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さよならチェック

 ああもう時間ない。おとうさん出掛ける? 途中まで乗せてってくれない? 南口経由で。お願い。うん、クラスの送別会。そう二回目。え? うちらは何回でもやるよ。今日は国立前期のコの合格祝いもあるから。


 ねえおとうさん、今朝見た夢、めっちゃリアルで可笑しかったよ。

 夢の中での私とおとうさん、同じ高校で同級生だった。制服も今のじゃなくてセーラー服にエンジのリボンで、ひょっとして昔のかな、私、何か写真で見たかな。

 でね、なんか卒業前っぽい時期で、夢の中の私はなんとおとうさんの事を好きなんだよ。うわあヤメレーって感じだよね。あ、でもキモいとかはもう言わないけどね、分別あるから。キモいけどね。だけど所詮は夢だから。おとうさんも若かったから。なんでか黒い学ラン着てたから。

「酒井君、合格おめでとう。東京でもがんばってね」

 酒井くんだって。ヘンテコだね。でも美術室ぽい所だった。それで、プレゼントあげた。英字新聞に薄いパラフィンでラッピングした袋で。

 中身は青のチェックのシャツ。私が初めて作ったヌイグルミの材料に使った、おとうさんの昔の。うん、小三の夏休みに作ったアレ。下手なクマ。でもそのシャツは夢の中では「ノーマブルー」のなんだ。ちゃんとメンズブランドって設定だった。でも本当はノーマはガールズなのにね、やっぱ夢だと都合良いよね。


  えーそうなの? ノーマって昔はメンズもあったんだ。ええ、あのシャツそうなの? そんな高い服だったの、うわー、ノーマブルー・フォアメン! ださっ、はは、いや、ゴメン。だけどそうだったんだねー、へー、てかおとうさん、服に興味あったんだ。もしかして初めてお小遣いで買ったブランドの服とか。え、若い頃はそうなの? 嘘だあ。だっておとうさん、いつもぼっさぼさのユニクロじゃん。あーはい、すみません、学費、本当に感謝します。四年間きっちり頑張ります。わかってるよ、もう、大丈夫だって。おとうさんOBだもんね。うん、ちゃんとやる。


  ねえ、だったらあのシャツにも何か思い出あった? だってあの時、私が手芸に使おうとしたらすっごい嫌そうにしてたじゃない。私憶えてるよ。全然着てないのにずっとタンスに入ってて、もう時代遅れよってお母さんにも言われてさ。すっごい渋々くれたじゃない。

 でも確かに凝ったチェックだったとは思うんだ。勿体無いからって残り布でお母さんがハンカチとポーチも作ってくれたの、友達によく褒めてもらえたな。ブルーが複雑だったよね。薄いグリーンと紫も細く入ってた。バブルでよかったね。私、そんな凝った服着た事ないや。え、振袖は要らないよ、下宿でお金かかるし。成人式は伯母さんの借りて着るし。お母さんも着たんでしょ。お祖母ちゃんが加賀友禅だって言ってたからめっちゃ楽しみ。加賀友禅ってスゴイんでしょ? それより帰りも迎えに来て。今日、二次会も行くから、カラオケは駅前だから。ねえ、いいでしょ?


 そっか。おとうさん、その後もみんなで集まりか。喪服のまんま? そっか。でも今日は仕方ないよね、そういう日だもん。それにおとうさんも悲しかったらちゃんと泣いた方がいいよ。そういう我慢は駄目だよ。

 ねえ、あのシャツって、本当はその人がおとうさんにくれたとか?

 目が覚めた時、なんとなく思ったんだけど。渡す前に包装するのがすっごくリアルでね、シールの貼り方とか。でもあれ、これ変だなーって。だって夢の中の私、すっごい寂しかったし。でも寂しいってゆうより切ないって感じ。もうオシマイ、じゃあね、みたいな。

 だけどそれは自分の気持ちと違うのも判ったんだよね。うん、勿論夢の中でだよ。寝てる途中でもこれは夢だってわかるじゃん。私も上京前でそれなりに寂しいけど、そういうのとは全然違ったから。そういうのだったから。まあ所詮夢だけど。

 ここでいいよ、送ってくれてどうもありがとう。運転、気をつけてね。




 おしまい

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