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新たな婚約者が出来そうです

 三条徹の婚約者、早坂京子と早瀬薫は従姉妹同士である。

 早瀬薫の一つ年下の京子は、薫をとてもよく慕っていた。

 家格としては早坂の方が多少上なのだが、才色兼備で精神的にも落ち着いている薫には嫉妬よりも憧れを感じ、自身の目指すべき目標としていた。

 ゆえに、京子は元々の見た目の遺伝に加え、性格も薫と比較的似ている少女へと成長していた。

 薫ほどはお人好しではないが、そこそこお人好しと呼ばれる程度には人がよく、責任感も感じる性格になっていた。


 だからこそ、婚約者の三条徹の女癖の悪さを諌めたし、婚約者である限りは放り出すこともしなかった。

 彼が人懐こそうに見えて、その実周囲を見下していることや、京子の事も馬鹿にしている事にも気づいていた。

 徹の事は、好きと言うよりは、手のかかる弟の様な感覚であった。


 何がどうなったのか、それらの事に徹は気付かないのだが、九条樹と最上稔は気付いていたのがこの後の運命に繋がったのだろうか。


「君との婚約は破棄するから。」

 やっとの事生徒会に顔を出したと思ったら、徹は仕事中の京子の目の前に来て婚約破棄の希望を伝えてきた。

 瞬間、この人は何を言っているのだろうかと思う気持ちが彼女のなかを駆け巡った。

 彼の実家には力がある。

 そんな中、素行がよろしくない彼は危うい立場にあるのだ。

 女癖の悪さは鳴りを潜めたが、今度は編入生にかまけて生徒会の仕事や授業態度がよろしくなくなった事が問題視されていた。

 そこに来て、いきなりの婚約破棄希望だ。

 しかも、名家の次世代を担う人間が数多くいる生徒会室で。

 最近の忙しさの影響もあり、京子は思わず頭痛がして顔をしかめてしまった。


「私達の一存では決まりませんよ。ご両親と相談されましたか?」


 京子と徹の婚約は、元々は京子を気に入った徹の両親がお目付け役的な立場として申し入れてきたものである。

 ゆえに、京子の言動はしごく普通のものだった。

 だが、徹にとっては違ったのだろう。


「俺に嫌われているとも知らずに、そんなに三条の婚約者という立場を手放したくないのか。何としてでも婚約破棄してやる。」


 何時もは隠そうとしている嘲笑を浮かべ、言いたいことだけを言うと生徒会から出ていったのだ。

 これには、流石の京子も思わず顔が引きつってしまった。

 別に好きな訳ではないが、長年面倒を見てきた情はある。

 いや、あった。

 だからこそ、こちらから婚約破棄を言い出さず面倒を見ていたのだが…ここまで言われ、こちらの事を全く考えぬ人間の相手をする必要があるのだろうかと思った。

 だいたい、京子自身を少しでも見ていれば、『家』への拘りはさして無い事に気づくはずなのだ。

 女嫌いや口煩いことにたいして自分を否定的に見ているのならまだしも、それ以前の話とは頭がいたい。


 さらには、凍りついた生徒会室に頭がいたい。

 さて、どうするかと考え始めたのだが、


「あいつ、来たんなら仕事していけよ!書記だろ?俺なんか関係ないのに仕事してんのにっ!」


 バタバタとわめくクラスメイトのお陰で、何とか生徒会室内の空気がもとに戻って彼女は思わず息を吐いた。

 回りを見ると、みな一様にほっとしていた。

 主な原因として、最上のだす気配がかなり物騒だったのだ。


 薫に似ていて彼女の従姉妹である京子の事を、最上は気に入っていたから。


 先日の徹の発言の後、京子の方から三条に婚約破棄を申し入れた。


「徹さんのご希望です。」

 という一文も添えて。

 その際には、最上稔も証人となり後押ししている。

 徹と違い、女好きとして有名だったが、女遊びはせず、やるべき仕事をこなしている最上は、上の世代からの信頼を得ている。

 その最上の嫡男からの口添えもあり、京子の不利なく、円満に婚約者は破棄された。


 ほどなくして、相川茜に関わっている男達が全員婚約破棄をしたり彼女と別れたと聞いた。

 その頃には、仕事を放り出している彼らの事は無視に近い状態になっていたし、勝手にやってくれという感じであった。


 生徒会長を筆頭に、まともに仕事をしない人間を複数かかえ激務の文化祭を乗り越え、生徒会選挙を終えた頃、ようやく一息がつけた。

 仕事をしない面々が、再立候補して来たのは笑えなかった。


 しばらく平和な時を過ごし、年明け後のゴタゴタでまた疲れ果て、気付けば高校二年になっていた。

 京子が二年になる頃には、相川は転校していった。

 三学期の最後には、周りからは人が引いていたし、時々おかしな発言もしていた。

 薫にも危害を加えようとしていたため、最上が何ら働きかけた可能性が高い。


 ようやく訪れた平穏を京子は噛み締めていたのだが、


「婚約、ですか?」


 ある日九条樹に呼び止められ話を聞くと、自分と婚約してほしいという内容だった。

 正直、どうしてそうなったとか、なぜ私にと彼女は思った。


「私は薫お姉様と似ています。だからこそ、止めた方が良いと、そう思うのですが。」


 これは彼女の偽らざる考えだった。

 自分と薫は似ている、そこが理由なのだろうが、似ているのであって同じではないのだ。

 薫ほどお人好しでもないし、彼女よりは機嫌が悪くなるといったことになりやすい。

 下手に似ている方が良くない事になると思ったのだ。


 薫と最上の事を考えると、自分と九条樹が婚約した方が安心できるだろう。

 二人は既に入籍し、養子も向かえる予定になっている。

 一部、間違って薫が妊娠している事になっているが、それも最上の不安から否定しないでいる。

 二人が安心するのなら構わないとも言えなくはないが、自分が相手なら、薫には余計に心配をかけそうなのである。


「薫お姉様と似ていない方が良いと思いますよ?似ずとも、存在としては九条様を支えることが出来る方もいると思います。」


 そう返事をすると、何やら難しい顔をしていたので、もう一言付け加えておいた。


「恋愛感情も欲しい場合の支える存在としては、薫お姉様や自分の様なタイプの人間は向かないのです。」


 と。そして、その場はお開きとなった。


 京子が九条樹という人間に対してどうこう思うことは、あまりない。

 去年の仕事不真面目事件と薫との婚約破棄には顔をしかめたが、薫との事については薫のほうが好きだったわけではないので、後から気付いたのが愚かだという程度だ。

 忠告を聞き入れなかったのはどうかと思うが、後に頭を下げている。

 まあ、正気に戻った後の悪あがきはどうかと思うが、個人的には徹に比べればマイナス評価は少ないのである。


 徹はといえば、あれからさらに荒れたのち大人しくなったらしいが、顔を会わせてはいない。

 彼の性格と今までの言動から、すぐに頭を下げて来ることは無いだろう。

 遠い未来にはそういった事もあるかもしれないが。


 今回の騒動のメンバーの今は、様々だ。

 まあ、切り捨てておいて、するりと元に戻るなんて、現実ではそうそう無いのだ。

 それぞれ、苦労しているようである。


 今回の所は、取り敢えず婚約話は立ち消えたかに思われた。

 しかし、今後、何故だか以前よりも九条樹との接点が増え、よく話しかけられ、各パーティーでのエスコート役を買って出られ、気づいた頃には再度の婚約申し込みと共に断り難くなっている未来に向けて相手が動き出した事を、彼女はまだ知らない。

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