『描いたのは』 1000字掌編
別所で投稿した三題噺「タイムマシン」「妹」「シャーペン」を少しだけ手を加えて投稿しています。
1000字以内ということで、ちょうど1000字に納めました。掌編もまた初めてです。
ご意見やご感想、各種批評、間違いの御指摘などを頂けると嬉しいです。
この作品に登場する地名、人名などの固有名詞は全て、フィクションです。
紙の上をシャーペンが走り、その白い山脈が連なる大地に黒い河を作り、川の集まりは次第に一つの形を描き出す。
僕の妹の絵だ。
それもただの絵ではない。ちょうど一年前の絵だ。
なぜそんな断言ができるのかと言えば、僕のシャーペンがタイムマシンだからだ。
あれは一年前の、高校入試の時。
運悪く筆記具を忘れて困っていたのだが、ポケットにそのシャーペンが入っていた。
部屋の片付けをしている時に見つけて、見覚えは無かったが筆箱に戻そうと思っていのだ。筆箱に戻し忘れたのが不幸中の幸い。
なんとか試験に臨んだのだが、異変はふたつ目のテスト教科、得意な英語で発生した。
早めに終えた僕は、テストの様子を観察している先生の横顔を落書きしようとしたのだ。あんな先生でも高校生だったのかと想像しながら。
紙に描かれたのは、信じられないほど写実的なその先生の若かりし日だ。しかも、回収するときに先生の目に止まり、声をかけられたほどの忠実さ。
それ以来、僕はよくこのシャーペンを使って、過去をのぞく遊びを繰り返している。
「妹の絵とか描いて、お前ってロリコンか?」
高校でできた友人が苦笑している。
「記憶力を確かめてるだけさ。思い出せるかって」
「なーる。十年前とかはどうだ?」
友人の言葉に従って、十年前と念じながらシャーペンを走らせる。
「あら、私ですか? 兄さん」
そこで急に後ろから声を掛けられ、慌てて振り返るとそこにはいつの間にか妹がいた。
そして、その頬の滑らかな肌に、古傷のような線が走る。
僕は慌てて書いた絵を見て、四歳くらいの妹の絵に、自分が振り向いた拍子に線を書きたしてしまっていた事に、気がついた。
妹と二人で家まで歩く。一緒に帰るために呼びに来たらしいのだ。
そして、二人きりになってから顔のキズについて謝ると、兄さんは十年前から何度も謝ってくれてるじゃないですかと、笑われた。
タイムマシンに、過去が改変されている。
「ところで兄さん」
僕はシャーペンに対する恐れをひた隠して、妹に笑顔でなにかなと聞いた。
「そういえば、先ほど兄さんが使われていたシャーペン、私のものじゃないですか?」
「そ、そうなのか?」
シャーペンを見せると、妹は懐かしそうに笑って言った。
「やっぱり、私のです。これで色々とお絵かきしたんですよ。不思議とよくかけて……前に使ったのは、そう、ちょうど一年前にお兄ちゃんが欲しいなって描いた時です。あれ? でも、兄さんはずっと前から……」