発見
発見
雪は公園の駐車場で腕捲りをして仁王立ちをしていた。
「今回はあられちゃんの応援もあるし、気合いいれるよー。」
雪は気合いの言葉と共に、コントローラーに触れていく。
【電脳誘惑】
十機のスパイヘリが一気に上空に上がり、そのまま各方面へ散って行く様子を元は眺めていた。
「じゃあ勇司、久信、無線で連絡とりあいながら移動しろよ。じゃあ、作戦開始だ。」
久信は黒のワンボックスに、勇司は原付にまたがりそれぞれ逆方向へと走らせていく。
「雪嬢、ヘリの操縦と通信の具合は大丈夫かい?」
「今回は気合いはいってるのでヘリが100機あろうが、100キロ離れていようが頑張りますよーっ!」
「相変わらず雪嬢の特技はめちゃくちゃだな。だけど長期戦になる可能性もあるから無理はしないようにな。」
元はディスプレイを眺めつつ雪の手綱を引く。
その頃勇司は原付にまたがり、まだ多少浮かれ気分で運転していた。
「いやー、この後ろの座席つけた甲斐があったな。こうしてると、まだ雪さんの感触があるような。よかったなムサイク君、一緒にいい思い出作れたな。」
原付を撫でつつ、勇司はご機嫌にだいたいの決められていたポイントに走らせていく。雪を原付の後ろに乗せるまで感じていた、事件に対する悪い予感も忘れて。
捜索開始から二時間ほどたったころ作戦は動き始める。
「橋中班長、もうじきヘリのバッテリーがきれちゃいそうです。」
「じゃあ一回ヘリ戻そうか。あの二人も呼び戻して一旦作戦練り直そうかね。」
一旦仕切り直そうとした時に雪が何かを見つけた。
「この人なんか怪しくないですかー?」
「んっ、たしかになんか手に持ってるな。雪嬢、アップだアップ。」
雪がヘリに搭載されているカメラを操作し、ディスプレイに弓を左手に持った容疑者の姿がはっきりと映し出される。
「こいつはビンゴだな。雪嬢、これどこのビルだ?」
「ちょっと待って下さいね。ここから900メートル先にある第7港ビルです。」
「わかった。勇司、久信聞いてたな。すぐ迎え。久信のほうが近い位置にいるはずだ。」
元はすぐに指示をだすとビルがある方向を見つめる。ここからではどのビルなのかも予想がつかない。
「雪嬢、容疑者の特技は分かるかい?」
雪は2つ折り携帯を取りだしさらに特技を使う。
【電脳誘惑】
「えっとー。柏木 正雄28歳、特技は【狩人】だそうです。」
「狩人か。たしかに弓って感じの特技だな。」
「橋中班長、これなんとなくなんですけど、弓こっちむいてませんか?」
元はディスプレイを覗いたあと、さらに周りを見回して考える。
(一応、公園には話を通してあるから車や客はいない。車の止まっていない駐車場に、おっさんと若い娘が二人きりで、でかいコントローラー10台に囲まれていると。)
「私達もしかしてですけど、すごくあっちから見たら目立ってません?」
雪のその言葉を聞いた瞬間に元は表情を変え、一気に特技を使う。
【大型回転式拳銃・創造】【弾丸創造】
元の右手に通常の物より、明らかに口径、シリンダーが強化された回転式拳銃が現れる。
「雪嬢、ディスプレイ見て、弓を放ったら教えてくれ。」
「分かりまっあっ!!はなちましたーっ!」
飛んできた矢を充分に引き付け、元は両手に構えた銃を撃った。
ドンッッッ!!!
激しい銃声と同時に飛び出した弾丸は、数十発の散弾となり、矢を跡形もなく砕く。
「雪嬢、とりあえずそこの木の裏にっ!」
さらにもう一つ放たれた矢を一発で撃ち落とし、無線を繋いだ。
「こりゃあ完全に容疑者確定だ。久信、勇司、こっちは狙撃を受けてる。」
(「あと二分あれば着きます。下から矢が確認できたので、間違いないです。」)
元からの無線を聞き、久信が答える。 そして勇司からの無線も入った。
(「こっちはまだだ。そのビルより公園のほうが近いぐらいだ。」)
さらに飛んでくる矢を見て雪が叫ぶ。
「またきますっ!」
元の放った銃弾がさらに矢を空中で砕き、その場で銃を構え続けている。
「橋中班長も早くこっちに!」
「駄目だな。人を狙い始めたとなると俺が身を隠したら、一般人を狙うかもしれん。そこまでは守りきれん。」
元は拳銃をビルの方角に向けて集中していたが、遠くから足音が近付いてくる。
そこには大きな銃声を聞きつけた子供が、走って駐車場に入ろうとしていた。
「ダメだ、くるなっ!」
元の叫び声を聞いた子供がビクッとその場に立ち止まるが、そこはもうすでに公園の駐車場内であった。