心地
心地
そこは大通りから三本ほど路地を入った人気のない通りに、小さな入り口を構えていた。その入り口から地下に階段が20段ほど続いており、初めて来るものを歓迎してるとは思えない作りである。その入り口には服装も身長もバラバラの四人の男達が立っていた。
「おいおい、何かありそうな雰囲気満載しまくってるだろこれ?」
スーツ姿のこれといった特徴のない男が、これといった特徴のない声で伝える。特に身長が高いわけでもなく低いわけでもないこの男が特技【喫煙】橋中 勇司、特技犯罪捜査局、通称(特局)の26班の班員である。
「何かあるからここまで来たんですよ。相変わらず幼女とメールばかりしてて、集中力が欠片も見当たらないですから、そのような発言がでるんですね。」
ロングコートを纏い、汚れ一つない眼鏡をかけた多少長身で細身の男が、整った顔立ちを表情一つ変えずに返答した。
特技【思金神の眼鏡】高山 久信、特局のトップである局長を父に持つ26班の一員である。
「そうっすよー。ここで怪しい薬が作られてるって噂があるらしいっす。」
ジーンズにタンクトップ、その上にトレーニングウェアを羽織り、首から大判のタオルをかけた大男が、気楽に話しかけた。
特技【レスラー】高山 雄山、縦にも横にも十分以上に肉のついた巨漢である。
「だけど少し入りにくいや。粘土さんに代わりにいってもらおうかな・・・。」
肩から少し大きめのポシェットをかけたかなり小柄で華奢な、雰囲気的には少年といった感じの男が独り言くらいのボリュームで喋った。
特技【粘土造形】花城 拓実、長く伸びた前髪から瓶底メガネを覗かせるが、その下には隠し切れない中性的で綺麗な顔立ちをしている。
四人は階段を降りていき、ドアノブに手をかけるが鍵は堅く閉じられ鍵穴すら見当たらない。
「さて、こちらの様子はあちらにばれているようですね。」
久信の指差す先には監視カメラがあり、その監視カメラが作動していたら雄山の頭皮のアップが映されているであろう。
「どうするんだ?あっちから開けてもらうってわけにもいかないだろ。」
「自分がやるっすよ。」
やる気満々にトレーニングウェアを脱いで、勇司に渡すと雄山は扉の前に立つ。
【レスラー・ヘビー】
雄山のただでさえ太い首がさらに太く、そして全身が筋肉の塊といった体型に変化していく。
そして扉に両手をつけると、力を入れて押していった。
(あれ、この扉外開きじゃね?)
勇司の疑問むなしく、鉄で出来た扉は出してはいけない音を出しながら、少しずつひしゃげていく。そして中に一人は入れる隙間が出来ると、拓実が粘土で出来た小さな人形を二体ポシェットから取り出すと特技を使う。
【粘土造形・人形】
取り出された小さな人形は、そのサイズを変え人型まで大きくなると開いた隙間から入っていく。中で何やら争う声が聞こえるが、その音はすぐにやみ、こっそり勇司は中を覗くと粘土人形に取り押さえられた二人の姿が見える。
「では行きましょうか。裏口には班長達がいますので堂々と行きますよ。」
四人は壊れた扉から中に入ると、入り口で倒れている二人を縛りあげ、進んでいく。そして広いスペースに出ると、明らかにガラの悪い二十歳いくかどうかの若者たちが、真ん中におかれたビリヤード台の周りに群がっている。
ビリヤード台にはまだ十代半ばであろう制服を着た女の子が無理矢理押さえ付けられていた。
「特局のものです。おとなしくして捕まってくれれば、争う意志はありませんがそうもいかないようですね。」
IDカードを示し、話の最中に殴りかかってくる鼻にピアスをした若者を、久信は軽く足を掛け転ばせるとそのまま顔面を軽く踏み抜き、意識を奪う。
「勇司さん出番です、まだ何もしてないんですから、このままですとただのロリコン給料泥棒ですよ。」
「ロリコンちゃうわ!って一人だと手加減難しいぞ。」
思い思いに凶器をもって襲い掛かってくる四人を見ると、横に禁煙と書かれたボードがあるが、気にせず煙草入れを取り出し、中から白い煙草を取り出した。そして煙草に火をつけるには多少やり過ぎ感のあるターボライターで火をつける。
【白煙】
吐き出された煙は、四人にそれぞれ別れて飛んでいき、四人の視界を塞ぐと一気に勇司は前に出る。そしてわざわざ一人ずつローキックをいれると白煙を吐きなおし、四人が立てなくなるまで続けていった。
ローキックを打ち続けている間に、三人はビリヤード台から女子高生を助け出し、拓実が粘土で出来た服というか着ぐるみを着せていた。そして容疑者の首を閉め落としていた久信が、勇司を見ながら呆れたように呟く。
「勇司さん、時間かかりすぎですよ。」
雄山は特技をつかって拳を硬質化して殴りかかってくるガタイのいい男の拳を顔面に受けているが、痛がるそぶりもなく太い指で男の喉元を掴むと、片手で持ち上げそのまま後頭部から落としていく。
久信は叩きつけてくるキューを見もせず躱し、顎先に掌底を引っ掛けるように打ち込む。するとそこに立ってる容疑者はすでにおらず、粘土人形は一生懸命に粘土で作った縄で縛りあげ続けていた。
「あれっ?主犯の中年の姿見えないな?」
倒れている若者達の姿を見ながら勇司は首を傾げるが、久信は冷静に状況を見ていた。
「あなたが楽しそうにローキックを放っている間に、奥の部屋から出てきて裏口から逃げていきましたよ。」
すると、久信はロングコートの内側から無線が鳴っている事に気付く。
(「容疑者確保したよー。そっちは大丈夫?」)
「こちらは怪我人もいないのですが一人被害者の女性がいるので、救急車をお願いします。そして容疑者も12名ほどいるので、搬送班に連絡を。」
そして縛りあげた容疑者を一部屋にまとめていると、裏口からかなり小柄な女の子と、趣味の悪そうなスーツを来た中年を引きずってくる、これもまた中年の男が入ってくる。
「すぐに救急車と搬送班も来るって。あっ、その娘大丈夫かな?」
かなり小柄で凹凸の少ない体ではあるが、頑張ってタイトスカートとブラウス、ジャケットという格好が似合っているようなそうでもないような女の子が、心配そうに話し掛けてくる。
特技【十色の爪化粧】真中 霰、特局内に残念な姉を持つ26班の一員であった。
「その娘にはお譲ちゃんがついててやれ。そして重いな、勇司代われ。」
腰を押さえながら、特局製のジャンパーを着たガッシリ体型の中年男が煙草を取り出し火をつけようとしたが、禁煙のボードを見て残念そうに諦める。
特技【拳銃操作】橋中 元、勇司の父親であり、元警視庁捜査一課の刑事であり、現特局26班の班長を務めているオッサンであった。
そして到着した救急車に被害者を乗せ、搬送班に容疑者を引き渡しさらに証拠品まで押収すると、26班は全員で黒いワンボックスに戻り、乗り込んでいく。
「さて、今日はこんなもんか。じゃあ帰るぞ。」
全員を乗せたワンボックスは特局に戻るべく進み始める。勇司はこの多少慣れ親しんだメンバー、既に癖も掴んだワンボックスを運転しながら居心地の良さを感じるのであった。




