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あのコをさがして

『迷子になりました パステル色の縞模様です 緑の石が付いた 首輪をしています』

 飼い猫を探すような文面になった。

『パステル色の縞模様です』

 薄い茶色のボーダーを着ていた。

『緑の石が付いた 首輪をしています』

 掛けた皮紐には、小さな半円の翡翠がついていた。

 ミカゲが急にいなくなった。昨夜までは隣に居たのに、今朝目が覚めたら忽然と消えた。

 でも仕方ないよ。ミカゲ自体が非日常なんだから。何度もオノレに言い聞かせたのに、クリーニングの引き取り券を見た途端に意志が揺らぐ。木曜仕上がりの白シャツとグレーのパンツ。

(服を取りに戻るかも)

 その発想がもういけない。端末を開く。捨てアドで呟く為のアカウントをとる。結果『迷子になりました』と、無駄を承知で全世界に問う不毛。仕事の兼ね合いでクリーニングの引き取りは土曜日しかいけない。執着はタチが悪い。


 ミカゲを初めて見たのは、駅北にある神社の境内だ。

 春に望まない出世と異動をさせられたアラサー女は、出社前の参拝を日課にした。だけどその日の朝は妙だった。晴れているのに境内が異様に静かだ。街中なのに車や電車や雑踏の音がまるで無い。

 気圧の関係かな、呑気に思いつつ参拝を済ませると、短い参道沿いの椿並木の裏に若い男性が独り佇むのが見えた。中背細身の薄い顔立ちに白シャツとグレーのパンツが、いい意味で没個性。

 彼は私に気付かぬまま椿の垣根からスルリと出た。小鳥が飛び立つような葉音がする。椿の向こうはブロック塀だ。何をしていたんだろう。まさか悪戯でもと怪しんだ瞬間、彼の身体はその場で消えた。まさに雲隠れだった。途端に境内の時間が動き出し、街の音も一気に戻った。

(消えた。嘘。本当に?)

 何度も瞬きをした。我に帰り「うわあ」と思った。私は勘がいい方だけど、オカルト体験は初めてだ。しかもこんな快晴の朝。

 だけど怖くはなかった。何故かはわからないけれど、私は彼の存在を無条件で受け入れたのだ。

 その後彼をよく見かける様になった。決まって駅の周辺で、駅側の蕎麦屋のカウンター、隣接した図書館で新聞を読む姿、それから改札の人の流れを眺める姿。格好はいつも同じ、白シャツとグレーのパンツ。

 育ちの良さげな立ち居振る舞い。住まいも駅の近隣かも。神社の出来事も、私の見間違いかも。彼はどんなヒトだろう。好奇心は膨らむ一方だ。


 沸点越えは梅雨入り前の昼休み、入店したベーカリーショップだ。イートインコーナーで彼を見かけた後の私の行動は、無意識だったと言わせてほしい。即座にマフィンとラテを購入し、すぐさま彼の隣に座った浅慮さを許してほしい。勿論、理性の片隅ではオノレを恥じた。こんな衝動は初めてだから。

 横目でカップを持つ彼の手先をそっと見た。学生ではなさそう。思ったより世間を泳いでいそう。一体何屋さんだろう。聞けない問いを脳内で攪拌しながら、誤魔化す様に食事をする。素知らぬフリで端末を触る。意識は全て真横でタップは出鱈目で、消化はきっと恐ろしく悪い。

 でもよかった。近くで感じる彼はどう見てもオバケじゃない。先日の件も目の錯覚と判明、ストーカーごっこの申し開きも出来た。めでたしめでたし。人並みに羞恥心も戻ったコトだし、早く食事を済ませて仕事に戻ろう。

 思った矢先、隣からの視線に気付く。彼が私を見ているではないか。

(やばい。バレてる?)

 後悔は決して先には立たない。愚行は気付かれていた。穴があったら入りたい。

「君は、僕を知っているの?」

 小さな声。だけど思った通りの低い声……じゃなくて。

「いつも僕に気付くよね。駅でも図書館でも」

(うわああ、前から知られてた!)

 万事休す。彼は席を移動すると、私の真正面に来た。


 彼の俊敏さに慌て、知り合いに見られはしないかと焦る。お昼時なのに店内に人影は無く、カウンターの店員も不在。私達だけなのは何故。

(それよりどうすんのコレ!)

 嫌な汗が出る。性根を据えなければ。でもどうしたら。

 無駄に力んで彼を見る。私より若い男のコ、だけど老成しても見える。逃げられない嘘のつけない目。

「さあ、話をしようか」

 発信の義務が生じる。私は生真面目な常識人だ。

「あの、たまたま神社で、君を見かけて」「神社。それで?」「その、」

 なんと馬鹿正直な切り込みをしたか。

「あの、消える所を」「消える。誰が」

 しまったと思う。なんて誤魔化そうか戸惑う。

「あ、貴方が」「僕が?」

 嗤われるか。怒るか、馬鹿にされるかと身構える。だのに彼から思わぬ名前を聞かされる。

「じゃあ貴女はカササギさんちのひと?」

 何故そう呼ぶのか。

「それを知るのはひとりだけだ。だから君はカササギさん。そうなんだね」

 肯定してもいいものか。

「僕はミツさんと懇意だ。そういえば貴女はミツさんと似てる」

 彼は私を覗き込む。カササギミツは私の祖母の名だ。


 反応出来ない私を彼は一層覗き込んだ。

「違うの?」「……そうだけど」「ならいいでしょ」

「何がいいの。貴方ナニモノ?」「ミツさんによくしてもらった」

 戦前生まれの祖母は既に鬼籍だ。それから祖母は、実はこの街の出身だ。彼は遠縁なのか。

「その辺はおいおい話すよ。貴女の名は何というの?」

「ヒカリ」

「ヒカリ。カササギヒカリ。もしかしてミツさんの光の字?」

「そう。私の名はおばあちゃんから貰ったから」

 この時に私は、ミカゲの名を聞いた。

「貴女もミツさんと同じなんだね。二人とも自分と対の名だ」

 光と影だそうだ。

 ミカゲはその、『光を扱うお仕事』をしているそうだ。ミカゲという名は職務の為の、所謂通称名で、本当の自分の姿は、やんごとない大意の元、隠してあるのだそうだ。


 突拍子も無い話は逆に可笑しみを呼ぶものだ。住所不定のノマドワーカーだろうか。

「どうして消える事が出来るの?」

「僕の仕事のひとつだよ。ほら」

 その場で左手を消して見せてくれた。場末の手品師も追加。

「何の役に立つの?」

「まあ、いろいろ」

 それから、彼の胸元の石にも気付いた。革紐に付けられた半円の翡翠。

「これは昔ミツさんと分け合った。元は楕円形だった硬石を、二つに分けて、御守りに」

「私、その片割れ、持ってるよ」

 思わぬ繋がりに焦ってしまう。祖母はそれを指輪にしていた。金の台座にカボションで加工したレトロなデザインで、私が形見分けで貰った後は、時々家で眺めて偲んでいる。

 二人の繋がりをもっと知りたい。けれど祖母の住処もとうに片して今は更地だ。親戚の誰に聞けば判るだろうか。

「ヒカリのその指輪、今度見せてよ」

「いいよ、じゃあウチに来る?」

 私は何を誘っているんだろう。でもミカゲも直ぐに来た。私の部屋から毎日、駅周辺に出掛ける事となった。私の部屋で、ネットで誂えた男物の薄茶のボーダーを着て、電子新聞やネットを眺め、蕎麦だの珈琲だのも楽しむ事となった。白シャツとグレーのパンツは彼の仕事着だそうだ。

「可愛い男の子をありがとうございます」

 神社本殿の前で、何度もそう御礼を申し上げたのは言うまでもない。


 けれどもどうにも理解が出来ない。

「例えると、これが僕」

 ミカゲはレトロで透明な硝子瓶を私に見せる。親指と中指で日にかざす。当たる日光がゆらゆら揺れる。

「この瓶に入った光を、しかるべき時期に、しかるべき屈折率で対象に当てたり、モノによってはそのまんま通すお仕事。わかる?」

「わかりません」

 ミカゲの説明はあまりにも抽象的過ぎる。

「だから、そんな感じで光を当てて色んな影を拵えるんだってば」

「わかりませんてば」

 結局彼は、自分の事は言いたくないのだ。

 ただ、私の部屋で寛ぎながらテレビやネットが伝えるニュースを見る度に、彼は「この会社はもたない」だの、「この案件の黒幕は◯◯」だのと言った。それを頼りに持ち株を触ると、時世に不釣り合いな利益が出た。

 賢さを不審に思い、警視庁サイトや不穏なリストも検索したり、した。でもミカゲらしき人物は見当たらない。ホッとしながら、振り回される自分に呆れたり、した。

 何より梅雨時の薄ら寒い朝方、小さなベッドの上で麻の布団を取り合ったり、夜風の心地よいベランダで冷酒を嗜んだり、美味しいものを分け合うのは楽しい。仕事の辛苦が消えてしまう。

 ミカゲの全てに嫌味がない。肩や背も腕も好ましく、じゃれ合っている間に日は過ぎる。ミカゲを何処かからお預かりをしている様な、妙な責任感も芽生える。保護イヌネコの里親ボランティアと、これはきっと同じ類いだ。


 祖母との関係も聞き出せた。

「爆風から逃れる為にね、一緒に逃げたんだよ、駅北のあの神社に」

「爆風って、ひょっとしてバス爆発の?」

 二十年近く前、この街では市営バスの爆発事故があった。たまたま回送車で停留所も無人で死者が無かったのは幸いだった。祖母が現場に出くわし、皆で肝を潰したのを憶えている。それがキッカケでメーカーのリコールが起こり、経済的にも大騒ぎになった。

「あの爆発、平日のお昼過ぎだったよね。何事も無くてよかったね」

 ミカゲは微妙な顔をした。他にも何かあったのだろうか。けれどそれ以上聞くのは何となく憚れた。

 とにかく祖母とはそういう間柄だったのだ。それから彼のコトは厨二病設定にした。趣味の手品を磨きつつ、何処かでデイトレード等に勤しみ、脳内では光を扱い影を拵える。そう思う事にした。

 彼は相変わらず私の部屋で寛いで、時々フラリと出掛けてしまう。何より私に被害はない。騙されていたとしても……楽しいからいい。例えば政情不安定な国へのバカンスを思えば、今のスリルも大差ない。

 ミカゲは祖母の形見の翡翠を喜んで見た。小指にしか入らない細い指の輪を、光にかざして眺めていた。ミカゲのネックレスと祖母の鉱石は、確かに元がひとつの石だ。


 だからミカゲが居なくなっても、帰ってこなくても、執着してはいけないのだ。

 彼は礼儀正しい同居人だった。貴重品紛失も盗撮関係も無さそうだし、セキュリティは私の十八番、一切の抜かりも無い。預貯金に関しては、ミカゲのお陰で逆に増えた。

 しかし堪えた。心にミカゲ型の穴が空いてしまった。ほんの少し一緒に居ただけなのに。

(おばあちゃんとの話、もっと聞きたかった)

 そうだ、親戚の誰かがミカゲの事を知っているかもしれない。祖母から何か聞いていたり、交流が有ったかもしれない。

『昔、おばあちゃんと翡翠を分け合ったという方にお会いしたよ。何か聞いた事ある?』

 母宛てにメールを打つと、すぐさま母から折り返しの電話が入った。母は妙齢の女性なので、声は大きく遠慮が無い。

「ヒカリ、どうしたの?」

「えっ、何にもないよ、どうして?」

「メール、なんだかアナタらしくなかったから」

 平静を装ったつもりだったのに。

「えーと、何もないよ。久しぶり」

 母に少し沈黙があった。

「まあいいわ。全然連絡もよこさないから心配もしてたの。ちゃんと元気だったの?」

「ああ、うん、ゴメン」

「やっと連絡があったと思ったら、随分突拍子も無い話だし」

「忙しかったの。でも日々順調だからご心配なく。それよりあの翡翠」

「半分に割った石ね。古い仲良しさんと分けたって聞いてるわ。その方にお会いしたの?」

「うん」

「その街にお住まいなの?」

「どうだろ……けど、ここで知り合ったの。ひょんな事から翡翠の話になって」

「だけど随分ご高齢でしょう。おばあちゃん、その方とは空襲ではぐれて会えなくなったと話していたもの」

「空襲?」

 バス爆発ではなかったのか。

『小さい時に爆風から逃れる為にね、一緒に逃げたんだよ、駅北のあの神社に』

 ミカゲは確かに私にそう言った。情報の危うさに目が眩む。

 もっと話したそうな母に「ゴメン、仕事の連絡が入った」と断ると、

「とにかく、具合が悪い時は遠慮なく頼りなさいよ」

「具合なんか悪くないよ」

「そう? とにかく息災で。大事をとりなさい」

 母は最後まで大声だ。何か感じたのだろうか。

「何でかしらね、最近アナタの事ばっかり考えてたのよ。おばあちゃんの事もね」

 気になって遅れた母の日代わりに、御墓参りに出向いたそうだ。帰り道には空に虹が出ていたそうだ。


 祖母は終戦当時だと十代半ばの小娘だ。当然ミカゲの姿はそこには無い。

『ミツさんと懇意』『よくしてもらった』

 情報の間に空白があり過ぎる。補足しなければならない。

(ええと、空襲でおばあちゃんが会ったのは、ミカゲのお祖父様や曽祖父様世代だよね。バスの爆発事故ではミカゲと同行中のその方と再会したのかな。ミカゲはおばあちゃんの懇意の方にとても似ていた、それでおばあちゃんはミカゲを可愛く思って、翡翠をあげた……とか)

 妄想の辻褄合わせでは説得力がない。

 近隣のコミュニティセンターには空襲の展示室があった。その空襲の日付は来週、今は街の平和祈念日となっている。とりあえず見に行こう。明日は土曜日。クリーニングの引き換えにも出向かねば。

 長財布を開けると入れた筈の引換券が、いつの間にか紛失していた。確かにあったのに、無い。


 第二次世界大戦末期、この街が遭った空襲は地方都市としては甚大で、原因は東に位置する軍用工場にあった。陸路の要である駅周辺が最初に狙われ、一面が瞬く間に焼き野原になったという。

 数年前の駅前開発の際に、旧駅舎下から当時の瓦礫が多数発掘された。その瓦礫の存在は重く深く、センターの片隅の部屋に展示される運びとなった。

 ほんのひと部屋の小さな施設だった。入り口のパーテーションには寄贈の千羽鶴が飾られ、壁一面には写真やパネルがずらりと並ぶ。中央のケースには発掘された瓦礫や遺品と、街の模型が展示されていた。部屋中に放つ密度は濃く、当時関わった人が皆その場に集まっている様な、何かの気配が強くした。

 衝撃を直に伝えるモノばかりで、見るだけで胸が張り裂けそうになる。誰も彼もが大変だった。生き延びた祖母も紙一重だった。展示の瓦礫の塊に張り付く硝子瓶は当時の灼熱を知らしめる。焦げた衣服の切れ端や止まった時計は、じっと誰かを待っている。誰かの革紐、手拭いと称した薄いボーダーに見える焦げた布。それがミカゲを連想させる。居ても立ってもいられない。ミカゲは今何処に居るのだろう。

 展示物には当時と現在を比較する航空写真もあった。当時は神社周辺も殆ど焼けて、御神木と狛犬の一匹だけが、今も敷地内にあるそうだ。

(初めてミカゲを見かけた場所だ。霧の様に消えた場所……)

 関連付けるのは良くない。だのにどうしても、足がそこに向かってしまう。

 爆撃の標的となった軍用工場は、あのバス爆発事故を起こした自動車会社の元だという事も、私は今更知った。


 小雨が深い霧を呼ぶ。神社の木々の緑は一層強く、湿度のせいで玉砂利の音も小さく響く。

 初めて見かけたあの朝は快晴だった。今日は真逆の霧雨。今日は。今日も……私はミカゲを見かけた。見つけた。あの椿の垣根から、カサリと音を立てて出てきた所を見た。

 でも状況が今日は違う。この間は消える所を見た。今日はミカゲが、其処から浮き出る所を見たのだ。霧雨に紛れながら、自身を表した瞬間を。なんだ。やっぱりミカゲは此処に居たんじゃない。戻ってきていたんじゃない。

「ミカゲ!」

 声が擦れる。でも叫ぶ。白シャツとグレーのパンツだ。いつの間に着替えていたんだろう。

(何やってんの、何やってたの?)

 私には怒る権利が有ると思う。

「ミカゲ!」

 もう一度叫んだのに気付かない。霧雨が一層強くなる。また街の音が聞こえない。

 その後、彼の後ろにもうひとつ、影が現れた。ミカゲは長い黒髪をおさげにした、あどけない女の子を連れている。

(誰?)

 私には疑問に思う権利が有ると思う。

(あのコは誰?)

 二人は手を繋いでいる。親しそうに、共に労わりあっている。彼等は私には目もくれず本殿に向かう。玉砂利を踏む足音は響かない。

(貴女は誰?)

 私は何度も問う。でも彼女が誰か、本当はわかる。霧雨はいよいよ強く二人を隠す。

 風が弱く吹いた。霧を流したと思ったら、二人の姿はなかった。もう本殿に着いたのか、そこから何処かに向かったか。鈴がシャンと小さく鳴った。同時に私の端末がブウブウ鳴いた。メッセージの受信。あの捨てアドで呟いた、今となってはどうでもいい短文に、誰かがリプをくれたらしい。

 日が差して霧が晴れた。明るい境内には私がひとりだけである。


 帰宅後、あの翡翠の指輪を出した。半円だった祖母の翡翠が丸くなっていた。誰かに分けた筈の残りの半円が、元の場所に戻っている。

 テーブルの上に置くと、勝手にクルクル回った。きゃっきゃウフフと楽しそう。お幸せで何より。何よりですけれど。でもね。

「あのさ、おばあちゃん?」

 忸怩たる思いの私は指輪に向かい促す。声が低くなってしまう。

「でもそいつ、オトコとしてはタチが悪いよ」

 貴女の孫を踏み台にしたよ。身内をだよ。ヒトとしてやばくない?

「私、めっちゃ面白くないんだけど」

 だが指輪はその件に関しては身じろぎもせず固まった。ウンともスンとも言わなかった。逆に「え、でも私には優しいよ」だの「ちゃんと約束を覚えててくれたよ……」だのと、グズグズとだらしない姿勢を取った。同性として、なんと腹立たしい態度か。

「そういう態度、友達なくすよ」

 指輪はまた黙った。でも孫としては更にヒトコトも二言も三言も言いたい。しかし祖母は現在「その世」で幸せそうなので、身内はホゾを噛むしかない。溜息が出る。苦笑いも出た。カラクリについては考えない。


 件のリプには『◯◯自動車関連の株、来週動くよ』とあった。差し出し人は「MIKAGE」とある。悪びれた様子はまるで無い。

「つまりこれまでの利益はミカゲの下宿代だと。今回のリプは残りの支払いと。そういうコトなのね?」

 すると翡翠が「ごめん」と言うように、また勝手にコロコロ舞った。「お世話になりました」とも聞こえた。私は暴れたくなった。孫を体良く使わないでほしい。


 十代の時分、祖母によく似ていると言われたエピソードをアレコレ思い出した。名前もさる事ながら、いろんな嗜好も似ていた事実が、この度再び証明された。殿方の嗜好まで一緒。血は争えないモノだ。

 件の自動車関連の株によって配当金が振り込まれ、私はまた潤った。だけど心の枯渇は忍びなく、再び神社に参拝する。翌日が空襲の平和祈願日だったので、そちらは丁寧にお参りをした。

 空を見上げたら綺麗な虹が出ていた。足元の影が濃くなって、もう夏ですよと教えてくれた。




 おしまい

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