ネコのボクと人間の貴女
ねぇ神様、どうしてボクは長く生きられないの?
100万回の転生なんていらないだよ。ボクは一度の人生を最後まで彼女と歩めたらそれで良いのに……ねぇ神様、どうしてボクはネコに産まれたんだろ?
ボクの名前はクロ、毛の色が黒いからクロと呼ばれた。ボクは産まれた時から1人だった。親は産まれたボクを見捨ててどこかに行ってしまった。だからボクには鳴くことしか出来なかった。そんな時、貴女は現れた。今にも消えそうな声しか出せなかったのに貴女はボクを見つけて抱き上げてくれた。貴女はボクを愛おしいそうな眼で見てゆっくりとボクを撫でた後、家にボクを抱いて帰ってくれた。家に帰ると冷えていたボクの身体をお湯で温めてくれた。柔らかいタオルでボクの身体を大事そうに拭いてくれた。お腹が空いているボクにミルクをくれた。暖かい太陽の様な貴女、ボクはそんな貴女が――
あれから何十年経ったのだろう。長い年月、貴女と共に様々な経験をした。色々な人を見て様々な玩具で遊び疲れて寝ている貴女の横で一緒に寝たり優しい手つきでボクを撫でてくれたり貴女と居ると、どんな時でもボクは幸せを感じる。そして幸せを感じる度にボクは神様に感謝の念を抱くと共に恨んでもいる。ボクはネコだ。ネコは長生き出来ない。変わりに記憶を持ったまま100万回、転生ができる。でもボクは100万回の転生なんていらなかった。今の人生を、あの人と最後まで生きられたらそれだけで良かった。なんで人間とネコはこんなにも違うんだろ。
最近、身体の調子が悪くなってきた。貴女はボクを心配そうに見る。大丈夫だよ?ボクはまだ大丈夫だよ?だから……泣きそうな顔をしないで……?
身体の調子が更に悪くなり歩く事も出来なくなり、あの人も何か忙しそうで一緒にいる時間が少なくなってきた。ボクが元気なら一緒に居られるのかな?それとも……元気じゃないボクは……いらないのかな?最近、嫌な事ばかり考える自分が嫌いだ
とうとう食べる事も鳴くことも出来なく成ってきた。ああ……ボク、死ぬのか、何となく理解出来た。ボクはネコにしては長く生きれた。これは神様のお陰なのかな?でも何でだろ……感謝したくないと思ってるボクがいる。ああ……ボクは嫌なネコだ
目を開いてられなく成ってきた。死が、もう目の前まで迫ってきている。ああ、最後に、あの人の声が聞きたかったなぁ
その時、もう殆ど聞こえなかったボクの耳に誰かの声が聞こえた。ボクは直ぐに誰の声なのかがわかった。ボクは小さく鳴いてみる。
「ニャー……」
「クロ!!」
ああ……また貴女に届いたんだね。小さくて出したボクにさえ聞こえなかったのに……ボクは閉じかけた眼をゆっくりと開く、すると貴女の顔が眼に写った
「クロ!!」
久しぶりに見た貴女は、また泣きそうな顔でボクの名前を呼ぶ
「死なないでクロ!!まだ一緒に居たいよ!!」
ああ……良かった。ボクは嫌われた訳じゃないんだね。要らなくなったんじゃないんだね。
「死なないで……」
ボクもまだ死にたくない。まだ貴女と居たい。……でもね。それは無理なんだよ。だから……だから生まれ変わったら直ぐに貴女の元に行く、どんな事があっても何があっても必ず貴女の元に行くから……だからまたボクの声を聞いて
「ニャー」
ボクは大好きな貴女に、この気持ちが届くように鳴く
「ニャー」
暖かい太陽の様な貴女、ボクはそんな貴女が
『……大好きだよ』
「っ!!クロっ!!クロっ!!!」
あれから何十年も時が経った。クロが死んだ、あの日、最後にクロの声が聞こえた気がした。あの日から私は待っている。あの時、クロはまた来るって言った気がしたから……
「おばあちゃん、こんな所にいたら風邪、ひきますよ」
「ん……あと、もう少しだけ……」
「ふぅ……仕方ないですね……あと少ししたら家に上がって下さいね」
息子のお嫁さんはいい人だ。こんな老いぼれた私の面倒を嫌な顔をせずに見てくれる。だから出来るだけ迷惑はかけたくないけど……今はなんだか此処を離れたくないのだ。そんな時だった。小さくて普段なら老いた耳には聞き取れないだろうネコの鳴き声がした。私は鳴き声がした方を見る。すると草村の中から黒い小さなネコがやってきた
「ニャー」
『やっと……見つかった。』
「……クロっ!!」
私は小さな黒いネコを抱き上げて優しく抱き締めた
「ニャー」
『ただいま』
何故かこのネコの……クロの声が聞こえる。呆けただけかも知れないけど、これはクロの声だ
だから私は泣きながら
「おかえり」
と言った。