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01.すごい◯◯がいる

 バルドレイン王国の王女が攫われた――


 その衝撃的な報せは、瞬く間に国中を駆け抜けた。

 ある優しい人は心を痛め、ある血気盛んな人は不敬に憤り、またある勇気ある人は哀れな王女を救い出そうと、草の根を分けて探し始めた。


 そして遂に、ある冒険家の一行が王女を見つけ出したのである。


「……ブ」

「ダメ。それは言っちゃダメ。本当にダメなやつ」


 牢屋に入れられた王女を見るなり、正直な感想を口にしようとしたノアの口を慌てて塞ぐルル。


 ノアは終日眠たそうなその目をルルに向け、そして心得たとばかりに深く頷く。

 それでルルは安心して、押さえていた手を放した。


「すごいブスがいる」

「だから言っちゃダメって言ったでしょ!? なんだったのよ、今の頷きは!?」


「何が問題なのかわからない。ブスを見て美人だと言えばいいのか? それはブスを見てブスがいると言うのと、どちらの方が罪深いか――」


「もういいから、そのワードを2度と口にしないで! 私まで気分が悪いわ!」


 ノアとルルのやり取りを、牢屋の中の王女はポカンと口を開けたまま聞いている。


「あ……ごめんなさい。この人、思ったことを誇張して口にしてしまう呪いにかかっていて。バルドレイン王国の王女様でお間違えありませんか?」


「俺はそんな呪いをかけられた記憶は無いが?」


「え……えぇと……はい。私はレティシア=フォン=バルドレイン。バルドレイン王国の第二王女です」


 不思議そうに首を傾げたノアのセリフはひとまず無視して、名乗りを上げる王女。


 王女は小柄なルルと同じ位の背丈で、横幅は一般成人男性であるノア2人分。白い肌には張りはなく、長い金の髪はボサボサに絡み合い、ボロ雑巾のようなワンピースから覗く手足には逞しい剛毛がみっちりと生えている。


「今流行りの『私王女王女詐欺』じゃないのか?」

「でも、さっきの魔王みたいな人が言ってたじゃない? 『この先の牢屋にレティシア王女を閉じ込めたー!』って」


 ルルのその言葉を聞いて、レティシアははっとした顔で通路の奥を見た。


「魔王……あの人はどうなったんですか!?」

「今、あたし達の仲間がロープで縛り上げてると思うけど」


 そう話している途中で、ちょうど通路の奥から男がひとり現れた。


「ちょっとさぁ、君たち薄情過ぎない? 気を失った大の男を縛り上げるのって、結構大変なんだよ?」


 男は腕をさすりながら、ノアとルルを半眼で睨む。それから牢屋の王女に気がつくと、大きく2、3度瞬きをしてから人の良さそうな笑顔を浮かべた。


「お初にお目にかかります、レティシア王女。僕はエヴァン。ご無事で何より」

「あの、縛り上げた男と話がしたいのですが……」

「ではまず、この牢から出して差し上げなくてはね」


 エヴァンはノアを振り返る。


「ノア。開けれる?」

「試してみよう」


 大きく頷き、ノアはルルの髪からヘアピンを一本外した。それを牢の鍵穴へ差し込み、カチャカチャと上下左右に動かしてみる。


「エヴァン。この方、本当に王女様なの?」


「そうじゃない? さっきの男もそう言っていたし、こんな辺鄙な森のダンジョンの奥深くに閉じ込められているなんて、本物か変態くらいじゃない?」


「えーと……一応、本物の証として王家に伝わるこの指輪があるんですけれども」


 レティシアはソーセージのような指に嵌めた、真紅の宝石が埋め込まれた指輪を2人に見せる。

 目を凝らして宝石を見てみると、王家の紋章が刻まれているのが確認出来た。


「まぁ、一般市民の私にはそれが本物なのか判別できないけど、取り敢えず本物って事で――って……ねぇ、ノア。それ、いつまで掛かる?」


 カチャカチャカチャカチャ。鍵穴をいじくり回す音だけが鳴り続けていて、ちょっとルルはイライラし始めていた。


「いつまで掛かるかはわからない。ピッキングなど、やったことがないからな」

「じゃあ自信有りげに頷くのをやめてくれる?」


 ノアは舌打ちすると、今度は鍵の部分をガンガンと力任せに蹴り始めた。

 だが勿論、その程度で鍵が開く筈がない。


「頑丈な鍵だ……仕方がない。諦めよう」

「諦めるの早ぇ」


 本当に諦めて牢屋に背を向けるノアに、エヴァンは肩を震わせて笑いを堪えている。堪えながら口の中で魔法式を唱え、手を牢屋の鍵に翳した。

 カチリと刻み良い音を立てて、牢屋の鍵が開く。


「あんたが開けられるなら、ノアにやらせる必要無かったじゃない」

「面白いかと思って」


 悪びれも無くそう言って、牢屋の扉を開けるエヴァン。

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