日常
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その日訓練室では、粘土で出来た特設リング上で勇司と雄山が向かい合うと、1勝1敗で迎えた三本勝負の三本目が繰り広げられようとしていた。
「勇司先輩っ、三本目は新しい特技使うっすから楽しみにしといてほしいっす。」
やる気満々といった雄山に比べてすでに勇司は完全にグロッキーではあるが、今日最後の訓練ということに残った気合いを全て注ぎ込みリング上に立つ。
「俺で実験するなよなっ。訓練に使える煙草なんてたいして残ってないんだから、なんというか・・・手加減を頼んだっ!」
勇司の情けない発言を聞き、呆れ顔の元と霰は容赦なく試合開始のゴングを鳴らした。
「おいおい、まだ心の準備が」
ゴングを聞いた途端に雄山は一気に駆け引きもせず前に出ていく。勇司はすでに咥えていた白い煙草に火をつけた。
【白煙】
吐き出した煙は狙いすましたかのように雄山の顔面に迫り、その視界を塞ぐ。勇司は一気に回り込むと太い足目掛けてローキックを放つ。
見事にローキックは決まったものの、キックをくらった角度から雄山は勇司の居所を予想しこれもまた太い腕を伸ばして、勇司の肩を両手で掴むと引き寄せ、そのまま頭突きを入れにくる。
勇司は雄山の引き寄せる力に逆らわず、首を曲げて自ら前に出ると胸と胸を突き合わせて勢いよくぶつかった。それと同時に雄山の背中に手を回すと、雄山の勢いと自らの背筋を全力でつかいフロントスープレックスで後ろに投げ飛ばす。少々腰を痛めた勇司に対し、雄山は背中を思い切りリングにぶつけたにもかかわらず、ピンピンしてしかも嬉しそうに立ち上がってくる。
「いやー、自分も好きな技っすね。じゃあせっかくなんでいくっすよ。」
【レスラー・ヒール】
雄山の身長が少し縮むがその肉の量は変わらなく見える。そしてその顔には、隈取風の赤と黒のペイントが表れていた。
「これはなかなかに素敵な特技で。」
勇司は嫌な予感を感じながらも、煙草入れの中から銀煙を取り出し火をつけようとするが、雄山の手が自らの喉を触っている事に気付く。
雄山の口から緑色の液体が霧状に吐き出され、勇司の上半身を緑色に染め上げると視界を潰し、そして煙草を湿気させた。
(あれっ?これは完璧に不味いを飛び越えて詰んでるやも。)
雄山の思いがけない飛び道具に不意をつかれ、さらに首から下げているタオルに特技を使う。
【凶器・パイプイス】
大判のタオルはその姿を青い座席のパイプイスに変化させると、雄山は思い切り振り下ろす。
そこでゴングは勢い良く数回鳴らされ、勇司のTKO負けは確定するのであった。
そして訓練室の片隅では、久信と拓実の粘土の着せ替えショーが行われている。モデルは粘土人形の華も色も無いショーではあるが。
「これはもしかしてモデルは我が家のオウムのランにインコのラズですか?難しい特徴をよく捉えてますね。」
「ありがとうございます、よかったら着てみますか?すぐにサイズ調整はできちゃいます。」
「それは嬉しいですね。ですがこちらのダイオウグソクムシデザインも気になりますね。」
「それは秋の新作ですよー。結構歩きづらいんですけど可愛いんです。」
元と霰はそちらの二人を見ながら、これは訓練なのかどうなのか二人揃えて首を傾げるのであった。
そしてまた別の日、勇司達はワンボックスから降りると、情報班から得た情報で廃工場に入っていく。
「なあ、あの娘だよな。」
「そうですね。今回はあくまでも補導ですからいろいろ控えてくださいね。」
「あれは攻撃できないっす。」
「まだ六歳だって。なんか寂しそうだな・・・。」
物陰に隠れて観察していたが、意を決して勇司はゆっくりと姿を見せ歩き出す。
「るかちゃんだよね?お兄ちゃんはお母さんに頼まれて探しにきたんだよ。一緒にお家に帰ろう。」
「おじさんだれ?もうるかは、おうちかえれないの。るかがおうちこわしちゃったから。」
勇司は焦らず警戒させないようにゆっくり足を前に出していく。
「お母さんも怒ってなかったよ、るかちゃんの事を心配してたしね。」
「うそだよ、そんなのうそっ!」
感情の昂ぶりと共に周囲に捨てられていたドラム缶が舞い上がり、勇司に降り注いでくる。慌ててバックステップでドラム缶をかわし、すぐさま三人が待つ物陰に戻った。
「ありゃあダメだ、満ち溢れる若き才能が爆発してるわ。」
「そんなこと言わずに、26班幼女担当班長の実力はこんなもんではないはずですよ。さあ、再びお仕事の時間です。」
「もっと他に役職はないのかよ・・・。」
勇司は物陰から再び飛び出すと、飛んできたシャベルを頭を下げてかわし前に出るが、そこにビールケースが束になって飛んでくる。あまりの数に勇司は踵を返して、背中にビールケースを当てられながらもかなり距離をとった。
【真銀煙・甲冑】
かなり気を使って煙が届かない距離で、煙草に火をつけ勇司は甲冑に包まれている。しかし、勇司の目の前には放置されていたはずの車両が宙を浮かびながらせまってきていた。
そして車は勇司に正面から衝突する、当たりに残っていたガソリンをばら撒き、まだ手に持っていた煙草の火で引火すると周囲を火の海にする。
その様子をるかちゃんは怯えた様子で見ていたが、火の中からゆっくり立ち上がる甲冑姿を見ると、目の色を変えた。
「かっ、かっ、かっこいい。」
ゆっくり勇司は目の前まで歩いていき、膝まづくと、るかちゃんの小さな手をとり補導は成功した。
「勇司先輩っ、お手柄っすね。」
「あの甲冑やっぱりかっこよかったですっ!」
「さすが勇司さんですね。ロリ神からの愛され方は伊達ではないと。」
勇司の背中にはるかちゃんが抱き着いており、そのままスヤスヤと幸せそうな寝顔を見せていた。
そしてワンボックスに戻ると、背中から離れないるかちゃんを見ながら霰が何やら心配そうな眼差しを向けてくる。
「勇司くん、六歳はダメだよ。あたし勇司くんに手錠なんてかけたくないんだからねっ!」
「霰お前もか・・・。そしてロリコンちゃうわっ!」
元は楽しそうに話しを聞きながら笑って、勇司の代わりにハンドルを握っていた。
「まあ、とりあえず特局に帰るぞ。」
ワンボックスは寝ているるかちゃんを起こさないように、ゆっくり進み始める。
こうして26班は様々な訓練、様々な事件を体験しながら少しずつ成長していく。それは特局だけではなく、特技を持った全ての人々も例外ではなかった。
【 第二章 26班編 完。】
ここまでお読みいただいた方にお礼を申し上げます。すぐにでも第三章が始まりますので、そちらも引き続きお読みいただけたら嬉しいです。




