第一話「星を観る者」
君たちは想像した事があるだろうか。
背後から
迫り来る命の危機から逃れる為、
肺が張り裂けそうになる程走る。
其の恐怖を
「はぁ…はぁっ……」
荒い呼吸が、夜の闇に溶ける。
まだ冷たい三月の風が肺を焼く。
アスファルトを蹴る音だけが,静まり返った封鎖区域に響き渡る。
後ろには、この世のものとは思えないほど恐ろしい獣。深淵から来たるとされる
魔洞獣が迫り来る─
「くっ……はぁ、はぁ、くそっ、なんで…!」
重い足音だ。振り返らなくてもわかる。
止まれば、死ぬ。
黒く歪んだ肉塊のような異形が,
路地を破壊しながら迫ってくる。
無関係だと思っていた
まさか自分が襲われるはずがないと思っていた。
ただの帰り道だった筈なのに。
「どうして…!こうなったんだ!」
死が迫る中,俺は、今日の朝のことを思い出していた。
────
2036年3月15日 午前6:30分 東京八王子市
いつものように目を覚まし。
いつものように制服に着替え。
いつものように朝食の準備をする。
俺、星宮澄空は
髪の毛がちょっと青くて目も深い青色な事以外は、
どこにでもいる15歳の普通の高校生。
でも、一つだけ…人と違う事がある。
朝のニュースの音が聞こえる。
《続いては,特異点注意報です。
今日、特異点は全国的に発生率が低いと予測されます。ですが外出の際は──》
「…最近多いなぁ、特異点の活性化。」
この世界では,昔から「魔洞」と呼ばれる存在その中でも獣のような見た目の「魔洞獣」が人類を脅かしている。それらは「特異点」と呼ばれるものを通じて現世に来ているらしい。
でも、そんな魔洞に立ち向かう存在はいる。
それが「異能力者」で、世界特異対策機構に
認められた者たちの組織が,それらを「殲滅」しているらしい。日本では「対特異殲滅部隊」通称「A.S.A.U.」と呼ばれてるんだとか。
でも、俺にとってはそんな存在も、遠い世界の存在に感じる。もちろん「異能力者」自体は身近にいる。
両親も異能力者だ。
でも、
「八王子市に特異点なんて滅多に出ないしなぁ。」
そう、俺の住んでいる八王子市は7年前にある住宅街に現れて、封鎖されることになった以外は、
殆ど現れていない
だから、安心安全な街なわけだ。
「あ、でも今日は警戒度8%か、
気をつけよー」
「父さんも、仕事行く時は気をつけなきゃなぁ、」
俺の父さんは、ニュースを見るやそう呟いた。父さんの仕事は特異点の発生可能性を予測したり観測したりする
観測センターの職員らしい。
「あ、時間だ,父さん俺そろそろ家出るよ。」
そう言って俺は,荷物を持って学校へと向かう準備をする。
「うん、澄空気を付けてな」
俺が家を出ようとすると,
ドタバタという足音が聞こえる。
母さんだ。
「澄空!弁当忘れてるわよ!」
「え、あ、ごめんありがとう!」
弁当を受け取り,俺は家を出る。
変わらない日常。でも俺は何となく…
「んー、いつもは忘れないんだけどな…
やっぱり,星が濁ってたのは見間違いじゃなかったのかな?」
ちょっとだけ,不安を抱きながら,
俺は登校した。
俺は一日一善を心がけている。
それが偽善だとしても、困っているおばあちゃんを助けたり、
道に迷った人を助けたり。
そうするべきと教えられたから。
そうしてる。
さて、そう心がけていても、
ちょっと億劫な相手もいる。
「星宮ぁぁぁ!!俺を占ってくれ!」
教室に入るや否や,丸坊主の同級生、
高橋がそうせがんでくる。
「俺の今日の恋・愛・運!
今まで最悪だったけど、改善点全部直してきたんだ!」
「はいはい…占うから座って」
そう,俺には一つだけ人と違う事がある。
それは占星術。
紙に書いたホロスコープに、
なんかよくわからないけど念?
みたいな力を注げば、天球みたいなドームの中に星粒が形成されて、それに
対象者の生年月日、名前、性別の情報を入れる事で,普通の占星術の1.5倍くらいの精度で占える。
「…もう生年月日も覚えちゃったから,省くよ?」
と、俺は怪訝そうに高橋を見る。
「あぁ大丈夫だ!さぁ早く占っておくんなまし!金は払う!」
(いらないって言ってるんだけどな…)
とにかく俺は異能力の占星術を起動して占いを始める
俺の異能力の名前は
「星辰天環…」
占星術には手順が必要だ。
そしてこれは天環を巡らせるたまに必要な譜
「【楚は星と帷,星辰を繋ぎ天環と成し
其の天命を指し示せ】」
そう謳うと、俺のノートに書かれたホロスコープは青く光,天球が投影される。
それはまるで小さな星空のようだ。
「相変わらずどうなってんだそれ……」
「うーん、うん、この星座とこの区画…そんでこの単体の位置関係なら……あ、高橋好きな子は一人に絞った方がいいかも…」
俺が天球をのぞいてみると、
高橋のホロスコープはなんか,一つに定まってない感じがした。優柔不断な星というか、すごく揺らいでいる。
「な、何で俺が同時に何人も好きな子いるってわかった!?」
「いや…そのそこまではわからないけど,そういう星になってたから一応ね?」
と高橋に警告する。
「くぅ…実は…こうなったのには訳が…」
「俺に弁明されても困るんだけど…」
とまぁ、俺はこうして自分の異能力で
占い,助言をする事が日常だ。
─放課後
俺はこの日,所属する専門委員会の仕事と、一応在籍している剣道部の稽古で
帰りが遅くなっていた。
気づけば時刻は午後6:00を回り,
もう夜の帳が下りている。
3月は暦の上では立春。
昼間は暖かい。
でも、夜はまだ冷たい空気が流れている。
俺は、そんな寒い夜は何気に好きだ。
だって、空気が澄んでいるから星が綺麗に見えるから。
「今日、やけに星が綺麗だな…」
見上げた星空は、気のせいかも知らないが,"ハッキリと見えすぎて"いる
嫌な予感がした。今日の朝自分を占った時の星の輝き方に似ていた。
その星の輝きは"不幸"を示していた。
最初は弁当を忘れかけることかと思った。でも、弁当を忘れかける不幸が過ぎた後も、ずっと同じ配置で輝き続ける。
「今日は早く帰ろ……」
そう呟いた瞬間だった。
ズドーン!と、背後で重い何かが落ちできた音がした。
恐る恐る振り返ると…そこには
『る゛……?』
ハダカデバネズミを思わせるような見た目の,ドス黒い空気を纏った巨大な獣……まさしく「魔洞獣」がいた。
「な、なん…で……」
近くに特異点がある感じもないし,何より特異点レーダーアプリにもこの近くに発生したと言う警報はない……
一つ言えるのは…今確実に、
命の危機にあるだということだけ。
「うわぁぁぁっ!」
俺は、情けなく叫びながら、
ただ一目散に逃げた。
この時、大声を出したのがいけなかったんだろう。
魔洞獣はその声の主である俺を追ってきた。
「はぁっ、はぁっ、カヒュッ……」
無我夢中で走る俺は、息の仕方を忘れたような呼吸しかできなかった。
足はもつれ何回転けそうになったか……
それでも転けずに走り続けられたのは
ひとえに,"死にたくない"
の一心だった。
この時俺は初めて、烏滸がましくも「ダンテ・アリギエーリ」の気持ちがわかった気がした。
「何で‥っ、何でこんなところに!?」
逃げおおせる中、漏れ出た言葉は
助けを求めるでもなく、
神への恨み言でもなく、
漠然とした、絶望の一言だけだった。
「どうして…!こうなったんだ!」
あぁ、神様、
俺は何か悪いことをしたでしょうか
人の未来を占ったからですか?
もしそうなら、もう2度とそんなことはしない。だから…せめて
「俺を生きて、…っ、帰してくださいっ」
俺は逃げ延びることを祈るしかできなかった。
そんな事意味ないってわかっているのに。
「はぁっ、はぁっ、……はぁっ…」
気づけば、俺は「封鎖区域」にいた。
封鎖区域は過去に「特異点」が現れた場所の事。
基本的に復興までに時間がかかるから
それまでの間に人が入り込まないように設けられている。
そんな所に逃げ込んでしまったがゆえに、逃げ道がなかった……
自分でも、何で来てしまったのかわからない。
未だ倒壊したままの建物や瓦礫が目の前に広がり、後ろには…「魔洞獣」がいる。
「や…やだっ…俺はまだ……死にたくない…」
ジリジリと距離を詰められる。
肉食獣に追い詰められた小動物のように、小さく縮こまることしかできない。
魔洞獣の口が近づいてくる。
(両親より先に死んじゃうのか
悲しませてしまうな…
そんな最低な不孝をしてしまう…
申し訳ないな…
あー、まだ見れてないアニメもいっぱいあるのに…それを一緒に見ることすら…もう…)
「ごめんなさい…っ、父さんっ、母さん……」
全てを諦めかけていた
その時だった。
空を裂くようなゴォォッという音と共に、
一条の光が魔洞獣の頭を撃ち抜く。
『ゴギャァォァ!!!!』
けたたましい金切音のような悲鳴が
あたりを包んだ。
「そこの君!
大丈夫!?」
怯んだ魔洞獣に向かって飛び蹴りをかましたのは,
灰色の髪の毛に,サファイアブルーのメッシュとインナーカラーの入った、襟足だけウルフカット。
そして…頭の両サイドには黒いツノのようなものが生えており、
軍服のような制服?を着ていて、
腰には刀と拳銃を帯びている女の子。
同年代くらいに見える。
が、確実に何か違う。
「だ、 誰?……」
「話は後!とにかく身を隠すか逃げて」
俺は言われた通りに近くにあった
瓦礫の山に身を隠した。
それを確認した彼女は魔洞獣に向かって掌を向けると,何かを唱え始めた。
「【第一魔法】術式展開」
彼女の掌から魔法陣のようなものが展開される。
光を放つそれは、まるで電飾のように煌びやかで、でも決して近づいてはならないという空気をビリビリと感じた。
「光あれ
人に宿りし理の力は
一条の矢とならん」
「【魔砲】!!」
そう唱えるとその魔法陣から、
青白いレーザー砲みたいなのが発射された。
それは再度魔洞獣の頭に当たると、今度は貫通し、
魔洞獣の体は構成要素を保てなくなったようにボロボロと崩壊する。
「…君、無事だった?怪我はない?」
俺はゆっくりと立ち上がりながら
彼女の問いかけに答えた。
「えっと、はいっ、怪我はないです。
その、ありがとうございました……」
深く頭を下げると、彼女は焦ったように言った
「いやいや!アタシは当然のことをしたまでと言うか!…それより君、怪我は…」
『ゴァァァ!!』
彼女が言い切る前に、さっき崩壊したはずの魔洞獣は、
何故か復活しており一目散に俺に向かってきていた。いきなりのことで、
何も反応できずにいた。
「っ…!危ないっ!」
少女は俺を突き飛ばし、代わりに
自分がその魔洞獣の突進をモロに喰らい、
吹き飛ばされていた。
「くぅっ、」
少女は苦しそうに蹲る。
おそらく強烈に打撲したのだろう
痛みで動けなさそうだ。
俺は、戦う力なんてないから,何もできずにへたり込んでいるだけ……
「あ…っ、嘘っ…だろ?」
そんな情けない鳴き声しかあげられない。
目の前にいる魔洞獣は、
口から涎を垂らしている。
生殺与奪権が完全に向こうにある。
だが、俺を噛み殺す前に、
そいつはあの灰髪の少女に目を向けた。
「くっそ…アタシ…は…まだ」
多分、さっきぶち抜かれたことへの恨み…なのかもしれない。
でもコイツらにそんなものがある知能を有しているようには見えない。
いや、今はそんな事はどうでもいい。
早く何とかしないと、あの少女は
殺される
でも何ができる?
俺は何も知らない。
戦い方なんて知らない、
剣道なんかすぐにすぐ
実戦に応用できるわけがない。
剣術は…父親から昔ちょっとだけ教えてもらった程度…
カラン…と音がする
目を向けるとそれは、
彼女が腰に帯びていた打刀
装飾はない、黒一色。
いかにも実戦用だ。
「っ……」
生唾を飲み込む。
本身の刀なんて握った事ない。
でもやらないと今いる二人は全滅…
もしかしたら一般市民に被害も…
そう思った瞬間、フッと思考がクリアになった。
あぁ、俺がやらなきゃならないんだと
理解した。
その瞬間、『星辰天環』の天環が、発動した。
俺の意思ではなく勝手に。
しかも、占星の時の直径15cm四方なんかでは無い、
半径2m四方に展開された。
心の中にあるわだかまりが
解けていく。
でも、怖いものは怖い…
刀を抜いて,構える。
「フゥーー……たぁぁぁ!!」
上段から、刀を振り下ろす。
しかし思っていたよりも表皮が硬く、
ろくにダメージも入らず、弾かれる。
その様子を見た少女は叫ぶ
「ダメ…!アンタ…じゃ…
無理だよ…」
そんなことわかってる!
分かってるんだ、でも
「君が、狙いになったのに…!それを見捨ててっ、
逃げられるわけないだろ!」
本身の刀は思ったよりも重く、
降るたびに腕が疲れていくし,
それに何より…魔洞獣の腕が振り下ろされるのを防ぐたびに、手が痺れる。
『ゴガァァァ!!』
横から振られた腕を防ごうとしたが、
刀は折られた上に、弾き飛ばされてしまった。
恐怖がまた湧き出てくる。
吐きそうなほど怖い。
涙も滲んでくる。
でも、諦められない。
「あぁぁぁ!!!」
『ギァァァァ!!』
咆哮が重なる
剣で無理なんだ、徒手空拳
なんてもっと無理。頭では分かっているのに。
体は……動いている
懐に飛び込み、殴り掛からんとしたその時、
天環の中で星粒が、煌めいた
その星粒は一条の流星となって
目の前の獣を貫いた。
と同時に「星辰天環」も解除された。
何が起こったのやらわからず,
俺は驚いた。しかし俺よりも驚愕していたのは、灰髪の少女だった。
「は、はぁ…!?なに…今の」
魔洞獣は、再度形を形成できなくなり、
崩れていった。
「なんで、そんな力を持ってるわけ!?」
あまりに驚いてアドレナリンが出ているのか、
少女はぐわっと立ち上がり、
問い詰めてきた。
んで、制服の襟を掴まれて
ぐわんぐわん揺さぶられた。
「いや…そのぉ、俺に聞かれても
困ると言いますか…」
今思えばこの日が、
普通の人生を歩むはずだった
俺の命運が大きく変動するきっかけだった…
どうも初めまして!逢松十五です!
私の稚拙な妄想を吐き出しただけにすぎませんが、
この度はこの私の厨二病な妄想を見ていただきありがとうございやした!




