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04.チャッピー

「ティア様!?」

「あ……た、助けてくださいぃ」


 レティシアは、突然開いた落とし穴に嵌っていた。

 本来ならばそのまま落下して、下で待ち受けていた針山に串刺しとなるはずだったのだが、規格外に大きなウエストが穴に突っかかって落下を免れたのである。


「デブで命拾いしたな」

「ルルはそっちの腕を引っ張って」

「オーケー。ティア様、いきますよ! せーの……!」


 両手をエヴァンとルルで引っ張るが、あと少しのところで引っ張り上げる事ができない。


「ノアも手伝って!」

「えぇ……」


 ノアは露骨に嫌そうな表情を浮かべたが、渋々レティシアの逞しい腕を掴む。


「は……っ!?」


 その瞬間、何かを感じ取ったノアだったが、とにかく2人に合わせてレティシアを引っ張り上げた。


「ご迷惑をお掛けしました。お陰で助かりました、ありがとうございます」


 深々と頭を下げるレティシア。その腕を、ノアは掴んだままである。


「ノア? どうかした?」

「この手触り……この太さ……この体温……」


 レティシアの、ムダ毛でふかふかチクチクした腕を撫でながら、ノアはゆっくりと目を閉じた。その目尻から、一筋の涙が零れ落ちる。


「チャッピー……!」

「っ! チャッピー!?」

「チャッピーなの!?」

「チャッピー?」


 ざわめく3人に、レティシアは小首を傾げた。


「チャッピーは、ノアが飼っていたハリネズミの名前です。ノアは、チャッピーがいないと眠れないんです!」


「はぁ……?」


「ノアの魔力が睡魔属性なのは、さっきご覧になりましたよね? ノアはあの力を使えば使うほど、自分も眠たくなるんです。そして眠たさがピークに達すると、超絶機嫌が悪くなる!」


「まぁ。幼子のようですね」


 くすりと笑うレティシアに、ルルとエヴァンは顔を見合わせて首を振った。


「そんな可愛いものじゃないんです……」

「ルル、見てよ。ノアが眠りそうだよ!」


 ノアはレティシアの腕にしがみ付き、とろりとした目でウトウトとし始めていた。


「あらまぁ」


 レティシアが反対の手でノアの背中をトントンとリズム良く叩くと、ノアは完全に夢の世界へと旅立ってしまった。


「ありがとうございます、ティア様!」

「王女様万歳!」


 ノアを静かに床に横たわらせると、ルルとエヴァンは互いに手を打ち鳴らして喜び合った。


「僕たち、ノアの眠たいのに眠れない時の不機嫌に本当に困っていたんです」


「チャッピーが死んでからは、他のハリネズミやぬいぐるみ、睡眠薬も試したけど全然ダメで。睡眠の魔法も掛けてみたんですが、これは体に合わないのか今度は目覚めた時に機嫌が悪くなったりして。結局、力尽きて気絶するのを待つしか無かったんです」


 一体どんな状況なのかレティシアには想像もつかないが、とにかく役に立てたことが嬉しくてニコニコと笑顔を浮かべた。


 ――ノアの睡眠時間は短かった。15分経った頃にはもぞもぞと手足が動き始め、やがて閉じていた瞼を勢い良くかっぴらいた。


「久しぶりに頭がスッキリとした。さぁ、出発するぞ。ルル、エヴァン、チャッピー」

「はい!」


「一国の王女様をペットの名前で呼ぶんじゃないわよ……ティア様も返事なさらないでください! こいつ、すぐ調子に乗るから!」

「あ、はい! ごめんなさい、つい……」


 5秒前まで眠っていたとは思えない寝起きの良さで、さっさと歩き出すノア。


「チャッピー、どうした。俺の前を歩け」

「はい! すぐに参ります!」

「だからぁ……!」


 慌てて駆けて行くレティシアの背中にルルが声を掛けようとするが、エヴァンに肩を叩かれて言葉を途中で飲み込んだ。


「もう、いいんじゃない? ティア様本人が気にしていないみたいだし、むしろ楽しそうだし」

「いい……のかなぁ?」


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