局長
局長
狙撃事件を解決した翌日の朝、復帰した霰を含め26室に全員揃っていた。
「班長、昨日は参加できなくてすみませんでした。あのー、その腕は大丈夫ですか?」
元の右腕は包帯でグルグル巻きにされ、更に方から包帯で吊るされてている。
「大丈夫大丈夫、さすが開発班が作ったジャンパーだよ。ちょっとばかし骨にひびが入っただけだな。」
右手を大袈裟に振りながら元が答えた。
昨日、霰の所へ行く事も電話することも止められた雪は、昨日の夜一本のDVDを霰が住む寮へ届けた。
そのDVDを霰が再生すると、昨日霰が帰ってから事件解決までを、たっぷりの大ボリューム、二時間半にまとめたフルCGアニメであった。多少雪の活躍が誇張されている気はするが。
霰は最初はあまり興味ない様子であったが、途中からはついついのめり込む内容であった
「あっ。」「そこはダメッ!」「あぶなーい!」「みんな助かってよかったよー、うーーっ。」
最後のほうには勇司への恨みを忘れるほどの感動叙事詩であったのである。
「それで久信君はいつも通りみたいだね。久信君のライフル相変わらず凄いねー。」
久信はいつも通り、眼鏡を少しあげながら答える。
「そんな事ないですよ。特技が狙撃にむいてるってだけで。」
久信は表情を変えずに言った。
「それで勇司君だけど・・・。色々言いたい事はあるけどなんで礼服なの?」
「あんまり聞かないでくれ。今日は1日喪にふくす事を決めたんだよ。」
勇司は昨日泣きはらしたであろう真っ赤な目をしている。
「そう・・そうなんだ。あたしが言うのも微妙だけど勇司君、元気だしてね。」
昨日見たDVDのラストシーンを、霰は思い出していた。
勇司と雪が並んで燃え盛るバイクを見つめ、エンドクレジットが流れていく。炎を見つめる勇司の横顔に少しだけドキッとしたのは、霰だけの秘密である。
元が雑談を終えたところを見計らい、おざなりな朝礼を始める。
「じゃあとりあえず昨日はお疲れさん。お嬢ちゃんも復活した事だし、今日からまた、26班全員で活動したいとこなんだが残念ながらこの腕だ。」
「たしかに親父の特技だとそれは致命的だよな。」
「そう痛みがあるわけでもないんだが、銃を撃つのはちょっと今は避けたいとこだな。」
勇司の指摘にそう元は答え、大袈裟に手を広げる。
「と言うわけでだ。お前達に全てを任せてもいいんだが、一応代理を見つけたんでその人に、俺の怪我が治るまで、代理を任せようと思う。とりあえず二、三日で問題ないとこまでは治るだろう。」
「まあ、私達はどちらでも構いませんよ。班長の判断にお任せします。」
久信の言葉を聞くと、元は受話器をとり内線をかけた。
元が受話器を置き五分くらいたった後、26室のドアが開きそこから高そうなスーツを纏った男性が入ってくる。
(なんか見たような記憶があるような、ないような。人の顔覚えるの結構苦手なんだよなー。)
その時、突然霰と久信が立ち上がる。
「きょ、きょ、局長!!」
霰は驚きのあまり、気をつけの姿勢のまま目をパチパチさせている。そして久信は勇司が今まで見た事もない、動揺した様子を見せていた。そして、口を開く。
「・・・父さん。」
(なにーっ!局長??そして父さんって久信の親父さんって事か?)
立ち上がって動揺の表情を浮かべる久信、そして優しく微笑んでいる局長を、勇司はしばらく交互に見比べ続けていた。




