入局
入局
あの日あの瞬間から、世界は良くも悪くも大きな変化を迎えた。全世界で起こった突然の出来事であったが人々は8月28日を【変革記念日】と呼んだのである。
その変革記念日より5年近くの月日がたとうとしていた。
勇司はまだ新しさの残る大きな建物の中で、壇上に立つ高そうなスーツを着た男の話を、買ったばかりの背広に身を包み少し眠そうに聴いている。
「・・・、ここはまだできて間もない組織です。まだ全てが分かったわけではないですが、それでも立ち止まっているわけにはいきません。皆さん自らの力に溺れず、これからの発展に協力をお願いします。」
そう締め括ると、高そうなスーツを着た男は壇上から降りていった。
ここは特殊技能犯罪捜査局、通称【特局】の本局である。まだ試験的な運用段階でここにしかないため、本局も支局も関係ないわけではあるが。
ここ特局は変革記念日から一年後、政府の肝いりで作られた建物と組織である。特技を使った犯罪が多量に発生し、今までの警察組織では対応ができず異例の早さで政府が対応した。特に建物は、地上10階、地下10階の建物を建築に使える特技を持った人選により1ヶ月で造り上げた代物である。
特技とは変革記念日のその瞬間に行っていた事、その状況、感情などにより全ての人々が特技を得たと言われている。その本人が望む、望まないにかかわらず。
そして勇司は特局の中を迷いながらうろうろと歩き回っている。
「なんだこの建物。窓はないし全部同じ造りだし。確か26室にこいって言ってたけどなんで25室の隣が8室なんだよ・・・。」
ブツブツ言いながらも、なんとなくの勘を頼りにフラフラ歩き階段を降りていくと第0室と書いた部屋の前にたどり着く。
「何をどうしたら0室になんて到着するんだよ。ハァ・・・。」
溜め息をついた直後、勇司の後頭部に何か固く鋭いものが突き刺さった。
「ヌワッ!後頭部から何かヌルッとしたものがーっ!」
後頭部を抑えて勇司は床の上をのたうち回る。なんとか痛みをこらえ、刺された相手を見るとそこには漆黒のマントを羽織った、あきらかに年下に見える黒髪の女の子が、これもまた漆黒の日傘を持ち立っていた。漆黒の服を纏った女の子がゆっくりと口を開く。
「誰?ここは関係者以外ダメのはず。」
そう言って漆黒の日傘を勇司のおでこにピッタリと突きつけてくると、生命の危機を感じた勇司は急いで頭をフル回転させて言い訳を考えだす。
「一応関係者です!あーっ、ちょっと先っぽ押し込まないでっ!一応、一応じゃないですっ!!」
勇司は慌てて先ほど渡された、IDカードを見せると、カードをチラッと見た女の子は日傘をゆっくりと引いていく。
「26班。26の部屋ならもっと上。」
その言葉を聞き、女の子から勇司は慌てて離れると頭を下げながら後退する。
「ありがとうございましたーっ!」
勇司は叫びながらマント姿の女の子に背を向け走りさっていった。そして息を荒げながらもなんとか先程降りてきた階段まで辿り着く。
「なんで室内でマント&日傘なんだ?確かに激しく色白だったけど。色白で綺麗だったけどいきなり傘で突くような娘はなー。」
いろいろとぼやきながらも、やっとドアに第26室と書いてある部屋の前に勇司は到着する。
(まあ、いろいろあったけど社会人生活スタートだな。とりあえず挨拶だ、最初が肝心だし気合いをいれなおしていかないとだな。)
自分に喝をいれると勇司は先ほど活躍を見せたIDカードで26室のロックを開け、ドアを開くのであった。