動揺
動揺
「しばらくよろしく頼む。局長の高山 勝義、特技は【自身統括】。とりあえず元の代打と言うわけだ。」
(なんだこの人。完全にダンディだ、そしてナイスミドルだ。だけど、確かにどっかで昔見た記憶があるな。)
なんとか思い出そうと記憶を探っていると勝義は勇司に話しかけてくる。
「勇司君、久しぶりだね。たしか前に会った時は君、小学生だったから記憶はないかな?」
その言葉に勇司の記憶の糸が繋がる。
(あっ、このダンディなお方は昔の親父の上司だ。たしか警視庁に職場見学行った時に、親父とこの人比べて愕然とした記憶が。)
「たしか昔警察で、親父の上司だった人ですよね。」
「よく覚えていたね。なかなか優秀な記憶力だ、いい捜査官になるぞ。だけど元とは昔一緒にコンビ来んで捜査してたから、上司と部下と言うよりは相棒だね。」
元の少し意外な過去に勇司は驚く。
「たしか君は霰君だったね。お姉さんにはいつもお世話になってるよ。」
勝義は気楽に話しかけてくるが、霰は緊張してカクカクと頷くだけである。
「久信も元気そうだな。」
「そうですね、父さんも元気そうで何よりです。」
「そうだな。たまには実家のほうにも顔をだせよ。」
「時間がとれたら考えておきます。」
微妙な距離感の会話をする二人。
(なんかここの班、縁故採用多くねえか。そして霰、緊張しすぎじゃね。)
勇司は一人どうでもいい事を考えていた。
「じゃあ局長、後はお願いします。私は治療班のとこに呼ばれてますんで。」
元が26室から出ていくと、室内には少し変な静けさが漂っている。
「こうしててもしょうがないんで、訓練に入ろうか。」
勇司と久信は、射撃、逮捕術、格闘術などなどに励む。勝義は時折アドバイスを挟み、自身も訓練に余念がない。
(さすが局長ってとこか。どれもかなりレベル高いな。特技を使っているわけではないみたいだけど。)
「局長、局長は特技を使って訓練しなくてよいんですか?」
勇司は久信に射撃でボロ負けをして、気分転換に質問をしてみる。
「私の場合は基本的には、こうした訓練で問題ないんだよ。じゃあ勇司君、軽く模擬戦でもやってみるかい?」
「じゃあせっかくなんでお願いします。」
しかし、勝義は軽く顔をしかめた。
「だけどそうゆう訳にもいかないみたいだな。」
勇司が肩透かしをくらっているとその時、訓練室の扉が開き、霰が走ってやってくる。
「警察からの緊急要請が入りました。だけどえっ?局長?なんでここに?」
「霰君、落ち着いて、落ち着いて。」
勝義を見て、混乱する霰は深呼吸を繰り返して、再び話し出す。
「連続放火犯です。すでに被害者も五人ほどでているそうです。」
放火という言葉がでた瞬間に、久信の表情が少しだけ曇るのを勇司は見逃さなかった。
「じゃあとりあえず急いで捜査に向かおうか。」
そう言って勝義は少し、溢れてきた感情を飲み込む。しかしそれは誰にも気づかれる事はなかった。