ラットリ編
マチェーテと戦ったアーリアは、観客席でとある少女に話しかけられた。
「お姉ちゃんさっきのすごいね!ラットリと戦ってくれない?」
そのうさ耳の少女は目を輝かせてアーリアを上目遣いで見つめた。アーリアはラットリという少女に乗せられて承諾をした。
「ぴょんぴょーん!ラットリ負けないもんね!」
軽々飛び跳ねるラットリは準備運動をしながら胸を張ってアーリアに指を突きつけた。アーリアが目を向けると観客席は騒然としていた。風が吹き荒れる中、アーリアとラットリは握手を交わした。
「よろしく、アーリアお姉ちゃん!」
その時、
「始め!」
司会席から合図が上がった。ラットリは水の使いのようで波がアーリアに押し寄せる。
アーリアはすぐさま竜巻を起こし、水と校庭の砂を巻き上げ、天空へ大きな渦を作った。
「すごいすごい!負けないよ!」
ラットリが作り出した水の刃はアーリアの竜巻を切り裂いてアーリアの目の前まで空を切った。
アーリアは間一髪で躱し、水の冷たさを感じながらも観客を騒然とさせるほどの強風を巻き起こした。
「わー!すごいすごい!」
ラットリは楽しそうに風を受けながら地面を踏み締めた。
風圧でラットリの頬に血が滲む。しかしラットリは表情を変えずそれどころか、アーリアの目にはさらに楽しんでるように映っていた。
小柄なラットリの力とは思えないほどその魔法は強力だった。水は校舎に向かって渦を巻き、アーリアはその水の渦に足を取られた。
「くっ…!」
アーリアは思わず目を細めた。水で視界がぼやけて視界を奪われる。しかしアーリアも気は抜かなかった。アーリアは空気を圧縮し、水の動きを弱めた。
その技にラットリも観客も驚いたように目を見開き、アーリアを見つめた。
「お姉ちゃんやるじゃん!ラットリ、感動!」
ラットリはそんな言葉とは裏腹に、さらに攻撃を強めた。足元は水で水没し、アーリアの足を重くする。アーリアの風に煽られ大きな波紋を作るラットリの湖。
数分間は二人の押して押し返す攻防戦が続いた。観客は息を呑み、マヤもラットリの意外な強さにドキドキの汗を流す。
「本気出しちゃうもんね!」
その時、ラットリの目が光ったように見えた。彼女は手を掲げ、息を吸って魔法を唱えた。
「真紅の恵み、アルデラ・フロート!」
技名がこだました瞬間、校庭には大きなシャボン玉のような空間が広がり、アーリアは身構えた。ラットリの水流はシャボン玉中に広がり、広大な膜を張った。行動範囲が狭くなり、アーリアはどう動こうか思考を巡らせていた。
そしてアーリアも行動を起こした。
「閃光、ウィンド・エアリア!」
その時、アーリアの周りの空気が軽くなり、アーリアは身軽に動けるようになった。そして風も、アーリアは全力でラットリにぶつけた。膜の中での戦いのため周りに影響はないが、膜の中は水と風がぶつかり合う戦場と化していた。
ラットリは水をシャボン玉内を満たしそうなほど埋めていき、魔法で少し体を浮かせたアーリアの腰まで浸かってしまった。
アーリアはこの事態に少し顔を顰めたが、まだ作戦は残っていた。魔力調整に慣れたアーリアは一気に使い切ることなく戦うことができている。その成長を見守ってきたのはマヤだった。マヤはアーリアにこの世界を、魔法を、事件を教え、アーリアがここに落ちてきた頃からずっと寄り添ってきた。そしてアーリアの成長を目の前に、マヤは応援をしながら静かに涙を流した。
そしてアーリアは風でこの膜を破ることを決めた。息を吸って一度吐く。胸に秘めた思いを、魔法を、今ここで全力を込めて叫んだのだ。
「エメラルド・フローラル!」
その時、膜内には先程を超える強風が吹き荒れ、水は大きく揺れ、水飛沫を上げた。
「すごいすごーい!」
ラットリは自分の勝ち負けなど気にしていないようにただただアーリアの技にはしゃいでいるようだった。
そして風圧の限界に達した膜は破れ、膨大な水が校庭に流れ込んだ。
観客は騒然としたが、空には虹がうっすらと浮かび上がり、アーリアの技の甘い香りが風に乗って空を満たした。
「ありがとうアーリアお姉ちゃん!」
ラットリはニコッと笑ってアーリアと終戦の握手を交わした。校庭の神秘的な姿に観客たちは歓声と拍手を上げ、マヤはアーリアの背を見ながらきゅっと口角を上げた。




