出会い
出会い
元の腕もほぼ完治し、26班は通常の姿を取り戻していた。しかし勇司は勝義からの指示で、特局地下10階へと初めて足を踏み入れていた。
そこはどのフロアより広く、暗く、雑然といろいろなものが散乱していた。
「すみませーん。局長に言われてきたんですけどー。」
奥から声が聞こえる。
「橋中のせがれか。こっちきな。」
勇司が足元に気をつけながら進むと、突然電気がつく。そこにはたくさんのバイクらしきものが並んでいた。
「局長命令だ。好きなのもっていきな。」
そこには多少不機嫌そうに白の薄汚れたつなぎを着る老人が立っていた。この人こそが開発班、班長 池中 海人である。
局長室には各班からの事件に関する報告書が全て届く。報告書の束の中になぜか一枚のDVDがあった。そのDVDにはタイトル、報告書26班(雪)ディレクターズカット版。と書いてあったのである。
どうしても気になった勝義は、そのDVDを再生してしまった。
たしかにそれは報告書と言われれば報告書であったが、だけど報告書にはスペクタクルも、アクション性も、オープニング曲も必要ない物である。
しかし、見始めた瞬間から三時間、勝義は止める事ができず、最後にはついつい持っていた書類を握りしめ、熱くなってしまった。
(だからあの日勇司君は礼服だったのか。これは一応労災って事にしとくか。)
そう思いたつと勝義は地下10階に行くと、海人に頼み込み、今にいたるわけである。
勇司はそこでバイクらしきものを眺めていた。
(さすが開発班だな。並のバイクなんて全くないな。これなんてどう見ても、悪役じゃないか。なぜこんな場所に毛皮と動物の骨が。)
勇司がウロウロしていても海人は全く気にならないようで、置いてあった一台の車をあっというまに解体し、それを再利用してシステムキッチンに作り変えていく。
(これぐらいじゃ動揺はしないな。めちゃくちゃなのは雪さんで慣れっこだ。バイクだバイク。おっ、これも悪くはないけど無理だな。なぜバイクの先端に天狗の面がくっついて鼻がマシンガンなんだ。確実に普段乗ってたら捕まるぞ。)
勇司が悩んでいるうちにシステムキッチンは完成し、海人は料理を始めている。
(あっ、これはたこ焼きだな。システムキッチンのコンロの部分がなぜかたこ焼き機だ。こんな事を考えるな、集中だ集中。あっ、このバイク、ハンドルがないぞ。代わりに十字キーとABボタン付いてる。運転しにくいわっ!ちゅうか上と下は押したらどうなるんだよ。)
海人はたこ焼きを完成し、さらに第二段明石焼きを作りはじめているようだ。
(お出汁もいいよなー。ダメだこれは集中できない。こうなったらアミダくじか?それとも俺はもう、ムサイク以外にもう他のバイクを愛する事はできないのか?)
出汁の匂いを嗅ぎながら勇司は考える。
(やっぱり俺には原付だ。原付しか愛せないんだ。あるのか?この中に原付なんて。)
勇司は一台だけあった原付らしきものの前にたって観察を始める。
(これはもしかして原付なのか。タイヤが3つだ。前1、後ろ2とかじゃない。前1中1後1と真っ直ぐ並んでいる。これはなんなんだ。タイヤが3つある利点を全くいかしていない、斬新なデザイン。)
「これに目をつけたか。」
海人が明石焼きをふぅふぅしながら聞いてくる。
「この原付にしようか迷ってます。」
「ちなみにこれは3WDだぞ。」
「なんですとっ!よく利点ははわからないけどじゃあこれを。」
勇司はムサイクと別れて以来の新しい相棒と出会った。