捜査
捜査
勇司は26室に戻ると、すぐに元に情報班で得た情報を伝える。
「そりゃあ、あきらかに特技だわ。だけどまだ動くにはいろいろ足りんな。」
「だけど親父、こうゆう事件は大概ほっておくと、射たれるのが動物じゃすまなくなるもんじゃないか?」
元が困った表情を浮かべながら、頭を掻く。
「そうだわなー。とりあえず上に相談してみるわ。」
その時、26室のドアが開き、霰を抱えた久信が入ってくる。
「エレベーターを一歩出た所で倒れてたので一応運んできました。勇司さん、一体何したんですか?」
「俺じゃねえよ、雪さんだよ雪さん。残念ながら責任は完全に俺にあるが。」
勇司は霰を久信から受けとると、苦しそうな顔をして霰は何やらうめいている。
「・・・やだよお姉ちゃん、あたしPVなんて撮りたくないよ・・・。」
勇司は何も聞かなかった事にすると、霰を仮眠室に連れていき、ベッドの上に寝かせた。
「この恩は、わすれないよ霰。きっと一週間は昼飯代もつからな。」
勇司は26室内に戻ると、元が受話器を置いた所であった。
「局長と話しはつけたぞ。今は他に待機している班もいるそうだし、捜査に入ってもいいそうだ。」
(局長ってこんなすぐ捕まるって案外と暇なのか?)
勇司が少し失礼な事を考えていると元は指示を出す。
「じゃあ今回はお嬢ちゃんはしばらく動けそうにないんで、とりあえずは二人で動け。」
その指示に微妙そうな表情を浮かべる勇司と、まだいまいち状況をつかめずにいる久信。
元が久信に説明をすると、久信は納得したように頷いた。
「まだあるのは一本の矢だけで、容疑者への取っ掛かりも何もないわけだ。まずは、周辺捜査からはじめてこい。」
勇司と久信は二人で黒のワンボックスに乗り込む。運転席に座った勇司が当たり前のように後部座席に乗りこんだ久信に言う。
「なんでわざわざ後ろに乗るんだよ。」
「助手席と言う言葉があまり好きではないんですよ。特に勇司さんの助手になる、と考えると少し寒気がしますので。」
後部座席でノートパソコンを眺めながら、久信は難しい顔をしている。
「ここ最近、昨日の現場から半径10キロ圏内で似たような事件を探してみたのですが、矢が刺さったままというものはないですが、動物の死体を見たという情報は少なくないですね。」
「って事は犯人がわざわざ矢を抜きにきたって事か?」
「それは少し違うと思いますね。かなり離れた獲物を狙うとなると共犯者の可能性のほうが高いでしょう。」
パソコンを一旦閉じると、久信が勇司に指示をだす。
「とりあえずこの前、矢が放たれたとされるビルの屋上に向かってみて下さい。」
「了解。・・ってなんでお前の指示を聞かなきゃいけねえんだよ!」
「それはしょうがないでしょう。世の中のシステム上の都合というやつですよ。」
勇司はブツブツ文句を言いながらも素直に指示に従って車を出す。
「そーいや久信さっき姿見なかったけど、どっか行ってたのか?」
「・・父親に昼食に誘われまして。」
久信は短く答えた。
ワンボックスをしばらく走らせるとビルに到着し、見つけた外階段から屋上に上がる。
「こりゃあ誰でもあがれるとこだな。って狙うってどうやったら弓矢で当たるんだ。ここから見たら、現場付近なんてどこにあるかもわからんな。」
勇司は屋上の柵から身を乗り出して、現場方面を見つめている。
「見るだけなら可能ですがね。」
久信は眼鏡を人差し指で軽く持ち上げた。
【思金神の眼鏡】
久信は現場の方を見たあと、屋上をぐるりと一周見回す。そして、ビルの屋内へと続く階段のドア付近で数本の毛髪を発見する。
(黒ですが犬の毛ですか。ビルの屋上には似合わない物ですが。)
「なんか見っけたのかー?」
「犬の毛ですね。他にはこれと言って何も見当たらないようです。」
久信は目頭を押さえながら答えた。
二人は階段を下り、ワンボックスに乗り込む。そのまま動物の死体が見たとされる場所を各所回るが、全て空振りに終わった。
二人は特局に戻ろうとするが、その時にワンボックスの無線が鳴る。
「さっき警察のほうに通報があった。散歩中の飼い犬に突然、矢が飛んできたそうだ。」
元からの無線で場所を聞き、勇司と久信は急いで現場にむかう。
現場につくと、そこには泣きじゃくる被害者と、パトカー二台そして多数の野次馬がいる。
勇司と久信は車を降りると、勇司はIDカードを警官と被害者に見せ、話を聞く。
久信は歩いて少し離れた場所からそこにいる野次馬などを含め、全てを視界に入れている。
勇司と久信は合流し、車へと戻った。
「こっちはやっぱり何も見てないな。突然犬の頭に矢がささったのを見てバニックになったらしい。」
「こちらも外れですね。野次馬やその回りの人達に怪しい人物は確認できませんでした。一応射ったと思われる場所に検討はつけたので行ってみましょうか。」
勇司と久信はワンボックスを走らせ行ってみるが、結局はそこも空振りに終わり、特局に戻るのであった。