アイの思い。まーるの想い。
半年が過ぎたある日、ひとつのメッセージが届いた。
送り主の名前を見た瞬間、胸の奥が強く締めつけられた。
アイからだった。
半年もの間、ログインも、連絡もなかった。
それでも、どこかで「いつか戻ってくる」と思っていた。
だからこそ、その名前を見た瞬間、心臓が跳ねた。
震える手でメッセージを開く。
そこには、アイの“その後”が静かに綴られていた。
もともと体が弱く、あの夜のあと入院したこと。
病気が進行し、やがて視力を失ったこと。
声も出しづらくなり、通話もできなくなったこと。
もう一緒に冒険できないこと。
ふざけて煽って怒らせたことを謝る言葉。
本当はもっと一緒にいたかったこと。
あの夜、言葉にできなかった気持ちを伝えられなかったこと。
読み進めるほど、胸の奥が冷たく沈んでいった。
添付されていた画像を開く。
病院の一室。
そこに、見慣れたキャラの衣装を身にまとった一人の女性がいた。
髪もネイルも丁寧に整えられ、少し濃いめのメイクで血色の悪さを隠している。
儚げなのに、精いっぱいの笑顔だった。
実際に会ったことは一度もない。
それでも、一目でわかった。
――アイだ。
ベッドの周りにはPCやスマホが並び、画面には見慣れたキャラクターたちが映っていた。
僕らが歩いた世界が、彼女の最後の部屋をそっと囲んでいるようだった。
そして、動画が添えられていた。
再生すると、アイが映った。
伝えきれないほどの感謝を、必死に言葉にしようとしていた。
声はかすれていたが、毎日話していたあの頃の声を思い出すように、ゆっくり、丁寧に話していた。
「まーる……聞こえてるかな……」
その声は弱々しく、けれど確かにアイだった。
画面の端には、僕らが旅したゲームのキャラたち。
二人で歩いた街。
笑い合った夜。
語り合った日々。
アイは、ひとつひとつ思い出すように言葉を紡いだ。
「たくさん遊んでくれてありがとう」
「いっぱい笑わせてくれてありがとう」
「怒らせちゃったこともあったよね……ごめんね」
「ほんとはね、もっと一緒にいたかったんだ」
涙をこらえながら、アイは続けた。
「まーるには、旅を続けてほしい」
「まだ見たことのない世界、行きたいって言ってたよね」
「私の冒険はここで終わるけど……まーるには、これからも楽しんでほしい」
「たくさんの友達に囲まれて、笑って過ごしてほしい」
「時が経てば、私のことは忘れちゃうかもしれない。でも……たまにでいいから、思い出してくれたら嬉しいな」
「私が生きた証は、あの世界にあったから」
「いつか、この話を笑って話せるようになってほしい」
そして、最後に。
「まーるにとっては、ゲーム仲間の一人かもしれないけど……」
「私にとっては、かけがえのない一人だったよ」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
ゲームで出会って、たくさんの世界を旅した。
リアルの誰よりも長い時間を一緒に過ごした。
かけがえのない仲間だった。
忘れられるわけがない。
長い時間を共にしてきた仲間なのだから。
忘れられるわけがない。
たくさんの世界を一緒に旅してきたのだから。
忘れられるわけがない。
これから行きたい場所を語り合った、あの夜の声がまだ胸に残っているのだから。




