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#8 おんなのコの気持ち

「オスの気持ちって・・・うちにはよく分からない。」

「わかるわぁ。それって種族に関わらず、生物の永遠の課題よね。」


 放課後、アムはブランコをこいでいた。

 そして今日の相談相手は、公園で知り合ったばかりの年上のメス狸だ。


 メス狸は制止したブランコの板の上でアムの話を聞き終えると、口が裂けそうなくらいの大きなアクビをした。

「ふぁぁ・・・。彼、まだかしら。

 あと、アムちゃんだっけ? お節介かもしれないけど、もうニンゲン探しは止めにしたら?」


「エエッ?」

 アムは衝撃のあまり、ブランコから転げ落ちそうになった。「なぜじゃ!?」


「もしもよ、その三人のニンゲンのうちの一人が探してる彼だとしても、昔のことを覚えているとは限らないじゃない?」

「ニンゲンって、そんなに記憶が迷子になるのか?」

「自分にとっては大事な思い出でも、他人には印象の弱い記憶かもしれないってことよ。」


 前足の爪を一つずつ丁寧に舐めて手入れをするメス狸は、平然と答えた。    


「そんな・・・」アムはショックを隠せなくて、地面を呆然と見つめている。

 ちぃくんがアムを忘れているかもしれないだなんて、考えたことも無かった。


「それは・・・耐えられないのじゃ。」

「でしょ。

 だから昔の思い出は、無理にほじって壊すよりキレイなままでいた方がオススメ。

 それに、背伸びして物理的に結ばれないニンゲンに恋するより、タヌキはタヌキ同士で恋愛したほうが、私は幸せになれると思うけどなぁ。個人の感想だけどね。

 あ、タヌ吉来た!」

 メス狸は迎えに来たオス狸にデレながらじゃれついた。

 そしてお互いの尻尾を追いかけ回しながら公園を駆け回り、茂みの向こうに姿を消した。


「良いなぁ。好きな人が近くにいて。」

 アムが羨ましそうに茂みの向こうを見ていると、不意に遠くから声をかけられた。


「オイ、一人でなにしてんの?」


 学ラン姿のケントが公園横の歩道からこちらに歩いてきた。

「また変なケモ耳つけてんのな。それって本気でカワイイとでも思ってるの??」


(ヤバい! ケモ耳がいつの間に!?

 狸姉さんと話していて、興奮していたことに気づかなかった!!)


 アムは慌ててケモ耳を引っ込め、通学カバンに仕舞うフリをした。

「あはは~♪ うちはニンゲンのJKだから、流行(はや)りには敏感なのじゃ!」


「ふーん。大雑把に見えて、意外とSNSとか気にするタイプか。」

「まあな! それよりうちに何の用じゃ?」

「お前に用があってこの公園に来たわけじゃないし。」

 そう言いながらケントは公園の柵を軽く飛び越えると、そのままパルクールのように遊具や案内板を連続して飛び越えた。


「俺はコレが目的なの。」

 ケントは上級者用のクライミングウォールに手をかけて、素早く登り始めた。


「ケントこそ、公園は幼児の遊び場だとは知らんのか?」

 アムが冷ややかな目でケントを見ると、ケントはあっという間に上った頂上からアムを見下ろした。

「俺は遊んでるわけじゃねえ!

 毎日公園でトレーニングするのが日課なの!!」 


「ニッカのトレトレ?」

「そろそろ耳掃除しなよ。」

 ケントはクライミングロープを使って華麗に地上に滑り降りると、深呼吸して荒い息を整えた。


「ダンスだけでも筋肉はつくけど、怪我してダンスができなくなったら意味ねーからな。

 体作りのためだよ。

 この前みたいに中途半端なバトルして、後悔だけはしたくないんだ。」


 ケントの言葉に、アムも腕の筋肉がなくてジンのトレースに失敗した苦い経験が頭に浮かんだ。

「うちも筋肉があれば・・・。」


 珍しく考えこんでいる様子のアムに、ケントが優しく問いかけた。

「それなら、お前も一緒に筋トレするか?」


「そうじゃ、トレトレじゃ! うちもやる‼」

「トレトレじゃなくてトレーニングだっつーの。ホントにお前って、何も知らねーんだな。

 ゼッタイ山奥のポツンとド田舎から出てきただろ?」


「どうして分かったんじゃ?」

 アムはドキッとしながら真面目な顔でケントを見上げた。

 もしも狸の正体を見破られたら、ダンフェスを前に狸ノ森に強制送還されてしまうからだ。


「そりゃー分かるだろ。変だもん、お前。」 

 ケントはなぜか顔を赤らめてそっぽを向いた。


(うちが変? ニンゲンぽくないということ⁇ それは困る‼)

アムは焦ってパニックになった。


「ケントよ、直すからドコが変なのか教えてくれ!」

「あー! 距離感がバグってるんだって!

 とりま、 好きでもない男に際限なく近づいたり、すぐに触るのをヤメた方がいいって!!」


 興奮しながら鼻先まで近づくアムの肩を押し戻しながら、ケントがわめいた。

 アムは丸い目をクリッと瞬きすると、肩を押さえるケントの腕をヒシッと掴んだ。


「ケントのことは大好きじゃ!

 うちを助けてくれるし、口は悪いが根はイイヤツだし、嫌いではないぞ!」


「おまッ・・・。」

 ケントは咄嗟に自分の口を押さえた。一瞬にしてピアスをしている耳まで真っ赤になる。


「ちっちっ、ちぃくんが好きなんじゃなかったのかッ!?」

「ちぃくんが神だとしたら、ケントはおっきい栗じゃ!」

「・・・・・・栗?」

「食べごたえがあるから栗はおっきいのに限る!ちっちゃい栗は剥くだけムダじゃ!」

「ウザッ、ウザッ! 例えがイミフすぎて理解不能‼ あのさー・・・そーゆーとこが変なんだよ!」

「エエッ、どこが!?」


 不毛な会話に華を咲かせる二人は、茂みの中から見守る三対の目の存在には気づいていなかった。


 ※ 


「あら、どこの金髪イケメンがカワイイ公園デートをしてんのかと思ったら、ニチゲイブのケントじゃーん!」


 急に調子の外れた声がしてアムとケントが振り返ると、灰色の学ランを着た柄の悪い生徒たち三人がニヤニヤと笑っていた。

 そのうちの一人、丸坊主にヒョウ柄の模様のカラーを施した男子生徒がパンツのポケットに手を入れながらメンチを切った。


「クソ可愛い彼女連れてんなぁ。

 さすが顔だけでオーディエンス取れる男は違うよ。」


「えーと、誰だっけ?」

 ケントはめんどくさそうに眉根を寄せて坊主頭の男子生徒を見た。

「分かってんだろ・・・ヤんのか、コラァ。」


 ヒョウ柄頭の男がケントの目の前に拳をストレートに突き出してきた。

「U18の日本予選の一回戦で当たったヒロトだろが‼」


「そうだったっけ?」

 とぼけたケントを、なぜかアムが怯えた顔で見上げた。


(わーん、どうしよう! やっぱりニンゲンは、記憶が迷子になりやすいんじゃ‼)

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