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珪都は自分に最も近い個体に目をつけ、狙いを定めた。
ガタガタと振動する車に、不安定な姿勢、動く標的……
決して射撃初心者にやさしい状況ではない。
銃口を頭に向け、引き金を引く。
昨日の射撃で慣れたと思っていたからためらわずに引いたが、まるで初めてのように衝撃にのけぞった。
しかも、弾丸は狙いの大分横を逸れた。
「無理に頭を狙わなくても良い。足を撃てば追いつかれることはない。」
リディが順調に何体目かを倒しながら叫んだ。
珪都の反対側ではかなり小さい間隔で銃を連射している音がする。
「弾を無駄にするな! すぐ無くなるぞ。」
リディが怒鳴った。
と同時に銃声は一旦止み、その後の射撃の間隔は比較的広くなっていた。
珪都ももう一度別の個体に狙いを定める。
先ほどの個体はかなり車の後方へ置いていかれ、リディの餌食になったようだ。
今度は足に向けて、慎重に引き金を引いた。
弾はそのゾンビの右腿の中心を破壊して地面に吸い込まれていった。
ゾンビは倒れ、あっという間に視界から消えた。
――――――
優香は既に焦りがピークに達していた。
「当たらない、当たらない…」
心の中でお経のように唱え続ける無意味な絶望。
当たらなくてもまだ緊急になる程差し迫ってはいないが、それが重なればいずれ緊急事態は訪れる。
先ほどから既にマガジンを2度も変えたが、倒せたのはほんの数体だけだ。
リディに叱咤されてからは更に焦りが熱せられた空気のように膨張していく。
「うわっ!!?」
いきなり腕にゾンビがしがみついてきて、優香は危うく引っ張り出されそうになった。
少し前から走ってきたゾンビがちょうどタイミングが合い、飛びついてきたのだ。
「は、離して…!」
腕を振り回すが、その腐った指は優香の腕にしがみついて離れない。
ゾンビは引きずられながら、その顔は優香をしっかりと見据えていた。
その眼光に優香は怯んでしまい、腕を振るのが一瞬止まった。
そいつはそれを見逃さず、腕を伝ってリディに近付こうとし始めた。
「っ! イヤァ!!!」
また抵抗を再開したが、ゾンビはもうすぐ優香の指に喰らいつける位置にいた。
ゾンビも最後の力を振り絞り、大口を優香の細い指へ近付ける。
フッと芳樹の姿が頭をよぎった。
芳樹を助けなきゃいけないのに… 私まで咬まれたら……
ヤツの息が爪の先に感じられる距離。
既に覚悟を決め、心の中で何度も謝りながら目と口を力いっぱい閉じた。
ヒュッ
ザクッ
「!?」
妙な刃物の音で目を開けると同時に腕にかかっていた重量は消え、ゾンビは後方へ転がっていった。
もしかしてと思い、背後を見上げると、リディがライフルを構え直していた。




