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タネは明かせませんが、叩き潰して過分な御褒美をいただきました

作者: 満原こもじ

「わあ、アナベラ様すごいです!」

「本当、全然タネがわかりませんわ」


 王立学園で級友の皆さんに手品を披露していたところです。

 手品はわたくしの得意とするところですからね。


 小さい頃、旅芸人の見せてくれた手品は衝撃的でした。

 どうしてコインが消えたりカードの数字が入れ替わったりするのでしょう?

 鮮やかな技は幼心を魅了しました。


『てじなしさん。これはどういうしかけなの?』

『おっと、お嬢さん。手品師はタネを明かさないものなんだぜ』


 言われ慣れていることだったのでしょうね。

 そのセリフすらも格好良く、今でもハッキリ覚えております。

 以後十年以上、わたくしは手品の技を磨き続けてきました。


 これは言ってはいけないのですが、神様に手品の異能をいただいたということもあります。

 熱心に祈ったからか偶然なのか、神様は『両方だよ。それだけじゃないけど』と笑っていらっしゃいましたが。

 ともかく人に見せられる腕前になりました。


 今日なんか第一王子マシュー殿下も興味深げに見ていらっしゃいますからね。

 腕が鳴ります。


「すごいですわあ。もう一度見せてというのはダメなんですよね?」

「はい」


 同じ場で同じ手品を二度披露してはいけない、というのは手品師の心得の一つですからね。


「では違う技はいかがでしょう? ここに一枚のコインがあります」


 右手のコインを見せます。


「よく見ててくださいね。ぎゅっと握ると……」


 右手を結んで開くと、もうそこには何もありません。

 皆様の驚いた顔。


「左手に移動しています」


 左手を開くとコインが。

 拍手喝采です。


「いやあ、見事な技だ。魔法とかではなくて手品なんだな?」

「はい、手品です」

「素晴らしい!」


 マシュー殿下にお褒めいただきました。

 嬉しいものですね。


「また披露してくれたまえ」

「もちろんですとも」


          ◇


 ――――――――――第一王子マシュー視点。


「アナベラ・クロイドン伯爵令嬢についてどう思う?」


 学園の同級生リックに尋ねる。

 リックは喋ったことがウソか本当かを見抜く異能持ちなのだ。

 だから将来の側近候補として僕につけられている。


 異能、それは稀に神から授けられることがある、人知を超えた力だ。

 優れた異能は当然のことながら有用である。

 ただ異能は使えるレベルにまで育てるのが難しいそうだ。

 リックも初めは情報量が多過ぎてわけがわからなかったと言っていた。


「あの手品と称する技についてですよね」

「うむ。あれは小手先の技なんかじゃない。魔力が介在している」

「ということは、魔法で例えば手から手へコインを移動させている?」

「どうかな」


 僅かな魔力で物体を転移させる?

 僕も魔法にはある程度造詣があるが、そんな洗練された魔法なんて存在しない。


「殿下の質問に関して、アナベラ嬢が手品だと肯定したことですが。あれは真です」

「ふむ、つまり本当に手品だということか」


 リックが言うならば確かだ。

 ではアナベラ嬢の手品の時の魔力は?

 タネに一種の魔法を使っている?


「というか、アナベラ嬢本人が手品だと思い込んでいるのではないでしょうか?」


 リックの言ったことは意外だ。

 手品を超えた不可思議な術であるのに、アナベラ嬢は手品だと信じている?

 そんなことあり得るのか?


「根拠は?」

「以前アナベラ嬢が手先はさほど器用ではない、と言っていたのを聞いたことがあるんですよ。その言葉も真でした」

「……普通に考えれば、あれほど見事な手品を披露するなら、相当器用じゃないとあり得ないな」

「かなりの修練によって可能になるということはあるのかもしれません。しかしアナベラ嬢の手品は即興が多いです。ちょっと考えられないですよ」


 ならばリックの言う通り、アナベラ嬢が手品と思い込んでいるだけの別物なのだ。


「となると、何らかの異能の可能性が高いか」

「異能だとすると、物の位置を入れ替えるというものだと思います」

「確かめる必要があるな」


 感嘆するほどスムーズな技だ。

 もし本当に異能なら、大変な努力の末に身につけたものだろう。


「異能は神に他言を禁じられるケースがあるのだろう?」

「らしいですね」


 リックは禁止されなかったらしい。

 もっともリックの異能は、人に言うのを憚られるものだからかもしれない。


「工夫が必要だな」

「こういうのはいかがですか? 例えば……」


 ええ?

 リックは大胆だな。

 そんな方法でうまくいくと思ってるのか?


「失敗してもジョークで片付けられますから」

「なるほど?」


 やってみる価値はあるか。


          ◇


 ――――――――――学園生徒会室にて。アナベラ視点。


 第一王子マシュー殿下に呼び出されました。

 何でも生徒会関係の用事だそうで。

 マシュー殿下は生徒会長でもありますからね。

 マシュー殿下のような素敵な方のお手伝いができると思うと嬉しいです。


 生徒会室をノックします。


「アナベラ・クロイドン参りました」

「入ってくれたまえ」


 室内にはマシュー殿下とお付きのリック様がいらっしゃいました。


「よく来てくれた。早速だが天井を見てくれるかな?」

「天井ですか?」

「生徒会室は準備室の上がロフトになっていてね。おかげで資料をたくさん溜め込めるのだが、いかんせん天井が高い」

「はあ」

「あそこを見てくれるか。ボールが引っかかっている」

「あっ、本当ですね」

「アナベラ嬢の手品の技は見事だった。アナベラ嬢の技ならば、あれを取れるのではないかと思ってね」


 なるほど、そういうことでしたか。


「お任せください。はい、取れましたよ」


 用は終わりですかね。

 あら、マシュー殿下もリック様も怖い顔をしていらっしゃいますが。


「……リックも手品を嗜むんだ。アナベラ嬢も見てやってくれるかな?」

「ありがとうございます!」


 他人の手品を拝見できるのは久しぶりですね。

 カードを使うようです。

 わあ、慣れた手つきですね。


「アナベラ嬢、一枚引いて、そのカードが何か教えてくださいますか?」

「はい、ええと、杯の騎士です」

「では戻していただいて、シャッフルします。現在一番上にあるカードは……剣の三ですね」

「はい」

「ハンカチをかけて、やっ! と気合いを入れますと」

「あっ! 一番上のカードが杯の騎士に!」


 リック様も手品がお上手ですねえ。


「では今度はアナベラ嬢がシャッフルしてください」

「はい」


 しゃしゃっとシャッフルしてリック様にお返しします。


「もう一度ハンカチをかけて、やっ! と気合いを入れます。アナベラ嬢、一番上のカードを確認してください」

「あっ! 杯の騎士です!」


 見習うべきテンポの良さでした。

 リック様は上級者ですねえ。


「アナベラ嬢ももちろん同じことができると思う。しかし今からリックの手品のタネを解説する」

「えっ? でも……」


 タネは明かさないのが心得なのですが。


「心配はいらない。リックは手品師ではないからね」

「言われてみるとそうですね」


 ええと、二枚いっぺんにめくったり手にカードを隠したり?

 わたくしのとは全然違う、思いもよらぬタネでした。


「随分とテクニカルなことをされていたのですね。驚きでした」

「普通の手品とはこういうものなのだ」

「普通の手品と言いますと?」

「アナベラ嬢のように異能を駆使するのは普通ではない、ということだ」

「!」

「どうもアナベラ嬢は自分の異能を手品に用いるものと勘違いしているようだが、全くの別物と思われる」


 ええっ? 驚きです。

 ……思い返してみると、神様は手品の異能とは仰らなかったような。


「もしリックがアナベラ嬢のような手品を使えるなら、ボールの回収にアナベラ嬢を呼ぶ必要はなかった」


 ごもっともでした。


「異能については神に他言するなと言われているかな? 頷くか首を横に振るかで教えてくれればいい」


 頷きます。


「やはりな。アナベラ嬢の異能は、アナベラ嬢自身が考えているより多くのことができるように思える。今までのように手品を見せるのは構わないが、異能をもって物事を解決するところを他人に見られてはいけないよ。異能持ちだと知られると、危険な目に遭うかもしれない」

「わ、わかりました。失礼いたします」


 生徒会室から退出します。

 危険だったようです。

 異能持ちと知られると、誘拐の対象になってしまうとか?

 確かにわたくしの技は悪いことにも使えますからね。


 今まで全て手品が得意で通るものだと思っていましたが、認識を変えなければいけません。

 マシュー殿下に一発で見抜かれてしまいましたもの。


 殿下はわたくしに注意してくれるという意図があったんですね。

 ありがたいです。

 異能は手品らしい手品を披露する時にだけ使いましょう。

 でもわたくしの異能の正体って何なの?


          ◇


 ――――――――――学園生徒会室にて。第一王子マシュー視点。


「危ういな」

「はい。あんなので今までバレていないことが不思議です」

「手品が得意というのが、うまい具合に隠れ蓑になっていたんだろう」


 いや、リックのアイデアがおかしい。

 天井のボールを手品で取ってくれだなんて。

 普通は考えつかないだろ。


「アナベラ嬢の人間性はどうだ? リックの見る限り」

「善良で有能です。実際に手品を通して幅広い人間関係を構築しているわけですし」

「うむ」

「ゆくゆくはアナベラ嬢の才覚に相応しい地位が与えられんことを」


 つまり僕の婚約者に適格だと見ているわけか。

 しかし……。


「ガートルード・ピルチャーガウム公爵令嬢だが」


 ハハッ、普段は完全に表情筋を制御しているリックがこういう顰め面を見せるのは、僕の前だけだ。

 ガートルード嬢はその身分から僕の婚約者候補ナンバーワンと目されている。

 ただ虚飾に満ちた令嬢として、リックは毛嫌いしているのだ。


「まさか殿下はガートルード嬢を婚約者とすることはないのでしょう?」

「ない、と言いたいところだが」


 ……ピルチャーガウム公爵家は成り立ちが複雑だ。

 元々我が国ロールスと隣国ベルリカの境辺りを根拠地としていた古い豪族で、歴史上我が国についたりベルリカについたりしている。

 現在は我が国に従っているというだけの存在に過ぎない。

 とはいうものの我が国一の大貴族であることは間違いない。


 確かにガートルード嬢が僕の婚約者になれば、ロールス王家とピルチャーガウム公爵家の結びつきが強くなる。

 が……。


 どうやらベルリカとピルチャーガウム公爵家は、密かに連絡を取り合っているのだ。

 またベルリカは戦争準備を進めている。

 矛先はおそらく我が国。


 ベルリカに与するのか、あるいはガートルード嬢を僕の婚約者に送り込んでベルリカを牽制するつもりなのか。

 ピルチャーガウム公爵家の思惑はわからない。

 どちらに転んでも得するように立ち回るんだろう。

 ピルチャーガウム公爵家は信用できない。


「ガートルード嬢を婚約者とした方が、ピルチャーガウム公爵家の出方を掴みやすいのかもしれん。リックの異能があればな」

「よくないですよ。ピルチャーガウム公爵家を重視するという、誤ったメッセージを臣民に与えてしまいます」

「もっともだ」


 難しいな。

 最終的には父陛下の判断になるが。


「まあベルリカが真に我が国をターゲットにしていると決まったわけでもない。今僕達にできることは何もないな」

「アナベラ嬢の処遇ですが」

「放っとくわけにはいくまい。生徒会の庶務に任命するのはどうだ?」

「名案です」


 リックの考えのように、僕の婚約者にというのは飛躍し過ぎだろう。

 しかし異能持ちの貴重な人材ではある。

 確保しておきたいのは当然だ。

 生徒会庶務に任命し、手品の異能でボロを出さないようレクチャーするのがこの際最善と思われる。


「クロイドン伯爵家には、僕達がアナベラ嬢の異能を把握していることを連絡すべきだな」

「陛下への報告が先ですよ」

「うむ。だが父陛下に報告するのには、僕達がアナベラ嬢について知っていることが少な過ぎる」

「アナベラ嬢について一般に知り得る情報を調査させるとともに、我々は彼女の異能で何ができるのかを知るべきです」


 リックの言う通りだ。

 まずアナベラ嬢に信頼されねばならないな。

 そうだ、僕の魔法知識と引き換えでいいんじゃないかな?

 パッと見、アナベラ嬢の魔力量は多そうだから、素質は十分だ。

 結構な使い手になれると思う。


「ベルリカとピルチャーガウム公爵家の動きが読めません。急ぎたいところですけれども」

「展開次第だな」

 

          ◇


 ――――――――――ピルチャーガウム公爵家領にて。アナベラ視点。


 怒涛の展開でした。

 わたくしは生徒会の庶務の役を仰せつかりました。

 手品の異能について、わたくしの常識に欠けたところがございますので、フォローしてくださるそうです。

 とてもありがたいことです。


「ではアナベラ嬢は、見えているものならば知っているところへ移動させることができると」

「はい。大きさに制限はあるのですけれど」

「どのくらいまでなら大丈夫なのだ?」

「家一軒分くらいでしょうか」


 マシュー殿下とリック様が呆れておりますが。

 えっ? 話していいのかですって?

 異能持ちであることを話しちゃいけないのであって、内容について話してはいけないと言われてないですから。


 色々異能を使うに当たっての注意点を教えていただきました。

 大変ためになります。

 おまけに本来秘密にすべき異能について根掘り葉掘り聞いて悪かったと、魔法を教えていただけることになりました。

 

 魔法は身体に内在する魔力を用いて現象を起こす、特殊な技術です。

 マシュー殿下が魔法の使い手であることは有名ですが、まさかわたくしが教えてもらえることになろうとは。

 何と幸せなことでしょう!


「アナベラ嬢は筋がいい。というか何故すぐに自分の魔力を把握できるのだ?」

「手品を行う時の感覚に似ていると気付きました」


 どうやらわたくしの異能は魔力の使用が根幹にあるようです。

 回復魔法をはじめ、いくつかの基本的な魔法はすぐ使えるようになりました。

 マシュー殿下様々です。


 幸せな時間は長く続かず、隣国ベルリカが攻めてきました。

 わたくしも回復魔法が使えるようになっていましたので、貴重な癒し手としてマシュー殿下とともに従軍しました。

 しかし最悪なことに、ロールス王国一の大貴族ピルチャーガウム公爵家が裏切ったのです。


 王国の禄を食んでいながら、危急時に裏切るとは何事!

 臣下の風上にも置けぬやつ!

 許せませんけれども、我が軍はベルリカとピルチャーガウム公爵家に挟まれた位置に孤立してしまいました。

 我が軍はそれなりの規模なので、正面からかかってくるようなことはないそうですが、こちらが動くと挟撃されそうとのこと。


「問題はもう一つある。魔道砲だ」

「魔道砲?」


 ベルリカが秘密裏に開発した魔道兵器だそうです。

 充填した魔力を圧縮して撃ち出すもので、通常の魔道結界程度では防げないとのこと。

 マシュー殿下と軍を率いる将軍が口々に言います。


「現在は魔力充填中と思われる」

「ベルリカは我が軍中核に魔道砲を撃ち込み、混乱したところに攻めかかってくるものと思われます」

「大変ではないですか!」

「アナベラ嬢。ベルリカ軍から放たれた魔道砲を、ベルリカ陣内に落とすことはできるか?」


 あっ、それでマシュー殿下はわたくしを連れてきたのですね。

 わたくしも癒し手以外に貢献できそうで嬉しいです。


「発射されたところを見ることがかなうならば」

「よし」

「マシュー殿下。魔道砲をベルリカ陣内に落とすとはいかなる意味で?」

「文字通りの意味だ。アナベラ嬢はそれを可能にする異能を持っている。なおこの件に関しては他言を禁ずる」


 将軍以下、幕僚の皆さんが驚いた顔をしています。

 見つめられると照れますね。


「魔道砲の発射がいつになるかわかるか?」

「蓄積魔力量が威力に直結するのでしょう? 可能な限り魔力を充填したいのではないでしょうか?」

「我が軍の援軍の到着まで、一〇日なかろうと思います。ベルリカも間違いなく把握しているでしょう。当方にピルチャーガウムを挟撃する機会が訪れる前には、必ず撃ってきます」

「ふむ、ならば数日中だな? よし、ベルリカは魔道砲発射前に魔道結界を外すから、撃つタイミングはわかる。僕の一隊はベルリカ陣を見渡せる位置に布陣する。隠蔽と遠見の魔道具を使える者はついて来い」

「「「はっ!」」」

「将軍はベルリカ陣が混乱したらピルチャーガウム公爵家の陣に攻めかかれ。ベルリカは放置で構わん。公爵家も我が軍のほぼ全軍に攻撃されるとは考えていないはずだ。不意を突くことができる。裏切り者のピルチャーガウムの縁者を一匹たりとも逃すな!」

「承知!」


 光明が見えてきました。

 と言いますか、わたくしが魔道砲を捕捉できるかにかかっているのですね。

 一世一代の大仕掛けです。

 血が滾ります!

 

          ◇


 ――――――――――王都帰還後。アナベラ視点。  


 わたくしは発射された魔道砲を、異能によってそのままベルリカ陣に向けることに成功しました。

 魔道砲のベルリカ陣内での爆発は暴発事故と思われているようです。

 結局ベルリカ軍は、総司令官の王弟及び主力級指揮官数名を失って退却。

 ロールス王国の有利な形で停戦条約を結ぶことができました。

 諜者の報告によると、魔道砲の研究は凍結のようです。

 当面ベルリカが積極的な行動を起こすことはないだろうとのこと。


 ピルチャーガウム公爵家は当然のことながら取り潰しになりました。

 旧公爵家領には代官が置かれ、ベルリカとの歪な関係を修正し、交易を活発にしようとする目論見のようです。

 簡単に言うとピルチャーガウムに全て責任を押しつけ、今後両国は友好的であろうってことですね。

 ピルチャーガウムの責任ばかりではないのですが、裏切り者に相応しい末路だと思います。


 旧公爵家領民は三年の間無税としたため、評判はいいです。

 ピルチャーガウム公爵家直系唯一の生き残りであるガートルード様は、寂れた田舎の修道院に押し込められました。

 その際自分の立場もわきまえず、高飛車なことを仰って一悶着あったようです。

 ピルチャーガウム公爵家没落の様相は大衆劇のネタとされ、結構な人気になりました。


 わたくしはマシュー様の婚約者となりました。

 クロイドン伯爵家の娘というのはやや身分がもの足りないとは思いますが、軍から強力な支持がありました。

 ベルリカ戦役に従軍したことが評価されたようです。

 

 わたくしがマシュー様の婚約者なんて、嬉しいですね。


「アナベラにはすまないことをした」

「えっ? 何がでしょう?」


 マシュー様の突然の謝罪に困惑です。

 マシュー様とリック様が代わる代わる説明してくれます。


「魔道砲はベルリカの秘密兵器で、戦場で詳細が知れたみたいな説明をしたが違うんだ」

「実は魔道砲の存在は戦前からわかっていたんです」

「実現はベルリカに一歩遅れを取ったが、我が国でも基礎研究は進んでいたから」

「そうだったのですか」

「もし魔道砲を撃たれた場合、アナベラ嬢以外に対応できませんので」

「ムリヤリ戦場に連れていくことになったんだ。騙したみたいで申し訳ない」


 そんなことをすまながっていたのですか。


「いいのです。わたくしもロールス王国の臣として誇らしいですから」

「しかし、寝覚めが悪いだろう?」

「……少しだけ」


 魔道砲をベルリカの陣に落としたことで、総司令官の王弟殿下はじめ有力指揮官が何人も亡くなったと聞きました。

 ちょっと怖いです。

 もちろん我が軍に被害が出なかったことは喜ばしいことですけれども、わたくしの異能で一〇〇名近くの命が失われたのですから。

 戦争ならば当然のことだと、頭ではわかっています。

 こんなことで思い煩うなんて、わたくしは軍人ではないんだなあとつくづく感じました。


「贖罪にはならぬと理解しているが聞いてくれるか。少しはアナベラの気が晴れるかもしれない」

「何でしょうか?」

「アナベラの話してはならない内容に近いと思うのだ。遠回しな言い方になるが許してくれ」

「はい」


 わたくしの異能に関することのようです。


「今回の件は、神に責任を押しつけておけばいいと思うのだ」

「は?」

「アナベラに異能を授けた神は誰だった?」

「神様ですか? ……あっ?」


 わたくしに手品の異能をくださったのは運命の神様でした。

 運命の神様は、正しい運命に導かれるよう手を加えることがあると言われています。

 つまり将来的に戦争に使用される運命が神様には見えていながら、わたくしに異能を授けた?

 となるとわたくしの異能の使い方は、運命の神様の意図に沿うものだったのですね?

 すっと心が軽くなった気がします。


 マシュー様とリック様が微笑みます。


「納得した?」

「ええ。ありがとうございます」


 マシュー様とリック様は、運命の神様が干渉していることまで予想なさっていたのですね。

 すごいです。


「僕は王太子となる」

「はい」

「いずれは王だ」

「はい」

「アナベラの力を貸してくれ」

「もちろんですとも」

「ありがとう」


 力強く抱きしめられました。

 意志の強い、真っ直ぐなマシュー様が好きです。

 どこまでもあなたとともに。

「泥棒し放題の異能なのですよ」

「まあな」

「しかしアナベラ嬢の思考はクリアです。後ろ暗いことを考えもしません」

「リックがアナベラ推しだった理由はそれか」

「人の上に立つ者に相応しい資質と考えます」

「だからこそ運命神もアナベラに異能を授けたのだろうな」


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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 よろしくお願いいたします。

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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
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― 新着の感想 ―
使い手次第でかなり凶悪な能力ですが、純粋で人を楽しませることが好きなアナベルだからこそ神はこの能力を授けたんでしょうね。 彼女が手品や自らの能力を嫌いにならなくてよかった。 公爵家はまあ自業自得とい…
読後感の心地よい作品でした♪ 短編に盛り込まれた設定がバランスよく散りばめられていて素敵です。
最後の「泥棒し放題の異能」ってのを見て、そう言えばそうか!と初めて気づくワタシ。でも自分だったらちょっと悪い事にホイホイ使っちゃいそうです。 アナベルがいずれ王妃となるには純粋過ぎる気もしますが、マ…
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