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特技の使い方 〜吸えない煙草〜  作者: cozy
吸えない煙草 第一章 入局
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奪還

奪還


勇司と雪は保安室の扉の前で、こっそりと聞き耳をたてていた。


「ゆうじ君、何も聞こえないね。ここもしかして誰もいないのかな?」


「いないとしたら、うちら普段の行いがいいみたいですね。」


勇司と雪はそっと保安室のドアを開けると、待ち構えていたスキンヘッドの大男が、バットを振りかざし迫ってきた。勇司と雪の普段の行いはたいしてよくなかったみたいである。

勇司はあらかじめ準備していた、紫色の煙草に火をつけた。


【紫煙・麻痺】


勇司は紫色の煙を、大男の顔面に吐きかけ、一瞬動きが止まった所を雪が近付く。


「えいっ!」


雪がスタンガンを大男に押し当てると、そのまま壁際まですっ飛んで行き倒れる。大男は体からプスプスと煙が上がり、立ち上がる事はなさそうだ。


「雪さん、そのスタンガンちょいと異常じゃないですか。」


勇司は紫煙の影響でピリピリした口の中を気にしながら言うと、雪は小首をかしげる。


「スタンガンさんがきっと頑張ってくれたんだよ。とりあえずあられちゃん探さなきゃ!」


雪は保安室内にある機器に触れていく。


【電脳誘惑】


「あられちゃん待っててねー。いたっ!縛られて最上階にいるよ。回りには誰もいないみたい。だけど、横の部屋には五人いるみたいだよ。」


「その部屋に人達バリッて電子機器からやれないんですか?」


「あれはねー、ちょっと無理かな?触ったら頑張ればできるんだけど。」


「じゃあやっぱり行くしかないですね。」


「じゃああられちゃんの部屋の前の防火扉しめちゃうね。そしたらもうあられちゃんを誰も触れないよっ!」


霰のいる部屋の防火扉をしっかりと閉めると、勇司と雪はエレベーターに乗り込んだ。


「エレベーターは不味くないですか。途中で誰かにとめられたり、待ち伏せされたりしたら。」


「大丈夫だよ、ゆうじ君。」


【電脳誘惑】


エレベーターはあり得ない速度で上にあがるとあっという間に最上階に辿り着いた。そして雪は助けに向かおうとすぐさまドアを開けようとする。


「雪さんちょっと待ったーっ!これ確実に開けたら五人が待ち構えてません?扉のむこうの様子見れませんか?」


「たしかにそうだね。ゆうじ君冴えてるよー。はいこれっ。」


勇司は渡された雪の携帯を見ると、画面は小さいがあきらかに五人がエレベーターにむけて小銃を持ち、待ち構えていた。


「危ないよ雪さんっ!開けてたら二人とも穴だらけでしたよ。」


「じゃあ一回下に降りる?だけどあられちゃんはあと壁一つむこうなんだよ。」


勇司は少しの間考えると煙草ケースから銀色と白色の煙草を取り出す。


「雪さん、エレベーターを少しだけ、ほんの少しだけあけてください。」


エレベーターが煙草一本分開いた所で、勇司は白色の煙草をくわえて火をつける。


【白煙】


勇司は白い煙を部屋へと吐き、部屋には薄いモヤがかかる。そしてもう一度小さな携帯の画面をジッと見た。


「さすがにこれくらいじゃ動揺もしてくれないか。ではでは。」


勇司はさらに銀色の煙草をくわえて火をつける。


【銀煙】


銀色の粒子の混じった煙を、五人が持った小銃の銃口に向かって吐き出す。


「雪さん今だ、扉開けてっ!」


扉が開いた瞬間にエレベーターから勇司は飛び出すと五人は迷う事なく小銃を勇司にむけて発砲するが、その弾は銀煙によって銃口で止められ、銃は五台とも暴発し逆にその五人を仕留める。


(全部こっち狙いだったな。狙いは雪さんってのは本当か。逆に銃じゃなかったら厳しかったかもな。)


勇司はホッと息を吐き、雪を静かに呼び寄せた。


「やったね、ゆうじ君っ!あられちゃんすぐそこだよ。」


「そうですね。雪さん早く防火扉開けましょうよ。霰きっと不安がってるから、雪さんに飛び込んでくるんじゃないですか。」


勇司は軽口を叩くと雪はモジモジしながら少し照れている。


「本当かなー本当かなー?あられちゃんお姉ちゃんに飛び込んできてくれるかなー?」


雪はかなりテンションをあげながら防火扉を開くとそこには霰が縛られていて、他には誰の姿も見えない。

縛られている霰が目を開き、勇司と雪の姿を見つけた瞬間叫んだ。


「お姉ちゃん、勇司君、きちゃダメッ!すぐ逃げてーっ!!」


勇司はすぐ自分の後ろにまだ残っていた白煙が少し揺らめくのを感じ、反射的に転がる。勇司の首元を、ナイフが滑っていき思わず背筋が凍り付く。


勇司が体制を立て直し、後ろをみると少し笑ったような顔のオールバックの男が拍手をしていた。


「よく避ける事ができましたね。あと、真中 雪さんを連れてきていただいてありがとうございます。」


オールバックの男は丁寧に頭を下げる。


「お前いつからそこにいた?」


「いつからと言われましても最初からとしか。彗星会で若頭いや、もう組長もいないので若頭でもないですか。ただの黒山です。ちなみに言いますと特技は【隠蔽】。」


そう言うと同時に、勇司は黒山の姿を見失ってしまう。


(今どうやった?どこから来る。)


【銀煙】


勇司は首元に煙を集中させると、銀煙にナイフがささりなんとか止まる。


【銀煙、ダーツ】


勇司は黒山にむけて銀煙のダーツ

を多数放つが、ダーツを放つ時にはもう黒山の姿を見失ってしまった。


【白煙】


勇司はなんとか黒山の姿を掴もうと、部屋中に濃ゆいモヤを発生させるが、モヤの揺らめきを感じた時には、腕をナイフで軽く抉られている。


「ツゥッ!こんにゃろ!」


苦し紛れに蹴りを放つが、何も触れる気配がない。

そのまま足に何か滑るような気配があり、勇司は思わず足を引くが、その時にはズボンは切り裂かれ、足から血が流れ出しズボンを濡らしてていた。


(こりゃあ強えよ。なんともならねえ。)


勇司は銀色のタバコを取り出し、急所に銀煙を纏わせるが肩口、脇腹と次々に切り裂かれていく。


「安心してください。真中姉妹は丁寧に扱わしていただきます。姉の方の特技があれば、これからいろいろと困る事はないでしょう。」


勇司は再び白い煙草を取り出し、再び部屋中にモヤをかける。


「またそれですか。通用しない事はわかってるはずですが。」


黒山はまたも姿を隠蔽し勇司は黒山の姿を見失うが、血に染まった手で煙草ケースから赤い煙草を取り出し、ターボライターの着火ボタンを押すと青白い炎が凄まじい勢いで吐き出される。


(さすが池中班長特製のライター。普通のライターではこれ火つけるのも難しいんだよ。)


勇司は赤い煙を吸い込み、息を止めた。


(苦いっ!まずいっ!痛いっ!喉が焼けるっ!これが嫌なんだよ。むせるな、煙が逃げる。我慢だ我慢、デメタンとムサイクの事を思い出せっ!)



【赤煙】



勇司の正面、すぐ近くのモヤが揺らめいた瞬間ナイフが飛び出してくる。

勇司は眼前に突然現れたナイフに完全に対応し、黒山の手首を力強く握った。


「なにっ、さっきまで反応もできてなかったはず。」


黒山は驚愕に目を染める。


(もう持たないっ!一瞬で決める。)


勇司は握った手を離さず、黒山を引き寄せ顎の下から左肘をかち上げる。黒山はその一撃で半分気を失う。

さらに空いた喉元に勇司は手首を離し、右肘を叩きこんだ。


黒山は完全に意識を手放し、その場に崩れ落ちていく。


「カハッ、あらケホッ、雪ゴホッ、無事ガハガハッ、グハッか?」


勇司がなんとか声を絞り出すと、縄をほどかれた霰が涙を浮かべながら、手を広げた雪を無視して勇司の元へと飛び込んでくる。


「ウッ、勇司くーん、あたしのために怪我なんてしないでよー!」


勇司の胸元に顔をうずめて泣きながら、肩口をポコポコ叩いている。


勇司は声を出せない変わりに、霰の頭を撫で、さらに顎の下をヨシヨシとしてみると霰が突然暴れ出す。


「もう!あたし子供でも犬でもないんだからっ!」


顔を真っ赤にしてむくれている霰を見て、勇司が少しだけほっこりしている。少し向こうには手を拡げた格好のまま固まる雪がいるが今は気にしないでおく。


三人はエレベーターで降りると、下で腰を押さえている元と合流しビルの外へと出た。

外にはすでに、局長と搬送班そして医療班が待ち構えている。


「とりあえずはお疲れ様でした。」


局長はそう言うと搬送班をビル内部に入れ、全ての容疑者を搬送させる。


「まあ、皆さん無事だったので今は何も言いません。処分は後日という事で。それで、久信の姿が見えないようだが?」


勝義の質問に元が何かを誤魔化すように話し出す。


「さあな?今まだこっち向かってるとこじゃないか。援護を頼んでたからな。」



全ての搬送を終え、医療班による軽い治療も終えると現場には四人が残った。そこに少しロングコートを汚した久信が帰ってくる。


「久信、お前どこ行ってたんだ?珍しくそんな服まで汚して。」


勇司の言葉に久信は何も答えない。


その時爆発音が響きわたり、彗星産業のビルだけが崩れ落ち、瓦礫の山となる。


勇司、雪、霰は唖然とし、口をパクパクとしていた。


「親父、久信もしかしてやったか?」


元と久信は笑いながら口を揃えて答えた。


「さあな?」



そして勇司は現実に戻るとみんなに質問をする。


「そーいやワンボックス潰れて皆も帰ったけど、俺たちどうやって帰るんだ?」


しばらく無言の時間が続き、誰かが答えた。




「さあな?」




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