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月になった女の話し1

 樹と出会ったのは、幼稚園入園前に行われた顔合わせである。

 本家のご嫡男と同じ園に通うということで、かなりの遠縁でありながら顔合わせが行われた。

 三月生まれの樹は三歳になったばかりだったので、その頃の記憶はないらしい。

 対するわたしは、四月生まれの上に二歳からの記憶が部分的ながらもある程あるくらいなので、はっきりと覚えている。


 本家嫡男という立場のため、幼児なのに周りからかしずかれ、両親もすぐ側には居なかった。

 顔の造形は当時から美しかったのだが、正直そんなことは気にならなかった。

 そもそも、顔立ちをそこまで気にする質でないので、それよりも、このままいけば孤独に堕ちるのが目見えている顔付きの方が気にかかったのだ。



 わたしには前世の記憶がある。


 物心ついた頃には何となく分かっていたが、誰かに言った事もなければそれに対して悩んだこともなかった。

 自己の確立がやたらと早かったからかもしれない。

 それすらも影響されていたのかもしれないが、それ込みでわたしであるのだからと、影響を受けないわたしはあり得ないのだからとあまり考えないことにしている。


 そもそも、前世でもやたらと早熟であったために、影響がなくても似たようなものになる可能性が高かったのではと思っていることもある。


 前世の記憶は二歳からある。

 小さな頃の記憶は鮮明にあるのだが、成長するにつれ穴が増えていく。

 前世ではそこまで記憶力が悪かったとは感じないので、たぶん、特別に覚えておきたい事があまり無かったことが大きく影響してあるのであろうと推測している。

 もちろん、日常的なたわいもない内容も大量に覚えてはいるのだが、窮屈で我慢が続く日々をあまり覚えておきたいとは思わなかったのだろう。


 前世と今生は、とても似た、しかし異なる世界に生きていると考えている。

 ともすると同じ世界のほぼ同じ時間軸とも思えるのだが、歴史や企業、建造物、学校など、細かな部分に違いが散見しているため、同じ場所では無いのであろう。


 前世のわたしが何歳まで生きたのかは判らない。

 二十代の記憶がさっぱり無い事から、早くに亡くなった可能性は高いが、十代後半になると記憶の虫食いがかなり酷いことから、単に覚えていないだけの可能性もある。


 家庭環境は、今生の方が傍目には良くないであろう。

 巨大一族の遠縁として、変にプライドが高く子供への愛情が薄い両親から、自分達の利益のために結果を求められ期待をかけられる。

 ただ、金銭的にはそこそこ裕福な部類に入ると言うのが今の環境である。


 前世はというと、金銭的には今ほどではないが、それでも大学だけなら二人の子供を私立に通わせることが出来る程度には裕福であった。

 実際には、行きたくない偏差値の高い国立大学に進学させられたが、経済的には可能であった。


 それなりに親に愛され恵まれた環境ではあったが、窮屈だった。

 早い段階から手がかからなさ過ぎた子供を、両親が『普通』であると思ったのが大きな原因ではあったと思うが、両親から愛されていても、かなり早い段階でわりとどうでも良くなっていた。

 子供の為と思っている内容と本人が望むものとがずれてしまえば、贅沢ではあるが幸せとは言いがたかった。


 そんな前世の記憶がベースにあるのもあってか、今生の両親に特に思うことは無い。

 両親の期待がクリア可能な範囲であることもあるだろう。

 勉強がしたいだけ出来るので、わりと満足しているのである。



 わたしは、孤独でも別に良いし、どちらでも良いのだ。

 けれど、仲間を否定もしない。

 無理に求めもしないが、扉を開いていればいずれ出来る可能性があるだろうし、それで良いという考えなのだ。

 しかし、樹は違っていた。


 欲しいのに、手に入らない。


 だから周りを拒絶して、より一層手にしたいものから遠ざかっている様に見えた。

 今は小さい子供の癇癪やただの我が儘に見える。

 けれども、今の状態から良い方向に向かう気はしなかった。


 関わるのなら、中途半端には出来ない事は分かっていた。

 困ったことに互いの性別が違うがゆえ、最後の時までか、彼が新しい人を選ぶまで居続ける覚悟が必要になるし、どちらに転んでもいい覚悟が必要になる。


 しばしどうするか迷い…しかしあっさりと決まった。

 不安定で危うい子供を放ってはおけなかった。

 幼稚園の中という子供が多い場面を利用し、彼を孤立させない様に立ち回っていった。

 わたしがわたしである限り、たぶん何度でもこの選択をしただろう。


 ただ、この世界があるシナリオに基づいて作られた箱庭である事には、物語が終わるまで気付かなかった。


 強い違和感は感じていたのに。


 気付いていれば、何か変えれただろうか。

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