0班の皆さんも無事のようです。一人行方が分かりませんが、それは最初からですしね。」
「そうか。このままの格好だと警察に通報される予感だ。だけどどうやって帰る?行きはパラシュートだしな。」
すると二人の上空にヘリが飛んできて、風が吹き付けるとゆっくりワイヤーが降りてきていた。
「お迎えのようですね、では戻りましょうか。」
「だな、お迎えとはありがたい。もう動くのはしんどいとこだったしな。」
二人はワイヤーに引き上げられ、ヘリに乗り込むとすぐに特局への道を戻っていく。
こうして大きな騒動を巻き起こした懸賞金事件は、一人を除く0班と情報班の活躍によって収束を見せていくのであった。
なんとなく解決です。
なかなかに書くのに時間が無駄に掛かりましたが、四章は無事終わりそうです。よかったよかった。




