第3話 供託の銀貨
「商会の代理です。弁償の手続きを——」
笑顔の男がカウンターに身を寄せた。香水がきつい。私は一歩だけ、距離を取る。
「まず確認します。あなたは“正式登録された代理人”ですか?」
「もちろん。印鑑もありますし」
「印鑑は誰でも押せます。登録証を」
男の笑顔が一瞬だけ固まった。
そこへフィオナが背後から覗き込む。「登録証、出せるよね?」
男は渋々、薄い札を出した。新人が確認し、頷く。——最低限、形式は整っている。
私は机上の依頼書を挟んで、冒険者二人と代理人を見渡した。
今なら、条件が揃う。
「では、調停を提案します。争点は一行——『薬品破損の責任は誰にあるか』」
冒険者たちが頷き、代理人も肩をすくめる。「望むところです」
私は青い調停札を置いた。
「ただし三つ。①全員の同意、②争点固定、③証拠か供託。証拠がないなら供託を。主張が崩れた側は供託の三割が手続き費です」
「供託? こちらは被害者ですよ」
「被害者でも、主張には担保が要ります。規約です」
代理人は笑顔のまま、銀貨を置いた。「銀貨三枚で足ります?」
「はい。では開始」
札が淡く光り、空中に表示板が浮かぶ。ざわめきが消える。
“嘘が数になる場”。ここでは言葉が軽い者から沈む。
「確認します。代理人は『冒険者の過失で破損した』と主張する」
「はい」
「冒険者側は『過失はない』」
「ない!」
「次。破損は“護送中”に起きた」
代理人が即答する。「当然です」
表示板が光った。
【曖昧:1】
「……曖昧?」代理人の眉が動く。
私は淡々と続けた。「破損を確認したのは、いつ、誰が、どこで?」
「倉庫で、部下が」
「受け取り時点で封印は?」
「……封印は、こちらで開けましたが——」
その瞬間、表示板に文字が走った。
【虚偽:1】
冒険者二人が息を呑む。
フィオナが腕を組み、にっこりした。「今の、嘘だったんだ」
私は静かに畳みかける。
「封印を“開けた”なら、破損が護送中だと断定できません。さらに——」
私は依頼書の末尾を指で示す。
「この依頼、『封印保持は依頼主の責任』って書いてありますね。読んでます?」
代理人の笑顔が、薄く割れた。




