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特技の使い方 〜吸えない煙草〜  作者: cozy
吸えない煙草 第一章 入局
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勇司は久々の非番に自分の原付をいじっていた。高校時代から乗っている原付ではあるが、どこそこ触りすぎてもう元の姿に戻す事はできそうにない。


「お前もなかなかベテランだよなー。出会った時点で中古だったし。こう社会人になったら、車なり中型大型バイク買ってお別れだと思ってたけど、なんだかんだで別れがたいよ。きっと自分からは別れ話し持ちかけないタイプなんだな、うんうん。」


勇司の一人言はバイクを磨きつつ続く。


「なんかこうここまでいじると、カッコイイ、ダサいとかは通りすぎてなんと言うんだろ・・・。ムサいだな。お前はむさくるしいバイク、略してムサイクだな。なんかこうゴテゴテしてるし。」


そして勇司は原付の調子を確かめるためにご近所をブーンと一周走らせる。


(これはここ最近では一番の好調ぶりだな。)


勇司は久々にいい休日が過ごせたと満足気に原付を家の方向にむけた。

しかし、その時である。


「キャーーーーーッ!!」


叫び声が聞こえ、勇司は声がしたほうに慌てて原付を走らせる。道の端に高校生であろう学生服の女の子が座り込んでいた。勇司はすぐに原付を近くに止め、ヘルメットをとりながら近付き話しかける。


「どうしました?何かありましたか?」


女の子が少し上を指差す。その指先が指すほうに勇司が視線を向けると、そこにはブロック塀に矢がささり、その矢には猫の死体が貫通し、ぶら下がっていたのである。


勇司はすぐに通報し、警察を待つ間に一応写真をとっておく。

到着した警察にIDカードを見せ話を聞いた。


「これって捜査するんですかね?」


「少しはするだろうけど被害がでたわけでもないから、犯人が見つかるって事はなかなか厳しいだろうね。」


「そうですか、分かりました。ではその女の子をお願いします。」


勇司は一人で何かするわけにもいかず、そのまま自宅に帰り元に今日おきた出来事を話す。


「それは俺に言ってもよくわからないな。明日特局に行って雪嬢にでも相談してみたら何か分かるかもしれんぞ。」


「そーいやあそこは、そうゆうスペシャリストか。分かった、親父ありがとさん。」




そして翌日。嫌がる霰の説得から始まる。


「お願いだよ霰。一人じゃ行きにくいし。頼むっ!」


「えーっ。嫌だよ。3日前にお姉ちゃんに逢った時、あたしの写真集作るって急に言われて、三千枚ぐらい写真撮られたんだよ。デジカメに特技使ったから、二分半で撮り終わって、そのあと二分半で製本まで終わったけど・・・。」


霰はかなり渋っていた。


「そこをなんとか頼むよっ!この前、犯人逮捕する時、霰のお願い聞いたお返しだと思って。おまけに今日の昼飯おごるから。」


勇司が拝み倒して、渋々霰は一緒に情報室へ行く事となった。


エレベーターに乗り込み、霰は後ろから勇司のシャツの裾をつかんでいる。


(そこまで嫌かー。悪い事したな。昼飯は一番高い裏メニュー、X定食を奢ってあげよう。)


勇司が昼御飯のメニューを考えていると最上階に着き、エレベーターのドアが開く。


「あられちゃんとゆうじ君いらっしゃーい。橋中班長から一応話しは聞いてるよー。」


今日はブラウスにタイトスカートでこの前とは違い、やる気と色気が感じられる。


(相変わらずこの部屋はいろいろおかしいな。ロボット掃除機ってなんか意味違ったような。)


丸く、床を進みながら掃除するはずの掃除機が雪に触れられるといきなり変形を始め、人形となるとほうきを持ち、そのまま掃除をはじめていた。


「そこら辺にいるのはあんまり気にしないでねー。」


雪は気楽に言うが、勇司と霰は思わずチラチラと見てしまう。


「それで今日は何しにきたのー?お姉ちゃんに逢いにきたならすっごく嬉しいけどなっ!」


霰は勇司の後ろに隠れて引っ込んだままだ。


「昨日、猫が矢で射たれていたんですよ。その姿が少し気になったんで、調べてもらえないかなと。お礼は一応自分の後ろに隠れているのを連れてきたって事で。」


「それなら問題ないよー。調べ終わったらちょっとあられちゃん借りるね。」


勇司の後ろで霰が首をブンブン振って拒否をしめしているが、勇司は心の中で謝りつつも話を続ける。


「ちゃんと親父には多少遅くなると伝えてありますんで。」


霰の表情はその言葉を聞くと同時に絶望に染まっていく。


「じゃあ写真見せてもらおうかな。だけど送ってもらうほうが早いか。」


そう言うと雪はデスクの中から傷だらけの2つ折りの携帯電話を取り出し、なぜかアンテナを伸ばす。


勇司はあまりの古い機種に驚きを隠せない。しかし、後ろから霰が冴えない表情ながらも勇司に助け船をだした。


「驚くでしょ。あの電話最低でも10年は使ってるもん。お姉ちゃんがあれ一台でここの仕事ほとんど済ませてるらしいよ。あの携帯電話で特局のコンピュータにハッキング成功したって噂も・・・。」


雪の噂話をしているが雪は携帯電話と格闘していて聞いていない。


「えっとー。たしかメアドはここ押して、違うな。あーっもうー・・。」


メアドを口答で教えようとしたが失敗したらしい。なんか懐かしい光景に勇司はほっこりした気持ちで見つめている。


「もうゆうじ君の貸して。」


【電脳誘惑】


勇司の携帯が光を放ち、そして雪の携帯電話がメールの着信を知らせた。さらに雪は2つ折りの携帯電話を持ちさらに特技を使う。


【電脳誘惑】


情報班の一番大きなディスプレイに勇司が昨日撮った写真が映し出されている。機械はしっかり気を使ったようで、猫の部分はしっかりとモザイク入りだ。


「それで何が知りたいの?」


「どう考えても矢の角度、不自然なんですよね。おまけに落ちてくる瞬間に射つってのはないでしょうし。」


「たしかにそうだねー。ちょっと待ってね。」


【電脳誘惑】


その瞬間、ディスプレイはいきなり事件現場の3D映像へと変わり、矢の角度、刺さった深さなどから矢が放たれた場所を特定する。


「これは凄いねー。だいたい600メートル先くらいのビルの屋上から、矢が刺さった向かいの塀の上にいた猫を射って、その勢いのまま塀に刺さったみたい。こんなもんでよかったかな?」


「ありがとうございました。この短時間で十分過ぎる情報です。ではプレゼントはどうぞ。」


雪に霰を差し出し、エレベーターに乗り込む。霰がこちらにむかって手を必死に伸ばす姿を最後にエレベーターは無情にもその扉を閉じる。


勇司は手を合わせ、霰の無事を祈る事しかできない自分に苦笑いを浮かべるのであった。




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