第5話 キャンセル料は誰のもの
「受付嬢! 依頼を取り下げる。だから手数料も返せ」
朝一番、絹の外套を着た男がカウンターに札束を置いた。依頼主――ではなく、“依頼主の従者”らしい。
私は書類を一枚引き寄せる。
「依頼は『希少鉱石の採掘』。受注済みです。規約により、取り下げにはキャンセル料が発生します」
「そんな規約、聞いてない!」
「依頼書の下段、細字で書いてあります」
従者は顔を歪め、声を潜めた。
「相手はBランクだろ? キャンセル料なんて払わせるな。上に話を通せ」
来た。こういう“圧”は毎週ある。
私は笑顔のまま、同じ声量で返す。
「通すのは規約です。ギルドは依頼主も冒険者も、同じ扱いです」
背後から足音。警備隊長フィオナが腕を組んで立った。
「ルナ、揉めそう?」
「まだ会話です。たぶん」
従者は札束を掴み直し、最後の札を切る。
「なら“調停”だ。今ここで白黒つけろ」
私は青い札に指を添えたが、すぐに止める。
「調停は条件が要ります。本人の同意、争点の固定、証拠か供託。あなたは依頼主ご本人ではありません」
「……っ」
「依頼主ご本人を連れてきてください。来ないなら、通常手続きでキャンセル料は確定です」
従者が去り際に吐き捨てた。
「貴族を相手にして、後悔するなよ」
カウンターに残ったのは、依頼書と、嫌な予感だけ。
私は奥の扉を見る。ギルド長室。――バルドに話すべき案件だ。
「フィオナ」
「うん。面倒な匂い」
「次は、本人が来る」
私の指先が、青い調停札を軽く叩いた。




