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第十話 快凛は“この世”

「くだらない。善など貴様らの嘘だろう。」

そうナトが言ったその瞬間、ナトにはヤギのツノが生え、只者ではないオーラを放っていた。アーリアとマヤは冷や汗が流れる。悪魔のようなオーラを纏ったナトを目前に。しかしマヤは歯を食いしばった。

「くっ…アーリアちゃん、やるよ!」

「う、うん…!」

マヤはナトの前に一歩踏み出した。

「エレキレル・リアライズ!」

電流がマヤの杖に走る。しかしナトのショットガンにも青い光、クリスタルの光が光っているのが見えた。

「貴様如きが。」

ナトはマヤへ一発、銃声を響かせ、目の前にクリスタルの青い光線が広がった。マヤはショットガンを武器にしている魔法使いなんて会ったことがなかったので弾の速さに応えることができず、もろに喰らってしまった。アーリアにマヤの返り血がつく。アーリアは頭が真っ白だった。目の前で命の恩人が血を流して倒れている。手が震え、足から恐怖が込み上げてくる。心臓の動きがドクドクと眼に見えるように頭に浮かぶ。やっぱり私に世界なんて救えるはずがない、立ち向かってた自分が馬鹿らしい。と。

サードは軽い傷なら自然回復ができるが、深い傷に自然回復は不可能だった。アーリアは冷や汗がダラダラと足先まで伝う。

苦しそうにアーリアの名前を呼ぶマヤを見てアーリアは涙が込み上げてきた。もう戦う気も起きなかった。


その時、後ろから声がした。

「ねえ、“アーリア”。」

低くも高くもない声、幼いような、大人びているような。でもアーリアには聞き覚えがあった声だった。それに、アーリアの名前を知っていた。

その時、頬スレスレの風を切って飛んできたナイフがナトたちを圧倒する。

アーリアは希望の光を見た。隣にサラサラと靡く黒い髪、低身長、落ち着く声を併せ持つ人物が立った。

そしてアーリアの記憶は蘇った。

快凛だ。

「なあアーリア。俺と約束したよな。」

快凛は前を向いたまま話しかけた。

もちろんアーリアは覚えていた。アーリアが横を向くと快凛もこっちを向いていた。

「…強くなった?」

アーリアはその言葉でマヤと特訓した日々、出会った仲間たち、短かったが暖かかった日常、全ての記憶が重なり、体が熱くなった。

「そこのお友達さん、助けたいんだろ?」

快凛は意味深にアーリアの鞄を叩き、マヤを指差した。

アーリアは鞄を叩かれて思い出した。…リザの回復薬だ。

急いで鞄から回復薬を取り出し、マヤに飲ませた。するとみるみる傷は癒え、完全に回復したのだ。

なぜ快凛が、アーリアがリザから回復薬を買ったことを知っているのかはわからない。でも今は、彼は敵ではなく心が通じる仲間だった。

「でもまだお友達辛そうじゃん?」

快凛の言葉にアーリアは頷く。

「…俺らで戦おうじゃん。」

そう言って快凛はナイフを取り出し回した。ナミールは快凛の登場にさらに嫌悪感を増したようだった。

敵同士だったはずのアーリアと快凛。そして今ここで”仲間“として再び出会ったのだ。そしてアーリアは快凛との約束も果たした。


『次会ったら、もっと強くなってきな。“あっち”に戻れるくらい。』


アーリアは地面を踏み締めた。ドラゴンたちのために快凛との約束のために、マヤのために。そして仲間達のために。


「スライス・ゲイン!!」


アーリアの叫びで風が繰り出す刃が飛び交う。ヴェルナもナトもナミールも、アーリアの豹変に驚き一歩後ずさる。

アーリアの風はナミールの頬を切り、ナトの視界を奪い、見ていたマヤはアーリアの力に驚いていた。

快凛はナイフを巧みに操り、魔力を最大限までに込めた。

「さ、ショータイム。」

快凛のナイフはナミールの胸目掛けて飛んでいった。しかし直前でアーリアはナイフを風に巻き込んで止めたのだ。

快凛は驚いてアーリアを見つめる。身構えていたナミールも驚いた様子で目を開ける。

「…私、和解したい。」

その言葉に快凛は一瞬固まったが、再びナミールたちの方を向いた。

「…だってさ。」

そう言って恐怖心も何もないかのように快凛はナトとナミールに近づく。

「俺はどっちでもいいけど、こいつは傷つけたくないらしいからな。どう?」

ニヤリと笑った快凛は後ろ手でアーリアを指差した。

そしてナミールが口を開いた。

「…いいよ。降参したあげる。その代わり、AVA様を説得するのは難しいから。」

そう言って真顔で去って行き、ナトもヴェルナもナミールについていくように奥の部屋へ行ってしまった。

「ほらよ、行こう。お友達も連れてって。AVAたるやつと決着つけようぜ。」


アーリアはこの世界に来てから、なんでも根気強く教えてくれるマヤ、アーリアの成長心をくすぐってくれた快凛、もちろんアリーシェル先生もサルベスにも。仲間たちがいてこそ成長できてる自分がいると、再び強く思ったのだった。

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