感染
感染
要はマンションの上空を旋回しながら、警戒を続けていた。
(多少騒がしくなってきたか?上の方からだな。多少屋上にいるのを片付けるかね。)
感染者が闊歩する屋上に音も無く着地すると、要は手加減しながらも確実に感染者達の動きを止めていくのであった。
勇司と久信は階段の影から覗き込むと、すぐに姿を隠す。その階は全ての部屋のドアが開け放たれ、おびただしい数の感染者が歩き回っていた。
「これは見動きとれないぞ。これ掻い潜るのはなかなかに厳しいか、よいしょっとっ!」
階下から上がってくる感染者の後ろに回り込み、首を絞め落とすと優しく地面に横たわらせる。その横では久信がスタン警棒を感染者に当てると、最低電圧で身動きを取れない程度に麻痺させていた。
「このままでは足の踏み場もなくなりますね。多少強引な手段をとります。勇司さん、この階に突っ込んで下さい。捕まらないようにお願いしますよ。」
「なんとかしてみるけど早く見つけてくれよなっ。」
勇司は一気に走り出すと、階段から部屋の並ぶ通路に突入する。そして勇司に気付いた感染者達は通路を埋め尽くしながら低いうめき声を上げ、迫ってきた。
(全員目は濁ってるな。慎重かつ大胆に、そしてなおかつ極力傷付けないようにって無理じゃね?)
勇司は先頭にいた感染者に紫煙を吐きかけると、その動きを止めた感染者に肩から突っ込み将棋倒しを引き起こさせる。その隙に横にあった部屋に入り扉の鍵を急いで締めるが、肩に衝撃を感じると感染者が後ろから掴みかかり甲冑の上から噛まれていた。
勇司は慌てることなくしゃがみ込み、感染者の足を自分の股の間から掴み、引きずり倒す。倒れた感染者を無視して部屋の中に入ると、そこにも三体の感染者を発見するが一気に三方向に紫煙を吐き出し、体の自由をうばう。
携帯灰皿を取り出し、紫煙をもみ消すと勇司は煙草入れを開き大きくため息をついた。
(まっずいねー、紫煙はさっきので打ち止めか。ダーツも使えないしまいったねこりゃ。扉を破られるのも時間の問題か。)
勇司は追ってきていた玄関で噛まれた感染者の首を絞め落として、玄関に移動して煙草入れから赤い煙草を取り出す。
(さてはてやりますか。このままじゃ久信にどやされちまうしな。)
扉を叩いたり、引っ掻く音がする中、意を決して赤煙に火をつけ始める。特局製のターボライターがライターらしからぬ轟音をあげながら青白い炎をあげていた。
【赤煙】
赤い煙を少しだけゆっくり吸い込み、熱く苦い感覚が勇司に襲いかかるがその感覚をグッと飲み込む。
勇司は扉の鍵を開け、ドアを自らひらくと感染者の群れに突っ込んでいく。掴まれる体を赤煙の効果で増した筋力で強引に動かし、掻き分けて進み群れから抜け出すと、スピードを上げ通路の角まで一気に走る。
壁に背を当て、正面から迫る感染者達に向かい合うと勇司を押しつぶすかのように感染者の大群が襲い掛かってきた。
掴みかかろうと伸びてくる無数の手を払い、噛み付きにくる口を体を捻ってかわし続け感染者の猛攻をその場で捌き続ける。さらに口に咥えたままの赤煙を軽く吸い込んだ。
(こいつは喉やら何やらいろいろとキツイな。久信はまだか?)
勇司は囲まれている中、壁を蹴って感染者の肩に飛び乗ると感染者の上を渡って中程まで進んでいく。軽快なリズムで進んでいたが、足下の感染者が小さな女の子である事に気付くと、勇司は下ろしかけていた足を強引にずらし床に無様に着地した。
(あいたたたた。こりゃあ完全に不味いな、というより倒れたらアウトか。後はそちらにお任せだよ。)
勇司の目の前には、さっき踏むのを避けたばかりの小さな女の子が、見て目にそぐわない低いうめき声を上げながら口を開け、勇司の顎先を噛み付き小さな噛み傷をつける。
勇司は遠くなる意識の中、階段から飛び出すロングコートを着た犬の後ろ姿を見るのであった。




