モノクロロジック 卒業式
【メールを受信しました】
-----------
FROM:ブラン
SAB:無題
今抜けれる?
-----------
【メールを受信しました】
-----------
FROM:ノアルくん
SAB:無題
なんで
-----------
【メールを受信しました】
-----------
FROM:ブラン
SAB:無題
話したいことがあるの
-----------
【メールを受信しました】
-----------
FROM:ノアルくん
SAB:無題
後ででいいだろ
-----------
【メールを受信しました】
-----------
FROM:ブラン
SAB:無題
察してよ!
あんまり人に見られたくないの
他の学年が帰って、三年がクラスでお別れ会している今が一番いいかなって
-----------
【メールを受信しました】
-----------
FROM:ノアルくん
SAB:無題
なんだよ
用事ならメールでもいいだろ
-----------
【メールを受信しました】
-----------
FROM:ノアルくん
SAB:無題
あー今の取り消しな
分かったよ
どこにいけばいい
-----------
【メールを受信しました】
-----------
FROM:ブラン
SAB:無題
グラウンドに向かう途中の階段!
-----------
* * *
今日は俺の学年の卒業式だった。
つまり、というかもちろん俺もブランも無事に卒業した。
まだ実感は沸かないが。
そんな俺は今なにをしているかというと待ち合わせ場所に急いでいる。
本当はいけないが履き替えるのも面倒で、上履きのまま外に出た。
賑やかなのは後輩がごったかえす昇降口だけで、あとはがらんとしている。
目的の場所と、そこに待つ人間はすぐに見つけられた。
「ブラン」
「あ、来たノアルくん」
校舎からグラウンドに向かう途中の長い階段のそばにブランは立っていた。
小山に無理矢理立てたから校舎とグラウンドの上下距離が長い。だからこんな階段なのだろう。
「ごめんね、いきなり呼び出しちゃって」
「別にいいよ。お前のとこもクラスで打ち上げやってなかったのか?」
卒業のテンションからなのか、どのクラスもすごい盛り上がり具合だった。
俺のクラスも例外ではなく、ジュースや菓子を皆で食べていた。
本格なものはこのあとどこかの店でやるんだけど。
ブランは頷いて、それからため息をついた。
「男子が腹踊り始めたからつまんなくて…」
「……どこの会社の忘年会だよ…」
「ノアルくんもよかったの? 抜け出してきちゃって」
「なんつーか、まあ、よかったんだと思う」
「ん?」
「お前が気にすることじゃない」
ブランとメールをやり取りしていたらいつの間にかクラスメイト達が後ろで見ていて、「彼女を待たせるな」と蹴り出されたとは言えない。
そんな後押しする行動力があるならちゃんとこの一年のクラス日誌を書いて欲しかった。
半分は俺の筆跡で埋まってるぞあれ。
「……で? ちゃんと、呼び出した理由はあるんだろう?」
大概俺も意地悪だと思う。
何年ずっとお前の隣にいたというんだ?
「うん」
グラウンドを眺めていた瞳が俺に向く。
目が赤いわけでもなく潤んでもない。そっか、こいつ卒業式で泣いたことないんだよなとふと思った。
「告白しにきた」
ブランはいたって普通に言った。
「そうか」
俺もいたって普通に答えた。
「このクラスに殺人犯がいます!」
「そういう告白かよ!?」
人間ドロドロドラマは他でやってほしい。
そういえば原作書いたのが普通にどこにでもいそうなおばさんだったの知って驚いたな。
至極どうでもいいか。
「嘘だよ」
ぺろっと舌を出して数段階段を下りる。
手招きされたので俺も下りた。
すぐストップをかけられ、止まった段はブランと同じか少し上ぐらいの目線になる場所だった。
まったく、変な気づかいをする嫌なやつだ。
「あのさ、ブラン」
「うん?」
「俺からも色々言いたいことあるから、同時に言わないか」
「……いいよ。じゃあいっせーのせっ!でね」
「ああ」
一瞬の沈黙。
それからどちらともなく。
「「いっせーのせっ」」
「好きだよ。付き合おう、ノアルくん」
「好きだ。結婚しないか、ブラン」
「……」
「……」
「ほえええぇぇぇ!?」
のけ反った。
バランス崩して階段から落ちたらどうする。
「…なんだよ」
「なな、ななんでそんな!けっこっこっ!?」
ブランがにわとりへ進化した。
顔を真っ赤にしてわたわたと手を振っている。
「…えっと、なんかごめん。。何が悪かった」
「違うよ!悪くないけど!ああ、もうノアルくんまったく女心分かってない!ばかっ!」
俺が女心分からないのは昔からのことだろうが。
彼女はむにゃむにゃと何かを口の中で呟いた後にキッと俺を見た。
「も、もっとさぁ!そんな恥ずかしげもなくいうんじゃなくて!」
「…さっきのセリフをあはんうふんしながら言ってほしかったと」
「なんでよ!? ちゃうわボケー!」
お前にだけは言われたくない。
ひとり賑やかに騒いで肩で息をする幼なじみ。
「……それ、ほんと?」
「俺はお前に嘘をついたことあるか?」
「身長とか身長とか身長とか……」
「あ、スイマセン、ノーカウントでいいっすかねそれ」
誤魔化した時期のことを言っているのか。
ちなみに現在の身長でも四捨五入しても160にならないあたり絶望的である。
二十歳までは身長は伸びるというが、はてさて。
欲は言わない。180ぐらいほしい。
「うん、でもありがと」
照れながら彼女はそれだけ言った。
それから再びグラウンドを見る。
あんまりにもあっさり自分たちの気持ちを伝えてしまったが、それが俺たちなのだろう。
少女マンガみたいな華々しさがなくてもそれでいいのだろう。
「ぶっちゃけ、私たち青春みたいなの終わってるんだよね」
「だな」
「なんというか、デートみたいなこともしていたし」
「キスなんて事故だけど中学で済んでもんな」
「……確かに結婚しかないねぇ。青春じゃないけど」
「人生の墓場に俺と足突っ込みに行かないか、っていう路線も考えてた」
「いやなプロポーズ」
笑った。
それからすぐに笑みを消し、真面目な顔になる。
「いよいよ海外行くんだね、ノアルくん」
遠くを見つつぽつりと彼女は溢す。
その通りだ。俺はしばらくこの国を出る。
ここから十時間以上時差がある場所へ。しばらくは帰ってこれないだろう。
「ああ。お土産は何が良い?」
「いらないよ、何も。ちゃんと戻ってきて」
それはまた、ブランらしいお願いで。
「馬鹿じゃねぇの。戻るよ。で、流星群見るんだ」
「うん、約束ね」
「ん」
自然な流れで指切りげんまんをした。
小さい頃以来かもしれない。由来怖くて泣いた覚えもあるし。うん。
「あのさ……しようぜ」
「スケベ?」
「なぁ…スケベしようや……――って、ちげぇよ!それかなり最悪なタイミングの最悪なセリフだな!」
「サッカー?」
「そうだな、サッカーしようぜ!―――違うわ!」
「ねぇ知ってる?サッカーの起源は敵の首を蹴ったことからはじまったんだよ」
「知りたくなかったトリビア!」
こいつだいぶ元のペース戻してやがる。
うだうだして誰か来るのも嫌だ。早くするべきかもしれない。
「あー…、ちょっと目つぶれ」
「階段でスイカ割りは危ないと思うんだ……」
「誰がスイカ割りすると!旬ですらないしな!いいか、そのままだぞ」
階段のおかげで背が同じぐらいなのが助かった。
わー、これかなり緊張するー。
だがもうここまで来たらやるしかないじゃないか。
なんていったって、今日は晴れの日なわけなんだし。
* * *
やりおった。
完璧なちゅーである。
僕こと彼らの年下の幼馴染みのカルネはばっちりとそのシーンを見ていた。
写メ撮るか悩む。
いや、でもバレたら大変なことになる可能性も。
「嘘偽りないハッピーエンド……で、いいんだろうな」
ここまで大した波乱もなく本当に良かった。
ブラン姉もノアル兄もやっとくっついたわけだし。肩の荷も下りたというものだ。
これ以上はここにいなくてもいいだろう。そっと僕はその場から立ち去ることにした。
恐らく最後の制服姿であろう二人に、小さく呟く。
「二人に幸あれ」
春が近い。
来月から僕は三年生になる。
おしまい。




