第九話 戦
数日後、マヤとアーリアはニコさんに呼び出された。
「マヤ、そしてアーリア。ザグレシアのアジトを特定したわ。ここにあるはずよ。」
そう言ってニコさんが渡してきたのは一枚の地図。地図上には丸で示した場所があった。
「ありがとうございます!行ってみます!」
王国を出たアーリア達はそれほど過酷ではない道のりを進んで行った。運がいいことに、あまり魔物も出てこず、平和な旅が続いた。
アジトに着いた時、アーリアは思わず息を呑んだ。そこは古びれた城の一角だった。マヤは勇気を振り絞って杖を構え、突撃の準備をした。アーリアは鼓動が高まり、風魔法たちを上手く使えるか不安だったが、アーリアは意を決した。
「ドラゴンたちの魂を返せー!」
そう言ってマヤは城のドアを魔法でぶっ壊した。すると奥からカツカツと足音が聞こえてきた。
「あれあれぇ〜…お客さんならドア壊さないでよぉ。」
そう言って暗闇から出てきたのはメガネで白衣姿の青年だった。彼の目が一瞬こちらを睨んだその瞬間、彼の背中からは触手が伸び、こちらへ向かってきた。
「ひっ?!」
アーリアは咄嗟に避け、杖を握りしめた。
「アーリアちゃん、…行くよ!」
「うん…!」
アーリアとマヤは目配せをし、青年に向かって飛び込んだ。
「あーあ、友情ごっことかいいからぁ。」
彼は気だるそうに、しかし巧みに触手を操りながらマヤたちを足止めした。触手はアーリアの足に絡みつき、引きずり倒した。しかしマヤが機転を効かせ
「ライジン・ライド!」
マヤの雷属性の技が城中に響き渡り光を発した。雷の刃はアーリアの足スレスレを通って見事触手を切り離した。
「もぉ。うちの子たちが可哀想でしょぉ。」
そう言って彼は触手を撫でた。マヤは怒りを覚えながらもさらなる技のため魔力を溜め込んだが、触手はあらゆるところから伸び、死角からマヤの両腕を縛り上げた。
「痛っ…!」
「マヤちゃん!!」
アーリアは触手を引き剥がそうと一歩踏み出したが、背中に冷たい風を感じてその足は凍ったように止まった。
「さっすがヴェルナさん!こいつ捕まえたんだぁ!」
アーリアが後ろを振り向くと、あの時、図書館で戦ったナトとナミールがいた。
「なんであなたたちが…!」
振り向いたマヤが声をあげる。
「だってここ俺らの家だもん、AVA様に会いたいなら俺らと戦いな!」
そう言ってナミールは例の杖を取り出した。その時、マヤはアーリアに向かって叫んだ。
「アーリアちゃん!彼は闇属性よ!喰らったら私でも立てないほどなの!!」
アーリアは目を見開いた。そして死を覚悟した。目の前に揺らぐ狂気、マヤの必死さ、色々なものがごちゃ混ぜになって何一つ頭に入ってこず、耳を通って耳から抜けていった。
「…でも、私はドラゴンたちを助けるんだもん。」
アーリアはナミールたちを睨んだ。しかしナミールの顔が曇る。
「…そういうの…」
ナミールがぼそっと呟く。アーリアは様子がおかしいことに気づき静かに身構える。
そしてナミールは口を開いた。
「そういう“善”って大っ嫌い。」
ナミールの顔からはいつもの笑顔は消え、こちらに明らか嫌悪を抱く鋭く光る目になった。ナトは相変わらずこちらを睨むだけ、ヴェルナも不満そうな顔でこちらを見つめ、マヤの腕を締め付けるばかり。
そして今ザグレシアのアジトでアーリアとナミールの戦いが始まろうとしていた。
しばらく睨み合っていると突然、ナミールが杖を振って呪文を唱えた。
「善には罰を。罰点。」
あの時の純粋に戦いが好きそうだったナミールとはもう違う。彼は絶対的敵対心をむき出しにしていた。今マヤは身動きが取れず、アーリアは三人の敵に囲まれてしまっている。
その時、城の中に黒い靄が広がり、アーリアたちの視界を遮った。ナミールの魔法だろう。そこでアーリアは思い出した。
「…光魔法…!」
アーリアは魔力を最大限まで使うイメージで目を瞑った。そして目を開けたと同時に呪文を脳内に響くほど叫んだ。
「ルミナス・フレスト!!」
すると靄なんてなかったように煌めく光が広がった。
「…!アーリアちゃん!!」
マヤも驚きと歓喜が混ざったような声を上げる。
アーリアの光によって驚いたヴェルナは思わずマヤを離してしまう。
「ありがとうアーリアちゃん!」
マヤは綺麗に着地をして再び立ち上がった。
するとさっきまで一言も話さずこちらを睨んでいたナトが前に出た。
「ナミール、下がっていろ。貴様ら、俺が相手だ。」
そう言ってナトは二人にショットガンを向けた。しかしその時、
「二人とも!」
アーリアとマヤを横切る一本の炎の矢。サルベスだった。
「サルベスちゃん!」
マヤは驚いて振り向く。サルベスは容赦なくナトに向かって矢を放った。しかしナトは慣れているようにするりと矢を避け、ショットガンには魔力が大きく溜められていた。
そしてナトのショットガンから開け放たれた魔力を纏った弾丸はサルベス目掛けて飛んでいった。
サルベスは遠距離攻撃なため、相手も遠距離だと不利になってしまうのだ。遠距離の相手に慣れていないサルベスは、攻撃する間もなく避けることしかできなかった。
その隙を狙ってアーリアとマヤは攻撃を開始する。
マヤが撃った電気はナトに向かって一直線に走った。しかし…
謎のバリアに跳ね返された電気は床を伝ってマヤたちの元まで戻ってきた。咄嗟に浮遊魔法を使ってアーリアと自分を浮かせたマヤ。そしてマヤはナトを見て目を見開いた。
「あれは…防御魔法…?!」
防御魔法はこの世界の住人でも限られた人しか使えないとても難しい魔法だ。そんな魔法を目の前にしてマヤは固まる。
しかしサルベスもアーリアも、もちろんマヤも諦めなかった。
「みんなしつこいよ!」
ナトの後ろからナミールが野次を飛ばす。
「しつこいのはあなたたちよ!魂を返しなさい!」
マヤはナトと必死に戦いながら叫んだ。その時後ろでサルベスの叫び声が響いた。
「きゃあ!!」
アーリアとマヤが振り向くと、そこには胸から血を流して息を荒くするサルベスがいた。
「そんな!」
アーリアは驚き、叫ぶ。この場に回復魔法を使えるものはいない。使ったところで、傷が深すぎて治らないだろう。サルベスはだんだん足に力が入らなくなり、死を確信した。
そしてサルベスは呆然とするアーリアたちに言った。
「あとはよろしく…お願いね。アーリアちゃん、ドラゴンたちを助けて…」
そう言ってサルベスは目を瞑った。
「そんな…!」
マヤはわなわなと口が震え、手を伸ばす。しかしそんな状況をナトたちは真顔で傍観し続けるだけだった。
「ふん。弱いぞ。」
「あーあ。お友達死んじゃったねぇ。」
ナトはうずくまるサルベスを見下ろし、ヴェルナは壁に寄りかかってアーリア達を冷やかす。
「う、うるさい!あなた達それでもサードなの?!」
マヤが必死に訂正するよう叫ぶが、彼らの耳には何一つ響かなかった。




