誘拐
誘拐
勇司は26室に珍しく一番乗りで到着し、歌を歌いながら室内の清掃をしていた。
「カッニカマを凍らせてー♪磨いて刺したらちょい痛いー♪」
その時、久信が26室に入ってくる。
「どうしました?バカ面がいつもの八割増しですよ。」
今日の勇司はそれぐらいでは全く頭にくる事もない。
「今日、開発班から原付が届いたんだよっ!聞いてくれ久信っ!あの原付、オプションでキャタピラーも付いてるんだよ!おまけにオプションで前輪を変えると耕運機にもなるらしい!」
「それは本当にバイクなんですか?とりあえず絶対に乗りたくはないですね。」
「そんな事言うなよー。おまけで、池中班長のクリアファイルつきだったんだぞ。」
もはや久信は何も答えない。
「そういや、霰遅いよなー。昨日の夜中テレビであった、中年だらけの将棋大会でも見て、寝坊かな?」
「たしかにあれは最近では一番面白かったですね。今回シーズン8は一番いいシーズンになりそうですよ。」
勇司と久信が昨日のテレビでの対局について討論していると、特局に全館放送が鳴り響いた。
「あられちゃん、あられちゃんがーっ!・・・」
勇司が突然流れ突然切れたスピーカーを見ながら久信に言う。
「今の雪さんの声だよな?かなり切羽詰まってなかったか?」
「たしかにそうですね。何か霰さんにあったのでしょうか?」
そして、元が慌てた様子で26室に入ってきた。
「お嬢ちゃんが誘拐された。今回、手の空いている全班出動だ。早く解決せにゃ雪嬢も危ない。」
「どうして霰が誘拐されるんだ?」
「犯人の目的は間違いなく雪嬢だな。さっき一人で行こうとした雪嬢をなんとか止めた。」
元が唇を噛み締め、悔しそうに言うと軽く机を叩いた。
26班の三人はワンボックスに乗り込むと、誘拐現場とされている、霰の寮へと向かう。
雪は目が覚めると、医務室のベッドに寝かされていた。横には局長である勝義が立っている。
「局長、あられちゃんは?」
「今動ける全局員で捜索してるよ。雪君もここからみんなを手伝ってくれないかな?」
雪は少し考えると、小さく頷いた。
「局長、悪いんですけど携帯貸してもらえませんか?」
そう言い、勝義から携帯電話を受け取ろうとした瞬間。
【電脳誘惑】
雪と携帯と勝義が繋がった時、携帯電話から激しい電流が勝義に流れ込み、そのまま気を失ってベッドに倒れ込む。
「局長、ごめんなさい。あられちゃんは私の手でなんとかしたいの。本当にごめんなさい。」
雪は頭を下げながら医務室から脱け出し、特局から不思議な形をした三輪のバイクで走り去っていった。
勇司達は寮の二階にある、霰の部屋にきている。
「もうすでにかなり捜査した後って感じだな。」
元は転がっていた将棋の駒を拾いながら部屋を眺める。そして久信が眼鏡を触りながら特技を使った。
【思金神の眼鏡】
「班長、誘拐されたのはここでは無さそうです。霰さんは抵抗したあと、窓から飛び出したようです。かなり上手く痕跡を消してありますね。逆に消しているから分かる部分もあるのですが。」
そのまま寮の裏手にくると、さらに久信は続ける。
「ここでも霰さん頑張ったみたいですよ。最低でも二人、いや三人は倒してますね。そして、ここの角で捕まってしまいましたか。ここからは車でしょうか?車の痕跡まで消すとは、なかなかやっかいな特技持ちがいますね。」
「久信さすがだな。車となると雪嬢がいればすぐになんとかなるんだが、こっちで地道にやるしかないな。んっ?これは。」
元は道の端に落ちていたバッジを拾う。
「これは彗星会か。」
「なんだ親父、彗星会って微妙にメルヘンな名前は?」
「昔からこの辺り一体を縄張りとしている、分かりやすく言えばヤクザだよ。昔は武闘派だったが最近はあまり、派手な活動はしなくなったと思ってたんだが。とりあえずは報告だな。」
車に戻り無線を手にとるが、その時に元の携帯が鳴った。
「こんな時に誰だ?局長?珍しいな。はい、・・・・分かりました。すぐむかいます。」
「親父、局長なんだって?」
「埠頭にある第3倉庫に大至急こいってよ。なんか局長、焦ってたみたいだし急いで行ってみるか。俺の事、班長って呼ぶぐらい焦ってたしな。」
勇司が運転するワンボックスはサイレンを鳴らし、局長が待つと思われる埠頭へむけて走らせて行くのであった。