3-9
薄暗く、肌寒い地下倉庫で、芳樹は数時間眠りについていた。
珪都たちが出発してからどれほどになるかは分からない。
時計もないし、外に出ることも禁止。無論、禁止されなくても出るつもりはないが。
夢は見なかった。
数時間、虚無に放り出されただけ。
それでもこの中途半端な現実に比べれば夢の中の方がまだ清々しいと感じた。
せめて明かりがもう少ししっかり点いてくれれば…。
ふと小さな空腹感に襲われた。
それを満たすためにわざわざ物を食べるのは面倒だと感じられるほどである。
しかし、小さな溝や隙間に粘土でも押し込んでならすように、少しでもこの中途半端な不快感を取り除きたくて芳樹は腰を上げた。
食料の入ったダンボールが積んである棚の前に立ち、自分の右手を見つめた。
片手がこんなでは重いダンボールを高い所から下ろすのは無理に思えた。
幸い、下の段にもダンボールはあり、缶詰のフタが規則正しく並んでいるのが見える。
適当に抜き取ってはがれまくったラベルに目を凝らすと、どうやらミートソースの缶詰のようだ。
すぐに元いた位置へ戻り、あぐらを組んで缶を固定し、左手だけで悪戦苦闘しながらどうにか蓋を開けた。
直接口に流し込む。
あまり良い味はしない。水っぽく、トマトの香りもほとんどしなかった。
挽き肉を気休め程度に咀嚼しながら缶のラベルを何となくまた目を凝らして読んでみる。
賞味期限………3528年…。
月日は判読できない。
それに星ごとに西暦はバラバラだったりするのであまりアテにもならないが、水の消費期限を見てみる。
――――3523年。
もしこの水が消費期限から5年後ぐらいにようやくカビが生えるとしたら、缶詰はちょうど今年、賞味期限が切れるということになる。
ギリギリだったようだ。
本当にあのまま珪都たちが新しい食料の調達に行かなければ、救助が来るまでに食中毒で全滅していたかもしれない。
"珪都たち"が―――か。
どうして自分は咬まれちまったんだ…。
咬まれなければアイツらと一緒に行って、力になれたはずなのに、今の俺は足手まといでしかない。
芳樹は何だか情けなくなってきて缶を握り締めた。
そして、歯を食いしばったまま目の前の棚に思い切り投げつけた。
跳ね返った缶が足元に転がり、中身は散乱して芳樹にも付いた。
「俺は…いずれ化け物になるんだな。あんな化け物になって珪都や優香を喰おうとするくらいなら…。」
1人で呟く。
だが、何をする気にもならなかった。
一瞬、置いてある銃で自分の頭を撃ち抜こうかとも考えたが、使い方が分からない。
それに、何だか動くのがだるかった。
こんな自分のために、珪都たちは命がけで今も闘っている。―――――闘っているはず。
「友達か―――。すげえよな、ホント……。」
涙を拭いながら心の底で珪都と優香、そしてリディとエラミルに感謝した。
もし生き残る事が出来たら、あの4人には最高のお礼をしてやりたい。
きっと拒むだろうが、これは俺のワガママだ。
―――素直に受け取ってもらえるかな?
芳樹はまた寝ることにした。
眠気にあくびが誘発された時、口の端に小さな痛みを覚えた。
指で触ると、血が付いた。舌で探ってみると、確かに鉄の味がする。
不意に鼓動が激しくなった。




