第4話 規約の結末
代理人の笑顔が薄く割れた瞬間、受付前の空気が一段冷えた。
私は調停札の光を保ったまま、結論へ向けて言葉を整える。
「整理します。争点は『薬品破損の責任は誰にあるか』」
私は表示板を指す。
「あなたは“護送中の破損”を断定しました。しかし、封印を開けたのは商会側。破損の発生地点は不確定です」
代理人は言い返そうとして、口を開いた。
「だ、だから! 部下が——」
表示板が淡く震える。
私は先回りするように、依頼書の条文を読み上げた。
「本依頼・注意事項。『封印保持は依頼主の責任。開封後の破損は依頼主負担』」
冒険者二人が目を丸くする。新人も「そんな一文……」と小さく呟いた。
代理人は視線を逸らした。
その反応だけで十分だ。私は最後の確認に入る。
「では質問。あなたは封印を開けた後、破損を確認した」
「……はい」
「それを“護送中の破損”と主張した」
「……っ」
表示板が強く光る。
【虚偽:2】
周囲がどよめいた。
「二回目だぞ」
「調停で虚偽重ねるの、自爆じゃ……」
私は淡々と宣告する。
「調停の結論。冒険者の過失は認定されません。弁償請求は棄却。依頼の精算は通常通り行います」
青い顔だった冒険者が、息を吐いて崩れ落ちそうになる。
「そして、虚偽申告のペナルティです」
調停札が“規約”を呼び出す。表示板の下に新しい文字が浮かんだ。
【ペナルティ:当該商会の依頼 審査強化/代理人登録の再確認】
代理人の顔色が変わる。
「待て! そんな——」
「待ちません。規約です」
フィオナが一歩前に出た。笑顔だが、目が笑っていない。
「窓口で揉めるなら、外で揉めよっか?」
代理人は瞬間で言葉を失った。生命の危機を感じたらしい。
騒ぎが収まった頃、奥の扉が開いた。
ギルド長バルドがこちらを見て、短く頷く。
「よくやった。……ルナ、後で来い」
「はい」
仕事の顔で返事をしたのに、胸が勝手に跳ねる。
バルドが戻るのを見送り、私は最後の書類に判を押した。
窓口に戻ると、新人が小声で言った。
「ルナさん……この商会、他にも似た事故が……」
私はペンを握り直す。
——一件は終わった。けれど、終わり方が“綺麗すぎる”。
誰かが仕組んでいる匂いがする。
「大丈夫。次は“条件”を揃えてから、もっと深く切る」
私は笑顔で次の番号札を受け取った。
ギルドの平和は、今日も窓口で削られていく。




